前の項目 次の項目 目次 図表目次 年版選択 | |
|
一般に,都市における犯罪の発生率は,郡部における犯罪発生率よりも高いといわれ,これは我が国のみならず各国に共通の現象である。1972年の警察庁の資料によると,我が国の人口10万人以上の都市では,人口合計が全国総数の52.6%であるのに,業務上(重)過失致死傷を除く刑法犯の発生件数は,総数の71.4%の高きに達している。同様に,アメリカ合衆国の連邦検察局統一犯罪報告書(1971年)によると,調査対象となった人口10万人以上の都市では,人口合計が総数の31.2%であるのに,指標犯罪の認知件数は,総数の51.6%を占めている。また,1971年のドイツ連邦共和国の警察犯罪統計によれば,人口10万人以上の都市では,人口合計が全国総数の32.5%にすぎないのに,刑法犯の発生件数は,総数の52.0%に及んでいる。このように,各国における犯罪対策の上で,都市犯罪が重要な問題となっているが,いかなる理由で都市において犯罪が多数発生するのであろうか。その理由として,都会地では,社会階層,職業等の構成が複雑で移動性に富み,社会規範が多岐にわたり,価値観や生活意識などの点で矛盾相克があるうえ,非公式の社会統制が希薄であり,犯罪への誘惑も多く,匿名性の高い社会環境のもとで,欲求や不満を犯罪行為によって充足させ又は解消させようとする機会も多いため,犯罪行為が多発する傾向があるといわれている。そして,社会が都市化・工業化の方向に進むに伴い,犯罪発生要因が増大し,更に犯罪が増加する可能性があるとされている。
ところで,我が国及び欧米の先進諸国では,社会の都市化・工業化が進展しているため,その国の犯罪動向は,主として都市犯罪のすう勢によって左右され,その犯罪対策の効果的な運用は,都市における犯罪の防止及び取締りの成否にかかっているといっても過言ではない。そこで,本章では,我が国の都市犯罪の動向と特徴を明らかにするため,東京都特別区(以下,「東京」という。)と大阪市(以下,「大阪」という。)を取り上げ,その犯罪現象について,同じ先進諸国であるアメリカ合衆国,連合王国及びドイツ連邦共和国の大都市における犯罪動向と比較,検討することとする。いうまでもなく,各国では,それぞれ統計方法を異にし,基礎となる犯罪の種類や要件にも差異があるので,正確な犯罪現象の比較は困難であるが,各国の大都市における概括的な犯罪の傾向と特徴をは握することは可能である。 まず,I-10図は,1963年から1972年までの東京,大阪,ニューヨーク,ロスアンゼルス,シカゴ,ロンドン,西ベルリン及びハンブルクにおける刑法犯の発生率(人口10万人当たりの発生件数)の推移を示したものである。同図においては,東京及び大阪における業務上(重)過失致死傷を除く刑法犯,ニューヨーク,ロスアンゼルス及びシカゴにおける主要刑法犯,ロンドンにおける要正式起訴犯罪,西ベルリン及びハンブルクにおける重罪・軽罪刑法犯の各発生率を挙げている。交通に起因する過失致死傷は,他の刑法犯と異なる性質を持つので,この種比較の便宜上,各都市の発生率算出の基礎となる発生件数の中から除いている。同図によって,1963年の犯罪発生率を100とする指数により,各都市の刑法犯発生率の推移をみると,最も増加の著しいのは,ニューヨークで1971年の指数は298となっており,次いで,西ベルリンの増加率が大きく,1972年の指数が206となっている。その他の都市では,ロンドンが164(1971年),ロスアンゼルスが157(1971年),ハンブルクが157(1972年),シカゴが130(1971年),東京が87(1972年),大阪が63(1972年)となっている。なお,フランスのパリについては,過去10年間の刑法犯発生件数に関する資料を入手し得なかったが,同国司法省の一般報告書によると,パリの重罪法院及び軽罪裁判所における重罪又は軽罪による有罪判決確定者数は,1969年の3万4,331人から1970年の3万6,834人に増加している。 I-10図 主要都市別刑法犯発生率の指数(1963年〜1972年) このように,最近10年間に,アメリカ合衆国,連合王国及びドイツ連邦共和国における大都市では,いずれも刑法犯が増加しているのに,我が国の東京及び大阪では刑法犯が減少しており,特に,大阪では,1972年において,刑法犯発生率が10年前の約6割の比率に低下していることが注目される。次に,これらの主要都市における犯罪現象を内容的に分析するため,項を分けて,都市別に犯罪動向を考察することにする。 |