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 昭和50年版 犯罪白書 第1編/第2章/第8節 

第8節 公害犯罪

 公害犯罪の検挙件数は,第1編第1章第2節において概観したように,昭和44年以降,逐年増加を続けている。本節では,全国の検察庁における公害関係法令違反事件の受理・処理状況を中心に,最近におけるこの種事犯の現況を考察する。
 まず,最近3年間について,全国の検察庁における公害犯罪の受理・処理状況を見ると,I-71表のとおりである。公害犯罪の新規受理人員は逐年増加してきており,昭和47年の受理人員を100とする指数で見ると,49年は188となっている。一方,処理状況を見ると,起訴人員が逐年増加しており,起訴率も上昇して,49年では71.5%という高率を示している。

I-71表 公害犯罪検察庁新規受理・処理人員の推移(昭和47年〜49年)

 次に,昭和49年中の全国の検察庁における公害犯罪の新規受理人員を罪名別に48年と対比してみると,I-72表のとおりである。49年のこの種事件の新規受理人員総数は4,909人で,前年より910人(22.8%)の増となっている。これを罪名別に見ると,最も多いのは廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の2,173人で,受理人員総数の44.3%を占め,海洋汚染防止法違反の1,218人(24.8%)がこれに次ぎ,以下,水質汚濁防止法,港則法,河川法(同法施行令16条の4の1項2号,16条の5の1項,16条の8の1項1号),毒物及び劇物取締法(15条の2)の各違反の順となっている。人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律違反では11人の事件が受理されている。48年と比較してみると,受理人員が増加したのは,廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の573人増を始めとして,水質汚濁防止法,毒物及び劇物取締法の各違反などであり,減少したのは,海洋汚染防止法,港則法の各違反などである。ここで,47年から49年までの3年間の公害犯罪検察庁新規受理人員の合計1万1,521人について,罪名別比率を見ると,I-24図のとおりである。最も多いのは,廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反で全体の41.6%を占めており,以下,海洋汚染防止法,港則法,水質汚濁防止法,河川法の各違反の順となっている。

I-72表 罪名別公害犯罪検察庁新規受理人員(昭和48年・49年)

I-24図 罪名別公害犯罪検察庁新規受理人員の構成比(昭和47年〜49年の累計)

 昭和49年の新規受理人員を受理事由別に見ると,通常の司法警察員から受理したものが3,061人で総数の62.4%,特別司法警察員から受理したものが1,813人(36.9%),検察官認知・直受によるものが35人(0.7%)となっており,特別法犯全体の受理事由別比率と比較すると,特別司法警察員から受理したものの比率が大きいが,これは海上保安官の検挙する海洋汚染防止法違反,港則法違反などの海洋関係の事件が多いことによるものである。
 ところで,公害の種類別では,どのような公害犯罪が多いのであろうか。警察庁の統計により,昭和48年の公害犯罪送致件数を公害の種類別に見ると,水質汚濁関係が53.2%と最も多く,以下,悪臭関係34.2%,土壌汚染4.8%,大気汚染1.0%,騒音・振動0.8%などの順となっている。ここで,48年度における都道府県及び市町村の公害に関する苦情の受理件数を公害の種類別に見ると,騒音・振動33%,悪臭23%,水質汚濁18%,大気汚染16%,その他10%の順となっている。これを公害の種類方別の公害犯罪の送致件数の比率と比較してみると,苦情受理件数で1位を占めている騒音・振動関係事件の送致件数は極めて少ないこと,苦情受理数においてはそれほど比率の差が見られない大気汚染関係と水質汚濁関係は,送致件数においては,水質汚濁関係事件が極めて多数を占めているのに対して大気汚染関係事件は極めて少ないことなどの差異が見られる。苦情受理数における比率と送致件数における比率との間にこのような差異があるのは,それぞれの公害の人の感覚に対する直接性の程度の差,公害の性質による各規制法における罰則の差異(いわゆる直罰規定の有無など)及び捜査の難易の程度などの差異によるものであろう。
 最後に,昭和49年における公害犯罪の処理状況を見ると,I-73表のとおりである。49年中の起訴人員は3,239人,不起訴人員は1,292人であり,起訴率は71.5%となっている。これを47年と比較すると,起訴人員が1,747人の増と大幅な増加を示しており,起訴率もわずかながら上昇している。49年における道交違反を除く特別法犯の起訴率が60.6%であるのに比較すると,この種事犯の起訴率はかなり高いものになっていることがわかる。起訴区分別に見ると,起訴総数の97.3%に当たる3,152人が略式命令を請求されている。公判請求された者は87人であるが,そのうち,多いものを挙げると,廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の41人,海洋汚染防止法違反及び水質汚濁防止法違反の各10人などである。

I-73表 罪名別公害犯罪検察庁終局処理人員(昭和49年)

 なお,昭和49手4月に,三重県内の塗料添加剤製造・販売会社工場で,技術員が貯蔵タンクに液体塩素の受入作業を行った際,バルブの誤操作により装置の排出口から塩素ガスを大気中に排出して,付近の住民に咽頭炎等の傷害を負わせた事件が発生したが,津地方検察庁は同年12月26日この事件で同会社及び関係者4名を人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律違反(同法3条2項,4条)により津地方裁判所に起訴(公判請求)した。これは,46年7月1日の同法施行後,同法違反による初めての起訴事例である。
 公害を抑止するためには,まず的確かつ強力な行政施策の実施が必要であり,刑事司法の関与する分野にはおのずから限界があるのみならず,この種事犯は,従来の犯罪とは類型がやや異なっており,事案の解明に必要な資料の収集,科学的測定,分析方法の開発等真に実効ある取締りを実現するためには,種々の困難な問題が存在する。しかしながら,公害関係罰則の適正な運用を図ることが,公害防止に資するところは決して少なくはないので,この種事犯の動向にはいっそうの関心を払う必要がある。