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 昭和50年版 犯罪白書 第2編/第4章/第1節/3 

3 犯罪者予防更生法以降

 犯罪者予防更生法の施行に伴い,必要な機構が整備され,それまで司法保護事業法の対象であった仮出獄者,少年院仮退院者,18歳未満時刑執行猶予者及び旧少年法による保護観察少年は,すべて同法の対象となり,刑執行停止者も部分的ではあるが,同法による措置にゆだねられることとなった。そして,更生保護官署として,制度発足と同時に法務府の外局として中央更生保護委員会,その地方支分部局として全国に地方少年保護委員会及び地方成人保護委員会が各8庁,各地方保護委員会の事務部局として事務局を置き,その事務分掌機関として少年保護観察所及び成人保護観察所が各49庁設置された。
 このようにして,制度発足の当初は,関係者の強い願望にもかかわらず,執行猶予者を保護観察に付するいわゆるアダルト・プロベーションの実現こそみなかったが,少年に対する保護観察の実施のほか,仮釈放の手続を改めて,従来保護観察を伴わず,単に警察署の監督を受けていた仮出獄者も保護観察に付されることとなり,これら各種の保護観察が保護観察所によって統一的に実施されるようになった。
 犯罪者予防更生法の施行により新たな保護観察制度が採用されるに及び,同法が更生保護の基本法としての地位を占めたが,発足の当初は,従来の司法保護事業法に代わるものとしての更生緊急保護法及び保護司に関する基本事項を規定した保護司法が施行されていなかったので,新たに設けられた保護観察所は,当分の間,司法保護団体及び司法保護委員の協力の下にその業務を運営してきた。
 犯罪者予防更生法施行の翌年に当たる昭和25年5月25日に更生緊急保護法及び保護司法が施行された。この二つの法律の施行と司法保護事業法の廃止に伴い,司法保護委員は保護司になり,司法保護委員を構成員とする区司法保護委員会の機能は,少年又は成人保護観察所に引き継がれた。また,従来司法大臣の認可を受けて設置経営されていた司法保護団体は廃止されたが,その多くは更生保護会になって事業を継承し現在に至っている。
 このようにして,昭和14年施行以来,我が国の更生保護の発達史上高く評価される司法保護事業法は廃止され,それに代わるものとして更生緊急保護法が施行されたのであるが,保護観察の実施が先に施行された犯罪者予防更生法にゆだねられたため,保護の対象は,司法保護事業法当時に比べ,はるかに狭められ,保護期間も釈放後6箇月を超えない範囲とされるなど犯罪者予防更生法に対して補充的な位置に立つものとなった。すなわち,施行当時の同法の対象は,保護観察の対象とはならない起訴猶予者,18歳以上時刑執行猶予者,刑執行免除者及び刑執行終了者となり,それらの者に対しては,いずれも,刑事上の手続による身体の拘束を解かれた後6箇月を超えない範囲内で,緊急適切の趣旨に沿う限度で,かつ,本人の申出に基づき,保護の措置を執り得るとしているものであって,保護観察が有権的な更生保護であるのに対し,任意的性格を持つ点が更生緊急保護の特徴とされる。
 既に述べたとおり,発足当初の更生保護官署は,少年保護委員会,成人保護委員会,少年保護観察所,成人保護観察所と少年,成人の区別があって,それぞれ,対象を異にして運営されていた。この体制は,事務簡素化のため改められ,昭和27年8月中央更生保護委員会が廃止され,法務省の内局として保護局が置かれるに際し,少年,成人が統合されて現行の地方更生保護委員会が設置され,保護観察所は,事務分掌機関ではなく,犯罪者の処遇を実施する独立官庁となり現在に至っている。組織機構上のこの大きな変革を経て,我が国の更生保護は,男・女,成人・少年の別なく,すべて同一機関である保護観察所において,多分に共通した取扱いがされることになった。
 現在,更生保護に関する行政事務を担当するために,法務省に保護局が,仮釈放の許可決定等を行うために全国8箇所に地方更生保護委員会が,保護観察等を実施するために全国50箇所に保護観察所がそれぞれ設置されている(そのほか,支部3箇所,駐在官事務所18箇所)。
 以上が我が国の更生保護制度の変遷の概要であって,その中核をなす保護観察は,保護観察所がつかさどっているが,対象者の処遇を直接担当しているのは,保護観察官と保護司である。対象者の処遇における保護観察官と保護司との協働態勢に我が国の保護観察の特色の一つがあるといわれており,保護観察における指導監督と補導援護とを保護観察官と保護司とが分担し合う形で,対象者の処遇に当たっている。このように,保護観察官と保護司とは,ともに処遇の実施機関として位置付けられてはいるが,前者は国家公務員であって,社会学,心理学,教育学その他の更生保護に関する専門的知識に基づいて保護観察等犯罪者の社会内処遇の実施及び犯罪の予防に関する事務に従事することを任務とする専門的役割が期待されているものである(昭和50年4月現在,全国8箇所の地方更生保護委員会事務局に84人,50箇所の保護観察所に787人の保護観察官が配置されている。)。これに対して,後者は保護司たる職責上非常勤国家公務員とされているが,その実質は民間篤志家であり,両者の協働関係及び保護司の特色等については別に考察を要するので,第5節で改めて述べることとする。
 我が国の更生保護制度における保護司の寄与度の高さは定評のあるところで,そのことは高く評価されるべきであるが,保護司依存が行き過ぎると,対象者の処遇における保護観察官の主導性の希薄化を招き,更生保護制度存立の基盤である国の責任性の後退をもたらすことともなりかねない。そこで,専門官としての保護観察官と民間篤志家である保護司がそれぞれの特性に基づく真の協働態勢を実現するため,近年,保護観察官の処遇への直接介入についての各種の試みが実施されている。それが,昭和46年から実施されている分類処遇制,49年から実施の青少年保護観察対象者に対する直接処遇制であり,また,道路交通法違反又は業務上(重)過失致死傷による保護観察対象者に主として実施されている保護観察官による集団処遇である。
 このように,制度発足以来25年を経過した現在,処遇における保護観察官の直接関与の動きが活発化する一方,既に法制審議会から答申があった刑法全面改正作業と関連し,目下,法務省保護局において,更生保護関係法令の統合,整備を内容とする更生保護基本法の制定作業が鋭意進められている。特に,その作業過程において,更生保護会を中間処遇施設として積極的に活用することが検討されていることは,別途進行中の少年法改正作業における保護処分の多様化,弾力化構想とも深く関連するところであり,新しい局面を迎えた更生保護制度の進運に大きく影響を及ぼすものとして,その成行きが注目される。