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 昭和48年版 犯罪白書 第1編/第2章/第7節 

第7節 公害犯罪

 近年飛躍的な経済の発展を続けてきた我が国にとって,公害問題をいかにして解決するかは,国政上の最も重要な課題の一つであり,特に昭和45年末の公害国会と呼ばれた第64回臨時国会以来,公害関係法制の整備強化が図られるとともに,引き続き計画的かつ総合的な公害対策が推進されつつある。本白書では,昭和46年版以来公害犯罪の問題を取り上げてきたが,いわゆる公害国会以降において制定された多数の公害関係法律は,その後逐次施行され,その大部分については,施行後既に2年余を経過するに至っている。そこで,本年版の白書では,昭和46年7月1日から2年間の全国検察庁における公害関係法令違反事件受理人員数を中心に,公害犯罪の動向を概観してみることとする。
 まず,昭和47年7月1日から48年6月30日までの1年間(以下,「後の1年間」という。)の全国検察庁における公害関係法令違反事件の新規受理人員数を,法令別に,昭和46年7月1日から47年6月30日までの1年間(以下,「前の1年間」という。)の数と対比してみると,I-63表のとおりである。これによると,後の1年間における公害関係法令違反事件の新規受理人員総数は,3,552人であり,前の1年間と比較すると,1,901人(115.1%)の増加となっている。これを法令別にみると,最も多いのは,廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反(清掃法違反を含む。)の1,310人で,この種の犯罪全体の36.9%を占めており,これに次ぐのは,海洋汚染防止法違反(船舶の油による海水の汚濁の防止に関する法律違反を含む。)の1,144人で全体の32.2%を占めている。以下,港則法違反(24条1項関係)の502人(14.1%),河川法違反(同法施行令16条の4の1項2号,16条の5の1項,16条の8の1項1号関係)の215人(6.1%),水質汚濁防止法違反の155人(4.4%)の順となっている。なお,この期間において,人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律違反につき11人,大気汚染防止法違反につき7人の事件が受理されている。これを前の1年間と比較してみると,海洋汚染防止法違反の914人増,廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反の809人増,水質汚濁防止法違反の143人増,河川法違反の51人増などが目立っている。このように,1年前の期間に比べて受理数が大幅に増加したのは,水質汚濁防止法のいわゆる直罰規定がすべての特定施設について全面的に適用されるに至るなど,公害関係法令の規定の適用猶予の期間が終了したという事情のほか,関係機関の公害関係事犯に対する厳正な取締りの結果であるといえよう。

I-63表 公害関係法令違反検察庁新規受理人員(昭和46年7月1日〜48年6月30日)

 ところで,公害の態様別にみると,受理人員数はどのようになっているであろうか。公害の態様として,公害対策基本法(2条)は,大気の汚染,水質の汚濁(水質以外の水の状態又は水底の底質が悪化することを含む。),土壌の汚染,騒音,振動,地盤の沈下(鉱物の採掘のための土地の掘さくによるものを除く。)及び悪臭の七つを規定している。法務省刑事局の調査による法令別受理人員数により,公害の態様別に公害関係法令違反の受理状況をみてみよう。法令名からみて水質汚濁関係の事件とみうる海洋汚染防止法違反,港則法違反,河川法違反,水質汚濁防止法違反,漁業調整規則違反の受理人員数の合計が総数に占める割合は,58.0%であり,廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反,毒物及び劇物取締法違反のうちの相当数も水質汚濁関係の事件と考えられるので,公害関係法令違反受理人員のうち,水質汚濁関係の事件が占める比率が高いといえよう。大気汚染関係,騒音関係,悪臭関係など水質汚濁関係以外の公害事犯の受理数は,比較的少ない。また,水質汚濁に関する事件の中でも,海洋汚染防止法違反,港則法違反などの海洋汚染に関する事件が多いことが目立っている。
 次に,公害関係法令違反事件の処理状況をみると,I-64表のとおりである。これによると,後の1年間の終局処理人員は3,150人で,そのうち,起訴された者が2,196人,不起訴処分に付された者が954人,起訴率は69.7%となっている。これを前の1年間の終局処理人員1,286人(起訴された者873人,不起訴処分に付された者413人),起訴率67.9%と比較すると,終局処理人員数が大幅に増加しているが,起訴率もわずかながら高くなっており,昭和47年における道交違反を除く特別法犯の起訴率が61.6%であるのに比較すると,公害関係法令違反事件の起訴率は,かなり高いものとなっていることが分かる。起訴区分をみると,起訴総数の98.0%に当たる2,152人が略式命令請求である。公判請求された者は44人であるが,そのうち,多いものを挙げると,廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反によるものの16人,水質汚濁防止法違反によるものの12人などである。

I-64表 公害関係法令違反検察庁終局処理人員(昭和47年7月1日〜48年6月30日)

 もとより,公害を抑止するためには,まず的確かつ強力な行政施策の実施が必要であり,刑事司法の関与する分野にはおのずから限界があるが,公害関係罰則の適正な運用を図ることが公害防止に資するところは,決して少なくはない。もっとも,この種事犯は,従来の犯罪とは類型がやや異なり,事案の解明に必要な資料の収集,科学的測定,分析方法の開発等真に実効ある取締りの実現には種々の困難な問題が存在している。しかしながら,今後における公害問題解決の重要な一環として,公害事犯に対しては,いっそう強力な捜査活動と厳正公平な裁判が期待される。