前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和50年版 犯罪白書 第1編/第1章/第2節/8 

8 風俗犯罪

 ここでは,風俗犯罪として,賭博事犯及びわいせつ事犯を取り上げてみよう。
 まず,賭博事犯について考察する。I-12図は,昭和35年以降における賭博の発生件数及び公営競技関係法(競馬法,自転車競技法,小型自動車競走法,モーターボート競走法)違反送致人員の推移を,35年を100とする指数によって見たものである。過熱化したギャンブルブームは依然として続いており,公営競技場入場者数は,35年度の3,656万人(指数100)から,49年度の1億3,883万人(指数379)と逐年増加してきており,公営競技関係法違反送致人員数も,35年の1,655人(指数100)から49年の1万1,410人(指数689)へと大幅な増加を示している。このような事情を背景として,賭博の発生件数も,全体的に見ると,増加の傾向を示しており,35年の1,370件(指数100)から49年の4,393件(指数321)へと増加している。また,最近では,賭博罪による検挙者のうち,半数近くを暴力団関係者が占めている。

I-12図 賭博発生件数及び公営競技関係法違反送致人員の推移(昭和35年〜49年)

 次に,わいせつ事犯の推移をみると,I-13図のとおりである。公然わいせつ罪の検察庁新規受理人員は,昭和30年の773人(指数100)から起伏はありながらも増加し,38年には1,710人(指数221)となり,最近10年間は,30年前半に比較し2倍ないし3倍という数(49年に2,165人)を示している。その多くはわいせつショーの事件である。次に,わいせつ文書頒布等の罪の検察庁新規受理人員は,30年の1,358人(指数100)から全体としては増加の傾向を続け,39年には2,825人(指数208)となった。その後47年までは,30年代前半に比較すると2倍強の数値となっていたが,48年,49年は1.5倍ないし1.3倍と減少している。暴力団等によるわいせつフィルムの製作・販売等の事件が多いが,そのほか雑誌,写真集,わいせつ器具,わいせつテープなどの事案も発生している。

I-13図 わいせつ犯罪受理人員等の指数(昭和30年〜49年)

 性に関連する犯罪という面から,強姦の罪の検察庁新規受理人員の推移を見ると,昭和33年ないし43年の間は,30年を100とする指数で167ないし189となっているが,44年からは減少を続け,49年には5,088人(指数105)となっている。一方,軽犯罪法1条23号の罪(正当な理由がなくて人の住居,浴場,更衣場,便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た罪)の送致人員は,最近減少傾向にはあるものの,30年を100とする指数で見ると,おおむね3倍以上の数を示している。
 賭博及びわいせつ事犯を含む風俗犯罪については,国民の犯罪観に若干の変容が認められるものもある。賭博のうちでも娯楽性の強いものに対する社会の見方には若干の変化があり,また,わいせつの基準となる社会通念も時代とともに変遷するものであることは否定できない。しかし,それらの非犯罪化の主張は,必ずしも国民の十分な支持を得ているとはいえない。この種の犯罪については,それを非犯罪化することではなくて,世論の動向を注視しつつ,真に悪質な事犯を取締り,運用面において国民の期待とずれを生じないよう配慮することが肝要であろう。