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1 全般的推移 I-10表は,戦後における少年刑法犯検挙人員の推移を,実数と有責人口1,000人に対する比率(以下,「人口比」という。)について,成人のそれと対比しながら示したものである。有責人口比であるから,14歳未満で刑罰法令に触れる行為をしたいわゆる触法少年は含まない。
I-10表 少年・成人別刑法犯検挙人員及び人口比(昭和21年〜49年) 戦後の少年刑法犯検挙人員の推移は,昭和26年及び41年をそれぞれのピークとする大きな二つの波として理解される。第一の波は,戦後の経済的及び社会的な混乱とその終息を背景とする20年代の動きであり,第二の波は,都市化,産業化などの急激な社会変動を背景とする30年代以降の動きである。すなわち,戦後間もなく急増し始めた少年犯罪の第一の波は,昭和26年をピークとしてその後20年代の終わりにはいったん沈静化した。 第二の波において,少年刑法犯検挙人員は,昭和30年から41年まで一貫して増勢を示したが,42年以降は,起伏のある動きを示しながら,おおむね減少傾向をたどっている。49年では,前年に比較して実数で若干減少し,人口比で微増を示しているものの,全体としてはほぼ横ばいであり,なお流動的な40年代の流れの一環として理解することができよう。 次に,この推移を人口比の面から見ると,昭和20年代の動きは,26年をピークとする検挙人員の動きとほぼ一致している。しかし,30年以降の動きにおいては,検挙人員の増加した期間よりも人口比の増加した期間の方が長く,45年のピーク時まで16年間の長期にわたって,我が国の少年刑法犯が実質的に増加を続けたことを示している。46年以降は,刑法犯の減少傾向に伴っておおむね減少しているが,この減少の大部分は,自動車交通による業務上(重)過失致死傷の減少によるものである。 この人口比の推移を図示すると,I-14図のとおりである。成人刑法犯検挙人員の人口比は,昭和24年を第一のピークとして以後減少に向かい,38年に増加に転じた後,45年に第二のピークに達したが,その後再び減少を続け,49年においても同様の傾向を示している。一方,20年代には成人と大差のなかった少年の人口比は,30年以降急激に増加し,その後も引き続き高い数値を維持しているが,この間における成人の動向と対比するとき,過去十数年間における少年犯罪発生率の高さとその顕著な増大ぶりの様相を明確に把握することができよう。なお,成人刑法犯は,38年以降,検挙人員,人口比とも急増しているが,これは,主として自動車交通による業務上(重)過失致死傷の増加によるものである。 I-14図 少年・成人別刑法犯検挙人員人口比(昭和21年〜49年) 近年,成人刑法犯のみならず,少年刑法犯においても,検挙人員中に占める業務上(重)過失致死傷の割合は増大しているが,業務上(重)過失致死傷は,その他の一般刑法犯とは犯罪としての性質がやや異なるので,同罪及び若干の罪を全刑法犯から除いた主要刑法犯について,少年刑法犯の推移を見ることとする。なお,ここにいう主要刑法犯とは,窃盗,詐欺,横領(業務上横領,占有離脱物横領を含む。)及び背任の「財産犯」,暴行,傷害・同致死,脅迫及び恐喝の「粗暴犯」,殺人(尊属殺,殺人予備,自殺関与を含む。),強盗,準強盗,強盗致死傷及び強盗強姦・同致死傷の「凶悪犯」,強姦・同致死傷,強制わいせつ・同致死傷,公然わいせつ及びわいせつ文書・図画の頒布・販売等の「性犯罪」,放火並びに賭博をいい,その検挙人員は,業務上(重)過失致死傷を除く刑法犯のそれにほぼ近いものとなっている。この主要刑法犯について,I-10表と同様の比較をしたのが,I-11表である。成人の検挙人員が昭和26年以降,ほぼ一貫して減少傾向を示しているのに対し,少年においては,26年以降減少を続けたものの,30年以降増勢に転じ,39年に約15万人を数えるピークに達した後,再び減少に向かったが,最近ではまたも増加する傾向にあり,49年では,前年に引き続き実数においてもかなり増加しており,予断を許さない動きとなっている。 I-11表 少年・成人別主要刑法犯検挙人員及び人口比(昭和26年〜49年) 次に,この推移を人口比から見ると,おおむね検挙人員の増減と同じ動きを示しているが,最近においては,少年人口が減少しているため,検挙人員が減少してもなお人口比は高い数値を示すという状況にあり,昭和49年では11.5という30年代後半の最高値に近い高い数値となっている。この人口比の推移を図示すると,I-15図のとおりである。少年の主要刑法犯検挙人員の人口比は,特に,30年以降急激に増加し,20年代には成人とさほどの差が認められなかったものの,次第にその差を広げ,最近数年間は若干の起伏を示しながらもその格差はますます増大する傾向にあり,45年以降少年の人口比は成人のそれの3倍を超えている。 I-15図 少年・成人別主要刑法犯検挙人員人口比(昭和26年〜49年) 少年犯罪は,成人犯罪とは質的に異なる面があるので,その人口比と成人のそれとの単年度比較ではその数値の大小をいうことはできないが,以上のような年代的な推移に照らすと,昭和20年代に比べても少年犯罪の比重が著しく高まっていることが明らかである。なお,参考までに,戦前における刑法犯(業務上(重)過失致死傷を含むが,その数は極めて少ない。)検挙人員の人口比を成人と未成年者との比較において見ると,昭和11年から15年に至る5年間に,未成年者の人口比(この場合は10歳以上20歳未満の人口1,000人に対する比率である。)は3.1ないし3.4とほぼ横ばいを示しているのに対し,成人のそれは10.6から7.7へ下降している。第二次大戦開始前のこの時期では,未成年者の刑法犯検挙人員人口比は成人のそれの三分の一ないし二分の一であったことになる。 もとより,戦前と戦後とでは社会的背景に著しい差異があり,また,法制や統計基準も同じでないので,数値そのものの比較はできないが,少なくとも,戦前と戦後とでは成人犯罪に対する少年犯罪の比重が逆転していることを指摘することができよう。 |