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2 処遇の概要 少年院における処遇は,矯正教育とほとんど同義といってよいが,それにとどまるものではなく,少年の収容に伴う生活の衣・食・住の三大基本要素を始め,生活条件の整備・管理を含んでいる。したがって,処遇は生活指導を基礎として展開され,「在院者の心身の発達程度を考慮して,明るい環境のもとに,紀律ある生活に親しませ,勤勉の精神を養わせるなど,正常な経験を豊富に体得させ,その社会不適応の原因を除去するとともに長所を助成し,心身ともに健全な少年の育成を期して」(少年院処遇規則1条)行われるのである。
(1) 教科指導 昭和48年の少年院新収容者中,義務教育未修了者は268人で,新収容者総数中の11.8%に当たる(前掲III-84表参照)。
少年院においては,義務教育未修了の少年に対し,義務教育修了の資格を得させることを目的として,初等少年院を中心に,教育関係法令に準拠した中学課程の教科指導を実施している。少年院の長は,教科を修了した者に対して,学校教育法により設置された各学校の長が授与する卒業証書と同等の効力を有する修了証明書を発行できることとなっている。昭和48年において中学校第3学年の課程の修了証明書(又は出身学校長による卒業証書)を授与された出院者は228人で,全未修了者の約81%となっている。 幾つかの少年院は,特に法務省の指定するところにより,教科教育をその処遇計画全体の中心として実施しており,そのため視聴覚機器を始め各種の教育機器(シンクロファックス等)の導入がなされている。 この教科教育専門施設には2種類あり,一つは義務教育専門施設で,千葉星華学院など8庁が指定され,他は高等学校通信教育課程の施設で,富山少年学院と喜連川少年院の2庁がこれである。富山少年学院では昭和37年4月に富山県教育委員会の認可を受け,院内に学級を設け,スクーリングはもよりの公立学校の教師が来院して指導が行われている。なお,喜連川少年院については,昭和49日4月に,同様の方式で発足したものである。 (2) 職業補導 昭和48年の少年院新収容者中,無職の者は例年と同じく約半数を占めている(前掲III-85表参照)。また,収容少年の職業歴をみると,職業生活に安定できるような知識・技能・態度に欠ける者が多い。このような収容者に対して,労働を重んずる態度と規則正しい勤労の習慣を養わせ,職業生活に必要な知識・技能を授け,将来の自立を図ることを目的として,職業補導が行われている。
そのため,中等少年院及び特別少年院の中の幾つかの少年院は職業補導の重点施設に指定されており,それには次のようなものがある。 ア 職業訓練専門の施設 職業訓練法に基づき一般の専修職業訓練校と同内容の職業訓練を行い,履修者に対しては労働省職業訓練局長名の職業訓練履修証明書が授与される。主な種目は,機械・溶接・木工・建築・板金・電子機器・製版印刷・機械製図であり,多摩少年院など全国で9庁が指定されている。昭和48年におけるその履修証明書の取得状況は,III-89表のとおりである。 また,各省大臣の定める基準に従って各種の公的な資格・免許の取得につながる訓練課程を置いている施設があり,それには次のようなものがある。 理容科:浪速少年院など4庁 美容科:明徳少女苑 電工科:神奈川少年院など6庁 建設機械運転科:茨城農芸学院など3庁 船舶科:新光学院 自動車整備科:愛知少年院など10庁 このほか,溶接,板金などの職業訓練法に準拠した履修課程を設けている施設もある。 上記のうち,やや特殊な新光学院の船舶科について補足説明をしておく。これは,特別少年院在院者中,出院後海員となることを志望する者に対して,必要な技能を習得させ,海事従事者国家試験を受けさせて,丙種航海士と丙種機関士の資格を取得させようとするものである。毎年2回,甲板科と機関科を開設し,おおむね9か月間教育する。院内に「新光海洋学校」を設け,26.6トンの「新光」を有している。 イ 職業補導専門の施設 専門的,集中的な職業訓練を行うのでなく,職業生活に対する一般的指導を行うもので,前項の施設以外の中等少年院,特別少年院の多くがこの施設である。 これらの施設では,通常,試行課程若しくはゼネラル・ショップ制と呼ばれる方法がとり入れられている。これは,例えば,木工・機械・板金・製図など数種類の基礎的課程を用意し,その各作業を順次指導しつつ,少年の適性発見に努めるとともに,基礎的な職業指導を行っており,また,この試行課程を終えたあと,各種の実科に編入して勤労の習性を助成するものである。 なお,初等少年院在院中の義務教育を修了した者に対して職業的ガイダンス課程を設けている施設がある。これは,中学校学習指導要領の技術家庭科を参考とし,より充実した指導を行って,職業生活の基礎的能力,職業選択の基礎的能力を付与しようとするものであって,赤城少年院がその試行的専門施設として指定されている。 III-89表 職業訓練履修証明書取得状況(昭和48年) 以上のような訓練・指導による資格・免許の取得状況は,III-90表のとおりである。III-90表 資格・免許取得状況(昭和48年) (3) 生活指導 少年院における生活指導の目標は,少年の反社会的な考え方や行動様式などを改めさせ,健全な社会性を発達させることである。これは,少年院における矯正教育に対する最も基本的な要請であり,その基盤となり,また,統合でもあるといえよう。したがって,上述の処遇重点がどのような施設であるかにかかわらず,生活指導は,全少年院において,在院生活の経過に応じ,計画的プログラムのもとに行われている。すなわち,入院当初には日常生活における基本的な行動様式を身に付けさせることを主眼として指導を行い,期間の経過に従って漸次社会生活に必要な基礎的訓練指導を行い,最後に出院前教育として出院後の生活設計を立てさせる指導を行っている。その具体的な指導内容は,大要次のとおりである。
ア 集団的活動 生活指導に際しては,正しい人間関係や社会関係の理解・体得が極めて大切であって,集団場面における指導が重要視される。この形のものとしては,学寮生活集団における公式な係組織による活動,各種の委員会活動,各種討議集会などが挙げられるが,広義に解すれば集団的な処遇活動はすべてこれに属するともいえよう。 イ 教養・情操活動 収容少年の多くが不遇な経歴を負っているので,その人間性と院内生活をより豊かなものにすることが望ましく,そのためには,少年院において教養・情操活動を充実させる必要がある。この種の活動としては,各種社会教育講座,受持教官による教育相談,篤志面接委員による面接,各種クラブ活動,レクリェーション活動などが挙げられる。加えて最近は,これらにとどまらず,社会福祉施設への慰問,公共の場所の清掃,BBS会員とともにするキャンプ,地域の生徒との討論集会,スポーツなどの親善交歓試合,施設行事への地域団体招待など,地域社会との理解・協力関係の促進,施設処遇の社会化の方向に沿った活動が活発になっているのが特徴である。 ウ 各種の治療的活動 生活指導を個々の少年の深い心情にまで及ぼすためには,専門的技術による治療的活動もまた必要である。この種のものとしては,個別及び集団のカウンセリング,心理劇などが比較的多く採用されているが,最近は行動療法,感受性訓練などの導入も検討されている。 以上のように,生活指導は極めて多様な形で行われているが,そのうち,クラブ活動について法務省矯正局が調査したところによると,昭和48年中のクラブ所属者数は4,685人,クラブ数444,クラブ活動の実施回数1万7,089回となっている。また,同年中の篤志面接委員による面接指導は,精神的相談・教養相談・家庭相談・職業相談など広い範囲にわたって9,982回行われている。 なお,生活指導として行われているものではないが,信仰を有する者,宗教的関心を有する者及び信仰を求める少年のために,民間宗教家による宗教的指導の機会が与えられている。 (4) 特殊な処遇 本節の初めに述べた少年院の特殊化の例として,更に体育専門施設及び短期施設がある。
ア 体育専門施設 少年期が体育によって心身を鍛練するのに最適の成長期であることから,体育・集団行動訓練・ゲーム等を通じて,規律正しさ・礼儀正しさ・フェアプレーの精神等を体得させようとするプログラムがあり,そのため,特に専門職員を配置した施設が指定されている。特別少年院としては小田原少年院が,中等少年院としては印旙少年院と和泉少年院が,それぞれこの種施設として指定されている。 イ 短期施設 中等少年院送致の決定を受けた少年の中で,それほど非行性の進んでいない者に対し6か月間の短期訓練を施すもので,和泉少年院での試行が昭和34年12月から認可されている。指導は,体育訓練と生活指導を中心に日課を組み,一級上に達すると開放的処遇を行い,院外に職業補導を委嘱している。 このほか,交通事犯関係少年のための短期施設が3庁設けられているが,それは第3章第4節において述べる。 短期処遇は,少年の非行がまだそれほど進行していないうちに,早期に計画的,集中的な矯正教育を行おうとするもので,努めて開放的な明るいふん囲気のもとで処遇をしている。最近の少年非行の態様の変化に対応しながら,今後更に増設の機運にあり,幾つかの地域で具体的検討が行われている。 (5) 医療衛生と給養 昭和48年中の出院者2,916人のうち,在院中に傷病によって休養したことのある者(教育訓練などの日課を停止し,病室に収容して医療を施すものを休養患者という。)は,984人である。休養患者の中には医療少年院で比較的長期間医療を受けた者が含まれている。
休養患者の病名では,非伝染性の呼吸器系疾患(その大部分は急性呼吸器系疾患である。)と消化器系疾患が最も多い。前者は休養患者総数の31.8%を,後者は20.5%を占めており,その平均休養期間は前者で5日前後,後者で15日前後である。 収容者の日常生活に必要な衣類・寝具・学用品などは,貸与又は給与することになっている。ただし,紀律や衛生に害がない限り,自弁品の使用が許される場合がある。 食糧の給与は,1人1日3,000カロリーであって,昭和48年度の1日1人当たりの主食費は,73.88円,副食費は,81.78円となっている。なお,年1回の誕生日菜,年11回の祝祭日菜(それぞれ25円),正月菜(300円)がこのほかに認められており,国民一般の食習慣に近づけるよう努力が続けられている。また,結核患者などの病人には特別に増給することができるようになっている。 |