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 昭和51年版 犯罪白書 第1編/第1章/第7節/2 

2 爆発物・火炎びん事犯

(1) 爆発物事犯

 爆発物事犯の発生件数等の推移を見ると,I-52表のとおりである。この種事犯は,昭和44年に,赤軍派が爆弾闘争を宣言し,東京中野交差点において爆弾事件を起こしたのを初めとして,毎年発生してきたが,49年8月から50年5月にかけて,「東アジア反日武装戦線狼」等数グループの過激派が大企業を対象とする連続企業爆破事件を起こし,多数の死傷者を出して,社会に対し重大な衝撃を与えた。これら連続企業爆破事件の犯人検挙後においても,警視庁管内連続交番爆破事件,横須賀アパート爆発事件,十条自衛隊施設襲撃未遂事件,大阪三井物産爆破事件,北海道警察本部爆破事件等,この種事犯が引き続いて発生している。また,51年3月には,北海道庁爆破事件が発生し,道庁職員2人が死亡したほか,同職員ら95人の多数に及ぶ負傷者を出す重大な結果を招いた。更に,この種事犯に関連して,模倣,いたずらを含む悪質な爆破予告事犯がひん発しており,社会不安を助長している点も看過し得ないところである。

I-52表 爆発物事犯発生件数等の推移(昭和44年〜50年)

 次に,最近におけるこの種事犯の特徴として,爆発物の大型化・高性能化,攻撃目標の拡大化及び犯人像の変容などを挙げることができる。まず,爆発物について見ると,最近では,爆体として,従前の鉄パイプ等に代わって大型ペールかん,オイルタンク,消火器等各種の大型容器が使われるようになっている。ちなみに,昭和50年に発生した爆発物事件をその爆発物の爆体別に見ると,各種の「かん」を用いたかん爆弾が全体の60.0%を占め,次いで,鉄パイプ爆弾が25.0%,消火器爆弾が10.0%となっている。次に,攻撃目標について見ると,従前は,警察等を目標とするものが大部分であったが,最近では,特定企業のビル,駅等の公共施設を爆破対象とするもののほか,皇室施設の爆破を企図して爆弾を製造するようなものまで現れており,こうした攻撃目標の拡大傾向が事犯の予測を困難にしていると言えよう。また,この種事犯の犯人像について見ると,最近の主要事件の犯人グループは,在来の過激派組織に所属せず,一般人の疑惑を免れるため,日常生活面では巧みに一般市民を仮装しながら,一方では重大犯罪を敢行するという「二つの顔」を持つタイプのものに変容してきている。そのため,犯人の発見・検挙が極めて難しい状況となっている。

(2) 火炎びん事犯

 火炎びん事犯の検察庁受理人員等の推移を見ると,I-53表のとおりである。昭和47年に,「火炎びんの使用等の処罰に関する法律」が制定されて以来,火炎びん事犯は著しく減少したが,近年再び増加の兆しを見せている。50年中の特異事犯として,沖縄県御訪問中の皇太子・同妃両殿下に対する火炎びん投てき事件,沖縄海洋博阻止闘争に関連して発生したエスメラルダ号等火炎びん投てき事件,自衛隊市ヶ谷駐とん地における火炎びん投てき事件などが挙げられる。この種事犯の今後の動向にも引き続き警戒する必要があろう。

I-53表 火炎びん使用事犯検察庁受理人員及び火炎びんの使用・押収状況(昭和44年〜50年)