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2 覚せい剤事犯の動向 (1) 最近の動向と特徴 最近5年間における覚せい剤取締法違反の違反態様別の検挙人員を示したのが,III-114表である。これによると,総数では,昭和45年以降毎年急激に増加しており,48年には前年の1.8倍に激増している
。 III-114表 覚せい剤取締法違反態様別検挙人員(昭和44年〜48年) また,最近における違反態様別の検挙人員の推移をみると,密輸入については,実数は少ないが,昭和47年から急激に増加している。最近の密輸入事犯は,暴力団関係者によって大量に密輸され,その組織を利用して密売される事例が多く,また,密輸ルートもこれまでの韓国からのルートに加えて,香港からの密輸入事犯も検挙されるに至っている。次に,密製造は,46年まで減少し,47年は横ばいの状況にあったが,48年には前年より増加している。所持,譲渡・譲受,使用は,いずれも毎年激増している。昭和48年の検挙人員について違反態様別の構成比をみると,譲渡・譲受が総数の55.2%で最も多く,次いで,所持の25.6%,使用の18.6%,密輸入の0.3%,密製造の0.1%の順となっている。 次に,これらの覚せい剤取締法違反によってどれほどの覚せい剤及び同原料が押収されているかをみることとする。III-115表は,最近5年間における覚せい剤及び同原料の押収状況を示したものである。これによると,覚せい剤については,押収された粉末・錠剤は逐年激増しており,過去5年間にその押収量は9.3倍に増加している。液体では起伏のある動きを示しているが,昭和48年の押収量は前年より激減している。覚せい剤原料については,粉末は45年に著しい減少を示した後,46年以降は逐年増加している。液体では,45年に激減した後,46年及び47年と増加してきたが,48年には押収量なしとなっている。なお,47年に覚せい剤・同原料の液体の押収量が著しく多かったのは,製薬会社の元社員による大量の横流し事件が検挙されたことによるものである。このように,最近の覚せい剤事犯は,その対象がかつての液体中心に比べ,粉末中心となっているのが特徴的である。 III-115表 覚せい剤・同原料の押収状況(昭和44年〜48年) 次に,最近5年間における覚せい剤取締法違反の高等検察庁管内別受理人員を示したのが,III-116表である。これによると,昭和44年には,大阪,高松及び広島の各高等検察庁管内における受理人員の合計が総数の87.8%を占め,仙台及び札幌の両高等検察庁管内では受理人員がなかったのに,45年以降はこの両高等検察庁管内でも受理人員をみるようになり,年を追って覚せい剤事犯が全国に拡散し,47年以降は全国各地方検察庁で受理されるに至っている。III-116表 覚せい剤取締法違反事件高検管内別受理人員(昭和44年〜48年) 昭和48年における覚せい剤取締法違反の検挙人員について年齢層別構成をみたのが,III-15図である。48年の検挙人員では,30歳ないし39歳が最も多く総数の40.8%を占め,次いで,25歳ないし29歳の25.7%,20歳ないし24歳の16.5%の順となっている。したがって,20歳代及び30歳代の者で検挙人員総数の83.0%を占めることになる。また,19歳以下の少年についても,47年の75人(1.6%)から48年の151人(1.8%)となり,実数及び構成比とも増加しているのが注目される。III-15図 覚せい剤取締法違反年齢層別検挙人員(昭和48年) 次に,昭和48年における覚せい剤取締法違反の検挙人員について職業別の構成をみると,III-16図のとおりである。これによると,無職の者が最も多く総数の45.4%を占め,次いで,労務者の10.0%,風俗営業関係者の6.1%,風俗営業以外の飲食業関係者の5.1%,建設業者の2.9%,会社員の1.8%,主婦の1.6%の順となっている。これを前年の構成比と比較すると,特に,会社員及び主婦の検挙人員とその構成比の増加が著しく,覚せい剤の濫用が一般市民の間にも浸透しつつあることを物語っている。III-16図 覚せい剤取締法違反職業別検挙人員(昭和48年) 次に,覚せい剤の取引は,暴力団の資金源として利用されているので,覚せい剤取締法違反の検挙人員のうち暴力団関係者の占める割合をみると,III-117表のとおりである。最近5年間における検挙人員中の暴力団関係者は逐年急激に増加しており,昭和48年には5,092人に達し,総数の61.3%を占めている。覚せい剤取締法違反の取締の上で,暴力団関係者による違反の検挙とこれに対する厳正な処分が極めて重要であることが理解される。III-117表 覚せい剤取締法違反検挙人員中暴力団関係者の比率(昭和44年〜48年) (2) 覚せい剤使用者による犯罪 覚せい剤使用者による犯罪は,覚せい剤取締法違反のほかに,覚せい剤の入手資金の獲得を目的として行われる財産犯,覚せい剤の急性又は慢性中毒による精神障害等の下で行われる凶悪犯及び粗暴犯などがある。特に,中毒者による犯罪は,被害,しっと,追跡等の妄想,幻視,幻聴等の幻覚などの精神障害による衝動的又は一方的な暴行,傷害,殺人,放火などの犯罪がみられ,社会に与える影響は非常に大きい。
そこで,昭和48年における覚せい剤取締法違反の検挙人員のうち,覚せい剤の中毒者と認められる者の割合をみると,覚せい剤中毒者は3,026人であり,総数の36.5%に及んでいる。最近の5年間において,検挙人員の増加に伴い,検挙された中毒者も逐年激増しており,厳戒を要するところである。 次に,最近において覚せい剤の使用者又は中毒者によって犯された犯罪の幾つかの事例を,法務省刑事局の資料によって紹介することとする。 ア 殺人事件 (ア) 覚せい剤を常用していた31歳の男性が,昭和48年2月,京都府の自宅において,内妻を某国のスパイと妄想し,愛国者の自負から内妻を生かしておけないと思い,就寝中の内妻の腹部等を脇差しで突き刺して殺害した。 (イ) 覚せい剤の中毒者である24歳の男性が,その所属する暴力団関係者から次第に疎外されるようになった原因について,かねて出入りしていた喫茶店の支配人が,自分から聞き出した暴力団内部の情報を警察に密告したことによるものと思い込み,同人を殺害して身のあかしを立てようと決意し,昭和48年4月,東京都内の路上において,同人の胸部等を刺身包丁で突き刺して殺害した。 (ウ) 覚せい剤の常用によって中毒性精神病の幻覚妄想状態にあった28歳の男性が,昭和48年7月,東京都内のアパートにおいて,内妻の頭部を鉄製のほうきの柄で殴打して殺害した。 イ 放火事件 (ア) 覚せい剤を常用していた32歳の男性が,昭和48年3月,東京都内のアパートにおいて,妻が他の男と情交関係があると邪推し,口論の絶えなかった妻に対するうっ憤を晴らすため,衣類等を散乱させた上,灯油を散布し,これに火をつけて放火し,アパートの一部を焼燬した。 (イ) 覚せい剤の慢性中毒のため幻覚妄想状態に陥っていた36歳の男性が,昭和48年4月,横浜市内の実母方家屋の畳の上に灯油をまいてマッチで放火し,同家屋及び隣接する家屋4棟を全焼させた。 ウ 強盗事件 覚せい剤の濫用により被害妄想を伴う精神分裂症様病状を呈していた36歳の男性が,昭和47年9月,横浜市内の路上で,乗車していたタクシーの運転手を殺し屋仲間と,つり銭入れを無線機又は録音機と思いこみ,いきなり,その運転手の首を締めつけ,現金3,450円在中のつり銭入れを強取しようとしたが,同運転手が警察官に助けを求めたため,その目的を遂げなかった。 エ 強姦事件 覚せい剤の常用者である41歳の男性が,妻に逃げられてその所在を捜すうちに,昭和48年2月,横浜市内に住む知り合いの女性の居室を訪ね,その女性と話し合った際,突然,室内にあった包丁を突きつけ,えり首をつかんで引きずるなどして強姦しようとしたが,同女に逃げられて未遂に終わり,その際,同女に加療10日間を要する傷害を負わせた。 オ傷害致死事件 覚せい剤の常用者である26歳の男性が,昭和48年2月,自ら入院治療する目的で大阪市内の病院に赴いた際,暴れ出し,駆けつけた警察官に対して,同人から奪い取った拳銃でその胸部を撃って死亡させた。 以上に紹介した事例は,現実に発生した事件のごく一部にすぎず,その外にも,覚せい剤の使用者がその影響の下に行った傷害,恐喝,公務執行妨害,銃砲刀剣類所持等取締法違反などの犯罪が少なからず発生しており,社会に大きな影響を与えている。 |