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 昭和49年版 犯罪白書 第3編/第1章/第2節/1 

1 家庭

 家庭は,子供が始めて置かれる社会的環境であり,人格形成の基本的な場として重要である。それだけに,子供に対する家庭の基本的機能,すなわち,保護的・教育的機能などに障害があれば,それは,子供の情緒を不安定にし,子供の人格形成に悪影響を及ぼし,ひいては犯罪などの逸脱行動へ導く危険性があることは,しばしば指摘されているところである。以下,子供に対する家庭の基本的機能に障害を与えやすい要因として,親の欠損や家庭経済などを取り上げ,最近におけるその状況を家庭裁判所の統計等によってみることにする。
 III-20表は,全国の家庭裁判所が取り扱った一般保護少年(少年保護事件中から,道路交通法違反及び自動車の保管場所の確保等に関する法律違反事件を除いた事犯の少年)の保護者の状況を示したものである。これによると,過去十数年の間に,かなりの変化がみられる。すなわち,昭和30年及び35年の一般保護少年中,実父母がいる者の割合は,45.1%及び47.1%であり,47年の63.8%をこれに比較すると,最近における実父母の欠損状況の著しい減少が明らかである。また,死亡,別居,離婚などにより,親の一方を欠いている実父又は実母だけの家庭(片親欠損家庭)の割合は,両者を合計しても,47年は14.0%にすぎず,30年の34.6%に比べて大幅な減少を示している。

III-20表 一般保護少年の保護者の状況(昭和30年,35年,40年,46年,47年)

 次に,III-21表は,一般保護少年の保護者について,その経済的生活程度の状況を示したものである。経済的生活程度の厳格なは握については,一般に困難が伴うところではあるが,ここでは,収入,生活内容等を基礎に,社会通念により認定されるものによっている。一応の基準は,次のとおりである。

III-21表 一般保護少年の保護者の経済的生活程度(昭和30年,35年,40年,46年,47年)

 富裕:豊かな余裕のある生活をしているもの。普通:借財なく,収入のみで生活しうるもの。貧困:辛うじて生活を営みうるが,不時の支出については,借財しなければまかなえない程度のもの。要扶助:生活が極めて困難で,生活扶助を得て生活を営んでいるもの。
 これによると,この十数年間の傾向として,富裕及び普通の増加並びに貧困及び要扶助の減少が認められる。すなわち,構成比でみると,昭和30年には,普通が29.8%,貧困及び要扶助が合計して69.4%であったのに対し,47年においては,最近における所得水準の上昇傾向を反映してか,前者が78.7%,後者が18.5%と,両者の占める割合は,全く逆転している。
 従来,犯罪少年のうちに,欠損家庭や貧困家庭の出身者が多くみられたので,犯罪にかかわる要因として,親の欠損や貧困の問題が指摘されてきたが,最近においては,両親のそろった,貧しくない家庭,すなわち,普通一般の家庭出身の犯罪少年が増加しているところから,家庭の家族関係にみられる病理現象も重視されるようになった。このような動向は,当然に,現在,我が国において進行中の経済的,社会的,文化的な変動との関連において,それらに伴う新しい家族病理現象の徴候として,検討を加え,解明していく必要があろう。