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 昭和51年版 犯罪白書 第1編/第1章/第8節 

第8節 公害犯罪

 大気汚染・水質汚濁等の各種公害に対しては,関係法令の整備,取締りの強化などを含めて総合的な対策が推進されてきており,また,最近の経済活動の停滞による汚染物質排出量の減少もあって,汚染・汚濁の進行は一部で鈍化し,事態は改善されつつある。しかし,なお,現状は満足すべきものとは言えず,依然として解決を要する問題が多く,公害犯罪取締りの一層の強化を望む声が高い。
 本節では,全国の検察庁における公害関係法令違反事件の受理・処理状況を中心に,最近におけるこの種事犯の動向を考察する。
 まず,最近4年間の全国の検察庁における公害犯罪の受理・処理状況を見ると,I-54表のとおりである。公害犯罪の新規受理人員について,昭和47年を100とする指数で見ると,50年では211となっており,この種犯罪に対する取締りが逐年強化されてきていることを示している。また,処理状況を見ると,起訴人員が逐年増加しており,50年では3,790人となっている。

I-54表 公害犯罪検察庁新規受理・処理人員の推移(昭和47年〜50年)

 次に,昭和50年中の全国の検察庁における公害犯罪の新規受理人員を罪名別に49年と対比して見ると,I-55表のとおりである。50年のこの種事件の新規受理人員の総数は5,504人で,前年より595人(12.1%)増加している。これを罪名別に見ると,最も多いのは廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の2,656人で,受理人員総数の48.3%を占め,海洋汚染防止法違反の1,394人(25.3%)がこれに次ぎ,以下,水質汚濁防止法,港則法,河川法,毒物及び劇物取締法の各違反の順となっている。人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律違反では,6人の事件が受理されている。49年と比較すると,受理人員が増加したのは,廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の483人増を初めとして,海洋汚染防止法,水質汚濁防止法の各違反などであり,減少したのは,港則法,毒物及び劇物取締法,人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律の各違反である。

I-55表 罪名別公害犯罪検察庁新規受理人員(昭和49年・50年)

 昭和47年以降4年間の公害犯罪検察庁新規受理人員の合計1万7,025人について,罪名別比率を見ると,I-10図のとおりである。最も多いのは,廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反で,全体の43.7%を占めており,以下,海洋汚染防止法,港則法,水質汚濁防止法,河川法の各違反の順となっている。

I-10図 罪名別公害犯罪検察庁新規受理人員の構成比(昭和47年〜50年の累計)

 次に,警察庁の統計によって,昭和50年の公害犯罪送致件数を公害の種類別に見ると,水質汚濁関係が38.5%と最も多く,悪臭17.0%,土壌汚染2.3%,騒音0.6%,大気汚染0.4%,振動・地盤沈下0.0%,その他41.1%(その他の大部分は産業廃棄物の不法投棄事犯である。)となっている。
 昭和50年中の検察庁における公害犯罪の処理状況を見ると,I-56表のとおりである。起訴人員は3,790人,不起訴人員は1,716人,起訴率は68.8%となっている。50年における道交違反を除く特別法犯の起訴率が62.2%であるのに比較すると,この種事犯の起訴率はかなり高いことがわかる。起訴区分別に見ると,起訴総数の97.7%に当たる3,701人が略式命令を請求されている。公判請求された者は89人で,そのうち多いのは,水質汚濁防止法違反の39人,廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の28人,海洋汚染防止法違反の10人などである。

I-56表 罪名別公害犯罪検察庁終局処理人員(昭和50年)

 公害を抑止するためには,まず,適正な行政施策の実施が必要であり,刑事司法の関与する分野にはおのずから限界があるのみならず,この種事犯の検挙には,種々の法律的,技術的な問題もある。しかし,公害防止対策の一環として,公害関係罰則の適正な運用は不可欠であり,今後ともこの種事犯に対する実効ある取締りを推進することが期待される。