前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和49年版 犯罪白書 第1編/第2章/第8節 

第8節 過激派集団相互間の暴力犯罪

 昭和42年10月のいわゆる第一次羽田事件以来,一部の学生を中心とする過激派集団の暴力事件は,全国各地にひん発し,44年には,東大事件,沖縄デー事件,国際反戦デー事件,首相訪米阻止事件等が発生し,この種事犯による検挙人員は最高となった。45年には,学園の正常化に伴い,この種事犯の発生は減少するに至ったが,一部過激派学生等は,日航機乗取り事件,交番襲撃事件,銀行襲撃事件等それまでの集団暴力事件とは様相を異にする越軌行動を敢行するに至った。
 昭和46年には,過激派学生らの動きは,再び活発化し,成田空港用地代執行阻止闘争事件,沖縄返還協定批准阻止闘争事件等の発生により,検挙者は多数に上った。また,犯行方法は,大量の火炎びんを主たる凶器とし,爆弾をも使用して,警察官多数を殺傷し,民間施設を含む無差別放火など,凶悪なゲリラ的活動となって現れた。
 一方,過激派学生集団から派生した超過激派グループは,専ら爆弾を使用する凶悪なテロ行動に走り,警視庁幹部宅,交番等において爆弾事件をじゃっ起し,社会に大きな不安を生じさせた。
 更に,昭和47年には,いわゆる連合赤軍によるあさま山荘事件及び同事件の犯人検挙によって発覚したせい惨な大量リンチ殺人事件や,テルアビブ空港事件などが発生し,国民全体に異常な衝撃を与えた。その後,過激派集団による大規模な武装闘争の発生や,凶悪なテロないしゲリラ活動も影を潜めたが,過激派集団は,それぞれの組織の再編と勢力の伸長を図り,そのための勢力抗争をめぐって,47年11月に発生した早稲田大学の事件にみられるようないわゆる内ゲバ事件がひん発するに至り,この傾向は本年に入っても続いている。その犯行の態様も執ようかつ凶悪化の一途をたどっており,治安上看過し難い様相を示している。この種事犯は,引き続き反復して敢行されることが予測され,また,組織の非公然化,軍事化を進めようとする動きや,住民運動,労働運動に介入して活動の場を拡大しようとする傾向も認められるほか,国際連帯を標ぼうして海外組織との連携のもとにハイジャックなど重大な事犯を反復することも懸念されるので,これらの動向には,厳戒を要するところである。
 以下,最近における過激派集団相互間の暴力事犯(いわゆる内ゲバ事犯)の動向を概観してみることとする。
 昭和45年から48年までの過激派集団相互間の暴力事犯の発生及び検挙状況をみると,I-71表のとおりである。48年には,238件の内ゲバ事犯が発生したが,これによる死傷者数は575人(うち死者2人)で,過去4年間において最も多い。内ゲバ発生当初の形態は,集会,デモ等における主導権争いから集会場等の集団相互間の抗争が大部分を占め,使用される凶器もプラカードの柄,竹竿,角材等であった。ところが,最近では,襲撃専門の特別部隊を編成し,攻撃目標に対する徹底した調査を行い,綿密な計画を練って根拠の大学,アジト,構成員の宿所,更には街頭において急襲するなど,計画的・組織的となっている。使用凶器も,鉄パイプ,バール,まさかり,とび口,掛矢などにエスカレートしており,攻撃方法も全身を乱打し,特に頭部をねらう事案が多くなるなど凶悪化している。その結果,一般市民をも巻き添えにするに至っており,犯行はますます悪質化している。また,48年中に発生した内ゲバ事件をセクト別にみると,いわゆる革マル派対反革マル派(いわゆる中核派,反帝学評派など)の抗争事件が全体の約7割を占めている。

I-71表 内ゲバ事犯発生・検挙状況(昭和45年〜48年)

 次に,昭和45年から48年までに発生した内ゲバ事件について,全国検察庁における受理及び処理の状況をみると,I-72表のとおりである。これによると,受理人員は47年まで減少していたが,48年に発生した事件の受理人員は385人で,前年より163人増加している。48年に発生した事件の処理人員は340人で,処理区分別では,起訴112人,不起訴199人,家庭裁判所送致29人となっている。その起訴率は36,0%である。

I-72表 内ゲバ事件検察庁受理・処理状況(昭和45年〜48年)

 次に,この種事件で昭和48年中に第一審裁判があったもの28件,78人についてその科刑状況をみると,I-73表のとおりである。これによると,有罪総人員78人(一部無罪4人を含む。)のうち,懲役刑が54人(69.2%),罰金刑が24人(30.8%)となっており,禁錮,拘留,科料の刑に処せられた者はいない。懲役に処せられた者のうち,実刑となった者は5人(9.3%),執行猶予の付せられた者は49人(90.7%)である。また,有罪となった78人について,その科刑分布をみるとI-74表のとおりである。まず,懲役の刑期についてみると,実刑となった者5人の科刑は,1年以下1人,2年以下4人である。その内容は,監禁致傷及び強要により懲役1年6月に処せられた者が3人,傷害及び暴力行為等処罰に関する法律違反により懲役1年6月に処せられた者が1人,傷害により懲役10月に処せられた者1人である。刑の執行を猶予された者では,49人のうち57.1%に当たる28人が6月を超え1年以下の刑に,18.4%に当たる9人が6月以下の刑に,14.3%に当たる7人が1年を超え2年以下の刑に処せられている。罰金額の分布をみると,24人のうち,1万円を超え3万円以下が13人,1万円以下が10人,3万円を超え5万円以下が1人となっている。

I-73表 内ゲバ事件の科刑状況(昭和48年)

I-74表 内ゲバ事件の科刑分布状況(昭和48年)

 罪名別にみると,兇器準備集合,暴力行為等処罰に関する法律違反,傷害・同致死,建造物侵入,監禁・同致傷,暴行,強要などである。また,事案の内容をみると,集会,デモ等における主導権争いから集会場等に集まった集団対集団の抗争事件など内ゲバの形態が凶悪化・悪質化する以前の事件が多く,このことが科刑状況に反映していると思われる。
 ところで,最近におけるこの種事犯は,その犯行態様の重点がテロ行為へ移行してきていること,目撃者がなかったり,犯人が犯行後すばやく逃走するなど犯行がより計画的,機動的になってきていること,被害者が捜査に非協力的であることなどの事情により,その検挙は一般的に困難になってきている。前述のように,この種事犯は凶悪化・悪質化の一途をたどって一般人を巻き添えにするに至っており,既に重大な社会問題となっているのであるが,これらの実力を備えた集団が相互間の抗争をやめ,共通の闘争目標をとらえていっそう強力かつ過激な行動に走るおそれもあるので,この種事犯に対しては,いっそう強力な検挙活動と厳正な裁判が期待される。