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1 ニューヨークの犯罪動向 まず,アメリカ合衆国の最大の都市であり,人口787万を数えるニューヨークについて,その犯罪動向を検討することにする。I-72表は,1963年から1971年までのニューヨークにおける主要刑法犯の発生件数を示したものである。ここにいう主要刑法犯は,ほぼ指標犯罪(Crime Index Offenses)に相当するものであるが,過失致死と50ドル未満の窃盗を含むため,指標犯罪よりもその範囲が若干広くなっている。ニューヨークでは,1963年から1971年までの間に,人口は1.01倍に増加したにすぎないのに,同表によると,主要刑法犯の総数は,3.01倍に激増している。罪名別の推移をみると,過失致死を除く他のすべての犯罪について増加しており,1963年を100とする指数でみると,1971年において,最も増加の著しい犯罪は強盗であり,その指数は1,304となっている。次いで,不法侵入の424,自動車盗の356,強姦の293,謀殺・故殺の268,加重暴行傷害の260,窃盗の178の順となっている。また,1971年における罪名別構成をみると,窃盗が総数の31.6%で最も多く,不法侵入の30.6%,自動車盗の16.3%,強盗の15.0%,加重暴行傷害の5.7%,強姦の0.4%,謀殺・故殺の0.2%と続いている。
I-72表 主要刑法犯発生件数(ニューヨーク)(1963年,1965年,1967年,1969年,1971年) ニューヨークの犯罪動向をアメリカ合衆国全国の犯罪の推移と比較すると,1963年から1971年までの間に,全国の指標犯罪総数では2.65倍に増加しているのに対して,ニューヨークの主要刑法犯総数では3.01倍に増加している。罪名別にみると,窃盗及び過失致死を除く他のすべての犯罪において,ニューヨークの増加率が全国の増加率を大幅に上回っているが,特に,強盗については,全国では3.85倍の増加であるのに対して,ニューヨークでは13.04倍の増加となっている。また,1971年におけるニューヨークの罪名別構成を全国のそれと比較すると,不法侵入については,全国では総数の39.5%であるのに,ニューヨークでは30.6%と低くなり,逆に,強盗については,全国の構成比は6.4%にすぎないのに,ニューヨークでは総数の15.0%となっているのが特徴的である。その他の罪名の構成比では,両者の間に余り大きな差はみられない。次に,ニューヨークにおける重罪刑法犯の逮捕者の年齢層別及び性別の推移をみると,重罪刑法犯の逮捕人員は,1963年の4万5,837人から1970年の9万4,024人に増加しているが,その年齢層別の構成については,16歳未満の少年層では,1963年の総数の16.9%から,1970年の総数の10.7%に下降し,25歳以上の成年層でも,46.0%から42.0%に低下しているのに対して,16歳以上21歳未満の青年層では,22.7%から27.0%に増加し,21歳以上25歳未満の若年成人層でも,14.3%から20.2%に上昇している。性別による構成比では,1963年には男性が総数の89.8%,女性が10.2%であったが,1970年には男性が88.9%,女性が11.1%に変化し,女性の割合が若干増加している。このように,ニューヨークでは,16歳以上25歳未満の青少年及び若年成人による犯罪の増加が著しく,また,女性犯罪も,男性犯罪と比較してその増加率が高いことが目につく。 また,ニューヨーク市警察局の統計報告書により,ニューヨークにおける麻薬犯罪の推移をみると,危険薬物犯罪(Dangerous drug offensesニューヨーク州刑法〔1967年〕220節の罪で,へロイン,モルヒネ,コカイン,合成麻薬,LSD,あへん,大麻及び覚せい・鎮静剤事犯を含む。)の発生件数は,1963年には6,933件にすぎなかったのに,1970年には約7.7倍の4万8,313件に激増しており,麻薬犯罪が深刻な社会問題となっていることを示している。 なお,1970年のニューヨークにおける死傷の結果を伴う交通事故は,4万8,254件であるが,そのうち,死者は895人,負傷者が7万1,002人であり,この被害状況は,後に述べるロンドンや東京における交通事故の被害よりも大きくなっている。 |