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 昭和49年版 犯罪白書 第2編/第3章/第2節/3 

3 収容者の状況

 昭和48年における婦人補導院新収容者の知能指数,精神診断結果を示すと,II-86表及びII-87表のとおりであり,知能指数の低い者,精神薄弱その他精神に障害のある者がかなりの部分を占めていることは,近年継続的にみられるところである。

II-86表 婦人補導院新収容者の知能指数別人員(昭和46年〜48年)

II-87表 婦人補導院新収容者の精神状況(昭和46年〜48年)

 最近では収容者数も少ないので,単年度の新収容者のみではその実態を明らかにすることができない。そこで収容開始以来の収容者の,年齢,知能指数,精神診断結果,疾病状況,教育歴,配偶関係,売春経験年数,前科歴及び出院後の予定生活手段についての累計に基づいて検討することとする。これらの累計を図示したのが,II-9図10図11図12図13図14図15図16図17図までである。

II-9図 婦人補導院新収容者の年齢(昭和33年〜48年の累計)

II-10図 婦人補導院新収容者の知能指数(昭和33年〜48年の累計)

II-11図 婦人補導院新収容者の精神診断結果(昭和33年〜48年の累計)

II-12図 婦人補導院出院者の入院時傷病と出院時状況(昭和34年〜48年の累計)

II-13図 婦人補導院新収容者の教育歴(昭和34年〜48年の累計)

II-14図 婦人補導院新収容者の配偶関係(昭和33年〜48年の累計)

II-15図 婦人補導院新収容者の売春経験年数(昭和36年〜48年の累計)

II-16図 東京婦人補導院収容者の前科歴(昭和33年〜48年の累計)

II-17図 婦人補導院出院者の予定生活手段(昭和34年〜48年の累計)

 まず,年齢についてみると,20歳代が4割強であるが,35歳を超える者も4割近くおり,次第に高年齢者の多くなっている状況がここに反映している。
 知能指数は,90以上の者はほぼ1割で,限界級といわれる70台が約2割,70未満が半数を超え,特に3割以上の者が60未満で,知能指数の低い者の多いことが目立っている。
 精神診断の結果をみると,精神薄弱とされる者が41.9%おり,精神病質若しくは精神病質傾向とされる者が6,9%であり,正常と診断される者は1割に満たない。知能の低い者が多いということは,女子受刑者の場合に精神薄弱が例年約10%とされているのと比較して,婦人補導院収容者の特徴の一つといえよう。
 疾病状況についてみると,性病に罹患している者が約4割近くおり,その他の疾患のある者を加えると新収容者のうち3人に2人までが何らかの疾病者であるということになる。教育歴についてみると,中学校卒業が最も多いが,半数が義務教育を終わっていない。
 配偶関係をみると,3割近くが離婚の経歴を有しており,有夫の者もほぼ同じ割合を占めている。
 売春の経験年数についてみると,半数以上の者が5年を超えており,15年以上の者も少なくない。
 前科についてみると,東京婦人補導院で同院入院者について調査したところによれば,前に単純な執行猶予の裁判を受けたことのある者が約1割8分,保護観察付執行猶予の裁判を受けた者が約1割7分,補導処分に付された者が約3割5分,罰金刑に処せられた者は9割近くであって,平均1人約5回の前科歴を有している。全く前科のない者は数%にすぎない。
 出院後の予定生活手段は,保護施設,知人のもと,女中・派出婦,炊事・雑役夫,店員・女工など不安定なものが多い。
 以上検討したところを取りまとめると,婦人補導院に入院してくる者は,資質的,健康的,生育史的,環境的観点のいずれにおいても恵まれていない者が極めて多いといえるであろう。