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2 仮出獄 仮出獄制度そのものは,明治15年施行の旧刑法において立法化されたものであるが,仮出獄が保護観察と結び付くことによってパロールとしての内容を備えるようになったのは,昭和24年の犯罪者予防更生法施行以降のことである。それ以前の仮出獄は,行刑成績が特に良好な者に対する恩典と解され,例外的に適用されていたが,現在では,本人の改善更生に主眼を置いた運用がされるようになり,恩恵的かつ例外的な措置ではなくなった。
昭和6年に仮釈放審査規程が,更に同8年には行刑累進処遇令が制定され,この制度を受刑者の改善更生を促進させるために活用しようとする動きが認められ,仮出獄は漸増し始めた。しかし,6年から同10年までの仮出獄者の満期釈放者に対する比率の平均は,9対91の割合にすぎず,依然例外的措置であった。 ところが,II-9図が示すとおり,昭和20年に至り仮出獄者が満期釈放者を上回るようになり,初めて両者の関係は逆転し,それ以降は更に仮出獄率は高まり,21年から24年までの平均比率は,仮出獄者75に対し満期釈放者25となり,特に24年には仮出獄率79.5%と史上最高値を示すに至った。保護観察を伴う仮出獄制度ができていなかった当時,このように大幅に仮出獄が運用されたのは,戦後の混乱に基づく犯罪者の激増による刑務所の過剰拘禁状態を緩和するため仮出獄制度が利用された面があったことによると思われる。 II-9図 仮出獄者・満期釈放者累年比較(昭和15年〜49年) 一時期におけるこのような仮出獄の成行き,すなわち,仮出獄者に対する保護観察が準備されていない体制の下で,しかも,過剰拘禁状態を緩和するために基準を大幅に緩めて運用された仮出獄の結果が,法務総合研究所の調査で明らかにされている。それによると,昭和22年から24年までに釈放された初入受刑者504人を26年1月1日現在で調査したところ,仮出獄者の再入率が33.5%で満期釈放者の27.0%よりはるかに高いことが判明した。それとともに,25年から27年までに釈放された初入受刑者373人につき,29年1月1日現在で同様な調査を施してみたところ,仮出獄者の再入率は17.1%,満期釈放者の再入率は22.6%であり,犯罪者予防更生法が施行され,仮出獄者に対する保護観察制度が準備された後は,仮出獄者の再入率は,常に満期釈放者のそれを下回っている。更に,仮出獄の運用状況をこの10年間の推移について見ると,昭和46年に1万639人にまで減少した満期釈放者が47年以降やや上昇傾向に向かっているのに対し,仮出獄の場合は減少の一途をたどり,仮出獄率においても次第に低下していることが注目される。 なお,過剰拘禁状態がやや緩和した昭和31年から33年までの3年間の平均は,仮出獄69%に対し満期釈放31%と,前者は後者に倍していたが,その後,仮出獄率は60%前後を維持し,時には50%台となることもあった。 犯罪者予防更生法施行以来の仮出獄申請受理人員では昭和25年(6万158人),同許可人員では27年(4万5,383人),棄却(不許可)人員では40年(3,647人)がそれぞれのピークであり,以来多少の起伏はあるが,受理・許可ともその総人員において減少の一途をたどっている。 最近5年間の仮出獄の申請及び許否決定の状況は,II-77表に示したとおりで,昭和49年の申請受理人員は1万8,661人で,前年に比べて更に694人の減少となった。許可数においても,389人の減少となり,47年,48年において12%を超えていた棄却率は,わずかながら低下し10.9%となっている。 次のII-78表は,昭和49年の仮出獄許否決定の状況を,刑法上の累犯・非累犯別,刑務所入所度数別及び年齢別に見たものである。累犯者は,非累犯者に比べ,棄却率が目立って高い。また,入所度数が多くなるにつれて,段階的に棄却率が高まっている。年齢については,年齢が高くなるにつれて棄却率が高くなっているが,この傾向は,累犯者,入所度数の多い者が結果的に高年齢層に多くなることと多分に関連するものと思われる。 II-78表 受刑者の累犯・非累犯の別,入所度数別及び年齢別の仮出獄許否の状況(昭和49年) 昭和49年における罪名別仮出獄決定状況をII-79表に見ると,棄却率の高い罪名に賭博・富くじの30.6%,暴行の25.8%,暴力行為等処罰に関する法律違反の23.3%などがある。II-79表 罪名別仮出獄決定状況(昭和49年) 仮出獄の時期の選定は,続いて行われる保護観察期間の長短に深く関連するので,受刑者は,刑期のうちどの程度服役した後に仮釈放が許されているかを,執行率を示すII-80表によって検討することとする。ここにいう執行率とは,執行すべき刑期(刑期に算入すべき勾留日数等を控除した期間。仮出獄取消刑の場合は残刑期間)に対する執行済み期間の割合のことである。II-80表 定期刑仮出獄者の刑の執行状況(昭和49年) まず,定期刑の全体についていえば,その47.0%に当たる者が刑期の90%以上服役しており,執行率80%以上の者を合わせると定期刑仮出獄者の大部分に当たる81.5%を占めている。法律上は,有期刑は,執行すべき刑期の三分の一を経過すれば仮出獄を許すことができることになっているが,実際上,刑期の二分の一未満で仮釈放になった者は7人にすぎず,むしろ例外になっている。過去5年間の傾向を見ると,執行率80%以上の者は,昭和45年が81.9%,46年が82.7%,47年が84.1%,48年が84.1%で,その傾向は例年ほとんど変化していない。次に,刑期別にその執行率を見ると,おおむね,刑期が長くなるに従って執行率は低くなっている。例えば,刑の執行率70〜79%で仮出獄を許された者は,刑期1年以下の者では6.5%にとどまるのに対し,3年を超え5年以下の者では29.4%と急増し,5年を超え10年以下の者では32.5%となっている。 また,累犯の場合,前述のように棄却率が高いだけでなく,執行率がかなり高い段階に至らなければ仮出獄が許されないため,累犯者に対する保護観察期間が相対的に短くなっている。 他方,無期刑受刑者については,法律により,服役してから10年(少年法による場合は7年)の期間が経過すれば仮出獄を許すことができることになっているが,最近5年間における無期刑仮出獄者の在監期間を見ると,II-81表のとおりであり,13年を超え17年以内の者が多い。昭和49年においてそれらの者が占める割合は73.6%であった。 II-81表 無期刑仮出獄者の在監期間の構成比(昭和45年〜49年) このようにして,仮出獄を許された者はすべて保護観察に付され,原則として,仮出獄期間は保護観察期間と一致する。仮出獄期間は,後出のII-88表に示すとおり,短期間の者が多い。昭和49年の仮出獄者では,2月以内の者だけで過半数(54.5%)に達しており,2月を超え1年以内の者は40.6%で,1年を超える者は5.0%にすぎない。仮出獄期間が特に短い者に対しては,保護観察の効果が十分には期待できないので,このように,期間の短い仮出獄者が多いことは問題点の一つとされている。 仮出獄期間中の再犯又は遵守事項違反に対しては,仮出獄を取り消すことができることになっている。最近5年間の仮出獄取消しの状況は,II-82表に示すとおりで,取消率(ここにいう取消率は,ある年次に仮出獄の取消しを受けた人員を同じ年次の仮出獄許可人員で除した値であるから,正確な意味での取消率とはいえないが,大体の傾向を知ることができる。)は,例年4%台に定着している。しかし,この4%台を超えない取消率は,いうまでもなく,仮出獄期間内の再犯又は遵守事項違反に対する措置の結果であって,仮出獄者の成行きをそのまま示すものではない。次に示すII-83表は,昭和45年から49年までに出所した仮出獄者と満期釈放者の刑務所再入所状況を比較したものである。同表[2]によると,満期釈放者は,出所の当年に出所人員の10.2%が再収容されているが,仮出獄者にあっては3.5%にとどまっており,また,第5年まで各年の比率をそのまま累計すると,仮出獄者の3割弱が再収容され,満期釈放者では5割強が再収容されている。 II-82表 仮出獄取消決定を受けた人員(昭和45年〜49年) II-83表 仮出獄者と満期釈放者の成行き(昭和45年〜49年) ところで,仮出獄者と満期釈放者の釈放後の成行きをB級受刑者(犯罪傾向の進んでいる者)について分離して検討してみると,II-84表及びII-85表のとおりである。同表は,昭和44年11月以降,府中,長野,新潟の3刑務所から出所したB級受刑者643人につき,50年2月法務総合研究所が行った調査結果によるものである。B級受刑者の場合,再収容率は,前掲のII-83表の場合に比べ,仮出獄者の場合も満期釈放者の場合もはるかに高く,第5年目まで各年の比率を累計すると,仮出獄者の47.5%,満期釈放者の65.3%の者がそれぞれ再収容されている。更に,同じ調査対象者につき,釈放後最初の再逮捕までの期間を調査したところ,同表に示すとおり,第5年までの累計で,仮出獄者の場合64.5%が,満期釈放者の場合80.3%が,それぞれ,再逮捕されている。また,再収容,再逮捕までの期間を見ると,再収容の場合,仮出獄者の23.6%までが1年以内に,2年以内の累計を見ると,35.7%までがそれまでに再収容の原因となる事件を起こしている。これに対して満期釈放者の場合は,42.2%までが1年以内に再収容の原因となる事件を起こしている。再逮捕の場合は,仮出獄者の50.2%が,満期釈放者の70.5%が2年以内に,それぞれ,再逮捕されている。II-84表 B級受刑者の釈放事由別最初の再収容となる事件までの期間(5年間) II-85表 B級受刑者の釈放事由別最初の再逮捕までの期間(5年間) これらの調査結果は,累犯対策の困難さを示すとともに,再犯に陥りやすい期間について一定の傾向があることを示しており,仮出獄期間の極めて短い仮出獄者が多く,それらの者については,保護観察の効果が十分には期待できないこと及び満期釈放者に対する有効な措置を有権的に執り得る方法がないことなどを併せ考えると,現行仮出獄制度運用上の最も重大な問題点の現れであるといえよう。 |