第2節 犯罪の形態及び規模の変化 犯罪は社会現象の一つであり,社会の変化とともに犯罪の形態や規模が変化する。そのため,犯罪の動向を明らかにするには,その量的な変化とともに質的な変化をも考察することが必要になる。第二次大戦後においては,ひとり我が国にとどまらず,世界各国とも社会情勢等の変化が著しく,それが犯罪の質的変化をもたらしている。昭和50年9月ジュネーブで開催された犯罪防止及び犯罪者の処遇に関する第5回国際連合会議の第1議題が「犯罪の形態と規模の変化―多国間にまたがる犯罪及び国内の犯罪について―」とされているのも,各国における犯罪の今日的問題を示すものといえよう。 我が国における社会の急激な変化が犯罪の面にも少なからず影響を及ぼしていることは事実であるが,その変化を犯罪現象面における変化と国民の犯罪観の変容に分けて考察することができよう。 第一に,犯罪現象面での変化としては,近年における科学技術の急速な発展と普及によって,犯罪の態様及び規模に著しい変化が生じたばかりでなく,新しい形態の犯罪が発生するに至っていることを指摘し得る。このような例として,数量的に見て特に顕著なのは,自動車の普及に伴って増加してきた自動車に関連する犯罪である。この種の犯罪には,自動車の運転に伴う業務上(重)過失致死傷罪や,道路交通法違反,自動車あるいは自動車内にある物品の窃盗,自動車を利用した窃盗,殺人,強姦などの犯罪がある。また,科学技術の発達に伴う新しい形態の犯罪の例として,少数ながら発生をみているコンピュータ機構の盲点を利用した窃盗等の犯罪,自動販売機の普及など企業の省力化に伴って増加を示している自動販売機荒らし,手製爆弾や火炎びんを使用する犯罪などがあり,また,動機や態様において悪質化の傾向がうかがわれることの一例として特異な殺人事件が多発していることを挙げることができよう。 第二に,犯罪観の変容としては,犯罪化の側面と非犯罪化の側面とがある。すなわち,近年における社会事情の変化は,国民の生活感情あるいは価値観にも影響を及ぼし,一方では新たに犯罪として規制する必要がある事象が生ずるとともに,他面では,これまで伝統的に犯罪とされてきたもののうちにも刑事法の領域から解放すべきものがあるのではないかとの問題が提起される。このような犯罪化の例としては,公害に対する規制を,非犯罪化の対象として議論されるものとしては,大麻その他の薬物濫用犯罪,賭博,わいせつ犯罪などを挙げることができる。 本節では,以上のような犯罪を例に選び,犯罪の形態と規模の変化について考察を行うこととする。
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