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昭和46年までの選挙犯罪の詳細については,従来の白書において,その都度検討してきたところであるので,ここでは,昭和47年12月の衆議院議員総選挙の際に発生した選挙犯罪を中心に解説することとする。
まず,過去7回の総選挙に際し,全国の検察庁が受理した選挙犯罪の人員と違反態様別の内訳をみると,I-53表のとおりであり,受理人員総数と買収事犯の受理人員数をグラフに示すと,I-3図のとおりである。これによると,昭和30年及び33年の総選挙に際しての受理人員は,3万人台であったが,35年及び38年の総選挙に際してのそれは5万人台に増加したが,42年及び44年の総選挙に際しての受理人員はかなりの減少を示し,前回44年分の受理人員数は,2万5,475人となっていた。47年の総選挙に際しての受理人員は,3万2,582人で(昭和48年5月31日現在),前回分の受理人員と比べ7,107人(27.9%)の増加となっている。違反態様別の百分比をみると,いずれの選挙においても,買収(饗応,利害誘導,言論買収,その他の買収を含む。)が8割以上を占めており,選挙犯罪の受理人員総数の増減は,主として買収事犯の受理人員数の増減によるものであることが分かる。 I-53表 衆議院議員総選挙の選挙違反検察庁受理人員と比率(昭和30年,33年,35年,38年,42年,44年,47年) I-3図 衆議院議員総選挙の選挙違反検察庁受理人員総数と買収事犯の受理人員の推移(昭和30年,33年,35年,38年,42年,44年,47年) 昭和47年12月施行の衆議院議員総選挙に際して受理された選挙違反の態様と,前回分のそれとを比較してみると,I-54表のとおりであって,買収が前回の2万1,869人に比し8,261人(37.8%)増加しており,これによってみると,受理人員総数の増加は,専ら買収事犯の増加に起因するものであることが明らかである。選挙違反の態様をみると,47年の総選挙では,買収が圧倒的に多く,総数の92.5%を占め,次いで,文書違反(新聞紙・雑誌の頒布・掲示違反を含む。)の3.3%,戸別訪問の3.1%の順となっており,前回の総選挙と比較すると,買収の占める割合が増加し,戸別訪問の占める割合が減少していることが目立っている。前回の約1.4倍に増加した買収事犯について,その態様をみると,依然として,後援会その他の組織を利用した典型的な現金買収事犯が少なからず発生していること,企業ぐるみあるいは地域ぐるみともいえるような多数の関係者による大規模な事犯が多発していることなどの傾向がみられる。I-54表 衆議院議員総選挙に際して受理ざれた選挙違反の態様(昭和44年,47年) 次に,47年の総選挙に際しての選挙違反事件について,検察庁における処理状況をみてみよう。同選挙に際して受理された選挙犯罪の態様別処理人員は,I-55表のとおりである。I-55表 昭和47年12月施行の衆議院議負総選挙の際の選挙違反の態様別処理人員(昭和48年5月31日現在) これによると,処理総数2万3,850人のうち,起訴された者は,1万285人(43.1%),不起訴処分に付された者は,1万3,565人となっている。起訴された者のうち,最も多いのは,買収の9,580人(起訴総数の93.1%)で,戸別訪問の345人,文書違反の278人がこれに次いでいる。次に,選挙犯罪の裁判結果についてみることとする。個々の選挙別にその裁判結果を知ることのできる資料がないので,最高裁判所の統計により,昭和42年から46年までの5年間における選挙犯罪の第一審有罪人員をみると,I-56表のとおりである。これによると,第一審有罪人員のうち,懲役又は禁錮に処せられた者は,約9%ないし23%であるが,その97%以上に執行猶予が付されているので,選挙犯罪によって第一審において有罪の裁判を受けた者のうち,自由刑で実刑となった者は,最近5年間についてみると,約450人に1人の割合である。 I-56表 選挙犯罪第一審有罪人員(昭和42年〜46年) ところで,一部の軽微な選挙犯罪を除き,選挙犯罪で罰金以上の刑に処せられた者は,原則として一定期間公民権が停止されるが,裁判所は情状により公民権を停止せず,又はその期間を短縮することができることになっている(公職選挙法252条)。I-57表は,昭和42年以降46年までの第一審における公民権の不停止・停止期間の短縮の規定の運用状況をみたものである。これによると,公民権の不停止は,通常事件で7.0%以下,略式事件で3.7%以下にとどまっているが,停止期間の短縮は,通常事件で27.7%ないし44.5%であり,略式事件では,70.6%から84.5%に及んでいる。公民権不停止及び公民権停止期間短縮の割合を昭和46年についてみると,通常第一審事件では31.5%で,過去5年間の最低であるのに対し,略式事件では85.3%で,過去5年間中最も高率を示している。I-57表 第一審における公民権不停止・同停止期間短縮制度の運用状況(昭和42年〜46年) 迅速な裁判が要請されるのは,選挙犯罪の審理に限られることではないが,選挙犯罪の中でも,当選人等に係る選挙犯罪に関する刑事事件の審理については,公職選挙法において,特に規定を設け,判決は,事件を受理した日から百日以内にこれをするよう努めなければならないとしている(同法253条の2)。そこで,通常第一審における選挙違反事件のうち,いわゆる百日裁判事件にかかる事件の審理状況を,最高裁判所の資料によってみると,昭和46年中に既済となったもののうち,同裁判所事務総局刑事局に報告のあった60人中,100日以内に既済となった者は11人で,全体の18.3%であり,最も多いのは200日以内の29人(48.3%)で,平均審理日数は,234日となっている。次に,I-58表は,昭和42年から46年までの5年間に終局裁判のあった通常第一審事件全体と公職選挙法違反事件とについて審理期間を比較したものであるが,選挙違反事件の被告人1人当たりの平均開廷回数は,8.2回で,全事件の4.1回の2倍に当たっているのに対し,その平均審理期間は,12.8月で,全事件の5.2月の2.5倍となっていて,この種事件は,通常第一審事件全体に比べて,審理に手間どっていることが示されている。 I-58表 通常第一審事件と公職選挙法違反事件の5か年平均(昭和42年〜46年)審理期間の比較 |