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 昭和48年版 犯罪白書 第1編/第2章/第6節 

第6節 公務員犯罪

 公務員による犯罪には,例えば収賄のように,公務員の職務に関して行われるものと,その職務に関係なく行われるものがあるが,ここでは,その両者を含めて公務員により行われたすべての犯罪について解説することとする。I-59表は,昭和43年以降,検察庁で新たに受理された公務員(公団や公社の職員のようないわゆる「みなす公務員」を除く。)による犯罪を主要罪名別に集計したものである。これによると,公務員犯罪全体の受理人員は,昭和43年以降逐年増加を続けており,昭和47年には,1万9,907人となっている。このような増加の主な原因は,業務上(重)過失致死傷の増加によるものであり,同罪の受理人員が公務員犯罪全体の受理人員に占める割合は,44年の64.3%から47年の73.4%まで上昇を続けている。昭和47年の数字を前年と比較すると,総数で1,551人(8.4%)増加しているが,その内訳をみると,刑法犯で,業務上(重〉過失致死傷が843人,職権濫用が756人それぞれ増加しており,受理人員数の増加は,この両者の増加に起因するものである。特に,職権濫用が1,263人で前年の2.5倍と大幅な増加を示しているが,これは,京都の同志社大学封鎖解除事件に関連して,警察官に対する同罪の告訴・告発事件が多数立件されたことが主な原因である。

I-59表 公務員犯罪主要罪名別検察庁新規受理人員(昭和43年〜47年)

 また,公務員犯罪の中で,特に注目される収賄は,前年より328人と大幅に増加し,748人となっている。
 次に,検察庁における公務員犯罪の処理状況を最近5年間についてみると,I-60表のとおりである。各罪名別にその処理状況をみると,職権濫用の起訴率が極めて低いこと,窃盗,偽造の起訴率が一般人を含めた場合の起訴率をかなり下廻っていることなどが特徴的であるが,これらの傾向は,ここ数年来変化がない。職権濫用の起訴率が極めて低いのは,この種の事件の大部分が,警察,検察庁,裁判所,矯正施設などの職員に対する告訴・告発事件であり,もともと犯罪とならないもの,犯罪の嫌疑がないかあるいは不十分なものや,告訴・告発時に既に公訴時効が完成しているものが多いためである。

I-60表 公務員犯罪主要罪名別起訴・不起訴人員と起訴率(昭和43年〜47年)

 前年と比較すると,詐欺罪の起訴率が上昇したのが目立っている。なお,起訴率が最も高いのは,業務上(重)過失致死傷であるが,起訴の内訳をみると,その98.9%が略式命令請求である。したがって,実質的に最も厳しい処理がなされているのは,起訴率がおおむね5割を超えている収賄であるといってよいであろう。
 ところで,収賄罪は,公務員犯罪の中でも最も世人の注目をひく犯罪の一つである。それは,この犯罪が,公務員の職務の公正を害することはもとより,政治,行政に対する国民の不信感を醸成し,ひいては,国民の遵法精神の低下を招くなど,社会一般に対して極めて大きな弊害をもたらすからである。収賄罪の検察庁における新規受理人員は,昭和45年,46年と減少を続けてきたが,47年は,前年の約1.8倍という大幅な増加を示しており,警戒を要するところである。
 I-61表は,警察の統計により,昭和32年から36年までの5年間とその10年後の42年から46年までの5年間に,それぞれ,賄賂罪で検挙された人員の多かった公務員(いわゆる「みなす公務員」を含む。)の職種を,上位の10位まで掲げて,その変遷を比較したものである。昭和32年から36年までの上位10位の検挙人員の累計は,1,631人で,地方公共団体の議会の議員,土木・建築関係の地方公務員等地方公務員関係者が,2位ないし4位並びに6位及び7位を占め,その合計は926人で,全体に占める割合は56.8%であった。一方,42年から46年までの上位10位の検挙人員累計は,1,627人で,前記の累計とほぼ同数であるが,土木・建築関係の地方公務員が激増して1位となり,地方公務員関係者がそろって上位を占め,その累計は1,208人で,全体の74.2%に達しており,地方公務員関係者の占める割合が増加しているのが注目される。

I-61表 贈収賄事件検挙人員比較(昭和32年〜36年,42年〜46年)

 次に,収賄事件の裁判所における科刑状況を,最近の5年間についてみると,I-62表のとおりである。これによると,収賄の執行猶予率は,毎年90%を超え,懲役刑に処せられる者の執行猶予率の平均がおおむね50%台であるのに比べ,著しい高率を示している。

I-62表 収賄罪通常第一審科刑別人員(昭和42年〜46年)

 また,1年以上の刑に処せられた者の占める割合は,前年より若干増加したが,おおむね30%前後であることには変わりない。
 ところで,一口に,収賄事件といっても,被疑者の地位や,犯行の手段,方法,犯罪の規模などが千差万別で,その原因を,一概に断定することは困難であるけれども,その重要な原因の一つとして,公務員の公の奉仕者としての自覚の欠如,綱紀のし緩を挙げることができよう。職務の公正,廉潔に欠ける公務員が,一般産業界その他国民生活に直接間接に影響を及ぼす分野において何らかの権限を行使するとき,ややもすれば役得意識を生じ,業者などの働きかけによって,金品やもてなしを受ける風潮が生じ,極端な場合には,これを要求する事例まで発生するに至るのである。
 この種事犯の発生を防止するには,公務員各自の自覚と綱紀の粛正が何よりもまず望まれるところであるが,同時にこの種事犯に対する厳正な取締りと犯人の責任に応じた適正な科刑が必要であり,かかる観点から,この種事犯の検挙及び科刑の状況については,今後いっそうの関心が払われるべきである。