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 昭和50年版 犯罪白書 第2編/第4章/第5節/1 

第5節 保護司及び民間協力組織等

1 保護司

 我が国の更生保護制度においては,少年,成人にわたる各種の対象者に対する保護観察が同一機構の下で保護観察所によって統一的に運用されていることと,保護観察の内容である指導監督と補導援護とを専門官である保護観察官と民間篤志家である保護司とが協働態勢の下に分担していることの二つが特徴的である。保護司は,旧少年法における嘱託少年保護司と司法保護事業法における司法保護委員を前身とするとされており,本来ボランティアの一種である。しかし,同時に,保護司は,保護司法によってその使命,推薦及び委嘱の手続,欠格条項等が規定されており,法務大臣から委嘱され,保護区に配属されて保護観察の担当者となる点において,国から特定の地位と役割を定められた非常勤の国家公務員でもある。
 このように。保護司は,保護観察官で十分でないところを補い,保護観察における指導監督と補導援護とを担当する国の機関としての性格を持つが,その実体は,常に地域社会を代表している民間篤志家であり,地域住民としてその地域の実情に通じ,社会の信望の厚い人たちであり,犯罪者の社会復帰の援助のために奉仕活動をする点にその本領があるといえよう。なお,保護司は,保護観察官で十分でないところを補うものであるとされているが,この補完性とは,保護観察官の人員における量の不足を補う意味ではなく,公務員である保護観察官の限界,つまり,地域に密着した柔軟さの欠如等を保護司が持つ民間性,地域性等で補わせようとするものである。しかし,現状では,保護観察官の絶対数の不足と地理的条件の制約等から,保護観察や環境調整の多くの部分,更に犯罪予防活動についても,その多くを保護司にゆだねざるを得ないのが実情である。なお,保護観察官と保護司との協働態勢の効率的な展開と保護観察官の直接的な処遇に関する各種の試みが,近時,次第に活発化してきたことについては,本章第1節で述べたとおりである。
 このように,更生保護の実質上の担い手である保護司及びその組織は,元来,「郷党相扶ける」といった情緒に支えられ,社会的連帯感を背景に発生し,発展してきたものであり,社会の変動,とりわけ都市化現象の激化に伴う連帯感の希薄化,対象者の地域移動の激化,価値観の多様化等の現象に直面し,一つの転換期を迎えようとしている。
 保護司の定数は,全国で5万2,500人であるが,昭和50年1月現在,その実人員は約4万6,000人である。法務省保護局の調べによると,保護司の勤続年数は逐年増大し,その48.7%は10年以上引き続いて保護司の任に在る者であり,職業別では,農林漁業従事者が22%で最も多く,次いで,会社員・公務員19%,宗教家15%,商業10%,無職9%,主婦9%,その他16%となっている。28年には宗教家が22%を占めていたのが,49年には15%に減っていること,同じく28年には7%にすぎなかった婦人保護司が,49年には18%とたっていることなどが特に注目される。
 先に述べたように,保護司の在任年数は逐年増大し,そのこと自体は,経験の蓄積としての評価もなされようが,おのずから限界があり,昭和49年における保護司の年齢構成を見ると,60歳以上70歳未満が37.4%,70歳以上が17.7%であり,50歳未満の壮年層は16.2%にすぎない。保護観察対象者の大多数が10歳代ないし20歳代の青少年によって占められていることから,人生経験に富んだ老練の保護司に併せ,特に熱情のある新進の保護司の増員が期待される。