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 昭和51年版 犯罪白書 第1編/第3章/第2節/3 

3 最近の詐欺・横領・背任事件の特色

 昭和50年には,被害額が巨額に上るこの種犯罪が相次いで検挙され世間の注目を浴びたが,その犯行の動機・態様において特異なものが含まれている。そのような例としては,[1]銀行女子職員が,男に金を貢ぐため,手形,伝票を偽造して他人名義の預金を引き出す等の犯行により,銀行に対し約2億1,000万円の損害を与えた詐欺等事件,[2]農業協同組合女子職員が,無担保貸付け等の不正融資により,組合に対し約11億3,000万円の損害を与えた背任事件,[3]銀行支店長が,本店に対する不満,反感から,分割貸付けという不正融資により,銀行に対し約1億1,000万円の損害を与えた特別背任事件・[4]銀行員が,コンピュータ・システムを悪用し,架空人名義の通帳を利用して預金を引き出す等の犯行により,銀行に対し約2億3,000万円の損害を与えた詐欺等事件,[5]信用金庫職員3名が共謀して,将来の事業経営の資金とするため,顧客から集金した現金を着服し,信用金庫に対し約6億3,000万円の損害を与えた業務上横領事件,[6]農業協同組合支店長が,組合員に対する貸付け等を装って現金等を領得し,組合に対して約15億6,000万円の損害を与えた業務上横領事件等を挙げることができる。
 このような被害額の巨額に上るこの種事犯が現れてきた原因としては,企業内における人事管理の不適切と監査その他のチェック・システムの不備を指摘することができる。長年その職を占めて企業等を私物化するに至った管理者や事務に精通して一切を任されているような経理担当者による犯行は,多年にわたって発覚せず,それが累積して,被害額が巨額化するのである。この種犯罪の防止のためには,何よりもまず,企業内部において自主的に予防策を講ずることが望まれる。
 被害の巨額化に関して,最近5年間における詐欺・横領・背任の被害額の推移を示すとI-75表のとおりである。昭和50年の詐欺による被害額は,471億8,832万7,000円,横領による被害額は,143億932万7,000円,背任による被害額は,80億7,816万1,000円となっている。発生件数1件当たりの被害額は,I-76表に示すとおり,いずれの犯罪についても増加が見られ,被害額の巨額に上る事案の多くなっていることを示している。

I-75表 詐欺・横領・背任被害額の推移(昭和40年,46年〜50年)

I-76表 詐欺・横領・背任発生件数1件当たりの被害額の推移(昭和40年,46年〜50年)