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2 経済・産業の変動との関連 一般に,社会の変動には経済状況の動向が極めて密接に関連するものとされている。戦後,我が国の経済は,回復,自立,発展の過程を通じて著しい成長を遂げた。すなわち,その産業・経済は,盛んな設備投資と輸出の伸長を基調として極めて速い成長速度で拡大し,昭和26年から48年までの間,年平均9.7%の成長率を示し,とりわけ40年代は高率の成長を遂げている。これに伴って,経済規模もまた逐年拡充を続け,国民総生産は,26年以降5年ごとにほぼ倍増し,48年には115兆円,国民一人当たり約106万円となっている。
一方,急速な経済の拡大は,産業構造の変化を促進するとともに,所得構造にも大きく影響を及ぼした。 I-16図は,昭和26年以降の産業構造の変化をほぼ5年おきの間隔で産業別に示したものである。20年代に高い比率を占めていた第一次産業は,脱農化等により,年代をおってその比重が小さくなり,48年では,全産業中わずかに7.1%を占めるにすぎないものとなっている。これに対して,製造業などを主軸とする第二次産業は,工業化の進展などによりおおむね高水準の成長を示しているものの,商業,サービス業など第三次産業の顕著な成長に比較して,その伸び率は小さい。このような変化は,農業人口及び農業所得の減少・低下並びに産業雇用者及び雇用者所得の増加・上昇をもたらしたが,他方,経済成長の進展に伴って国民総支出が急増し,消費の平準化など国民生活にも大きな変化を生ずることとなった。 I-16図 産業構造の変化(昭和26年,30年,35年,40年,45年,48年) このような産業・経済の変化と少年犯罪との関連は,おおむね次のように考察することができよう。戦後における少年犯罪増加の第一の波は,貧困状態が緩和し,社会秩序が回復するにつれて急速に沈静化した。この時期における少年の刑法犯検挙人員の人口比は,成人のそれとほとんど差異がなく,増減傾向もまた類似したものとなっている。 昭和30年代の初頭に始まる第二の波は,30年代の全般を通じて急増を続けている。この時期には,地域開発や工業化などの一連の経済施策が策定・推進され,工業を中心として経済成長が急速に拡充されたものの,反面,浪費的傾向や享楽的風潮も現れてきた。この時期における少年犯罪増加の背景事情としては,都市化・工業化の進展に伴う青少年の都市集中,有害環境の拡散等が挙げられるが,結局は,社会構造の急激な変動によるひずみが,未成熟な少年に最も大きい影響を及ぼしたものと理解することができよう。 成人犯罪の沈静化には経済の成長に伴う失業者の減少,所得水準の上昇とそれに伴う生活の安定等が少なからず寄与するが,少年犯罪に対しては社会の変動に伴う病理的側面がより強く影響するものと思われる。 昭和40年代の少年犯罪は,流動的な動きを示しながらも,全般には高水準を維持している。この時期には,国民生活の多様化に伴い,社会の構造的矛盾が社会問題化し,公害対策,環境保全,福祉施策の推進など経済成長のひずみを是正する動きが活発化した。 少年犯罪に対する社会の関心も高まり,種々の対策が推進された結果,やや好転する兆しも見えた。しかし,減少の一途をたどる成人犯罪に比べると,依然として問題が多く,主要刑法犯の人口比との格差は更に拡大している。 次に,I-17図により,戦後における少年犯罪の罪種別の推移について見ることとする。少年犯罪の大多数を占める財産犯について見ると,昭和26年にピークに達した後,48年まで23年の水準に達しない状態で推移しているが,その動きは総数の推移とほぼ共通したものとなっている。第一の波は,戦後の混乱と窮迫を背景とする経済的不安定が財産犯,特に窃盗の増加を誘発したものとして理解される。39年にピークがある第二の波や49年の高い指数に見られる最近の増加傾向については,繁栄の裏にある社会的病理現象との関連を併せ考えなければならない。 I-17図 罪種別少年刑法犯検挙人員人口比指数の推移(昭和23年〜49年) 性犯罪及び粗暴犯は昭和30年代に急増した。40年代初頭以降ようやく減少に向かったが,49年においても23年に比してなお著しく高い指数を維持している。この両罪種は,その増減状況の推移においてもほぼ類似した動きを見せているが,昭和30年代の動きから,社会環境の変化とある種の関連のあることがうかがわれる。また,「その他」の増加は,モータリゼーションの進行に伴う業務上(重)過失致死傷の増加によるものが大部分を占め,経済的諸条件と密接に関連していることは明らかである。なお,凶悪犯は,昭和23年以降おおむね減少傾向にあるが,この種犯罪の増減には社会秩序の維持状態がより密接に関連するものと思われる。 |