前の項目 次の項目 目次 図表目次 年版選択 | |
|
1 矯正 (一) 交通犯罪受刑者の収容状況 近年,自動車の運転にかかる交通犯罪によって,自由刑に処せられる者が増加してきている。昭和四六年における業務上(重)過失致死傷の新受刑者(非交通関係を含む。)の数は,四,七六四人(前年比二四・八%増),道路交通法違反者では,六六八人(前年比六四・五%増)であり,増加の傾向が続いている(矯正統計年報資料による。)。
III-6図は,最近五年間における,年末現在交通犯罪受刑者(自動車および原動機付自転車の運転にかかる犯罪による受刑者をいう。以下同じ。)の推移をみたものである。昭和四六年における受刑者の数は,禁錮一,五五七人,交通犯罪のみにかかる懲役一,一四五人であり,前年比それぞれ一一・三%,八・二%増を示し,依然として増加を続けている。 III-6図 交通犯罪受刑者年末人員(昭和42〜46年) 年末在所受刑者の罪名別人員をIII-127表[1]でみると,業務上過失致死傷にかかる者が最も多く,ことに禁錮では,その構成比九八・五%と,ほとんどが同罪であることを示している。道路交通法違反にかかる者は,懲役で増加しており,別件なしのそれでは,前年比三四・五%増を示している。III-127表 交通犯罪受刑者の収容状況(昭和45,46年各12月31日現在) 年末在所受刑者の刑期別人員を調べたものが同表[2]である,禁錮,懲役(別件なし)ともに六月を越え,一年以内の者が最も多く,昭和四六年における構成比は,それぞれ五七・八%,四〇・一%となっている。同表[3]は,年末在所受刑者の年齢層別人員をみたものであるが,二〇歳台の年齢層の者が禁錮,懲役ともに過半数を占め,昭和四六年におけるその構成比は禁錮で六四・三%,懲役(別件なし)で五六・二%に達している。しかし,二〇歳台の者の構成比は減じ,三〇歳台以上の者の割合が前年に比べ増加している。 年末在所受刑者の前歴をみたのが同表[4]である。施設経験のない者が多く,昭和四六年では禁錮で九五・〇%,懲役(別件なし)で八一・七%を占めている。施設経験のある者の大部分は自由刑の受刑経験を有する者であり,ことに懲役(別件なし)ではその実数・割合ともに増加の傾向が認められた。 交通犯罪により,刑務所に入所した経験を有する者は,禁錮では僅少(一・四%)であるが,懲役(別件なし)では六・三%とやや多く,しかも,増加の傾向が前年からひき続いている。 (二) 交通犯罪受刑者の処遇の概要 交通犯罪受刑者のうち,懲役受刑者は,一般の分類規程に基づき,通常の方式にしたがい,それぞれのもつ問題と資質に応じて処遇されている。
禁錮受刑者に対しては,昭和三九年以降,一定の基準を設け,適格者を選定し,特定の施設に集禁のうえ,開放的な処遇のもとに,特殊な教育が行なわれている(以下,この特定施設を集禁施設という。)。集禁の基準は,[1]懲役刑を併有しないこと,[2]懲役もしくは禁錮の執行等により,矯正施設に収容された経験を有しないこと,[3]おおむね執行刑期が三月以上であること,[4]心身に著しい障害がないこと,[5]管理上支障のおそれがないこと,である。 このほか,矯正管区によっては,この集禁処遇の要領に準じた処遇を行なう施設(以下,準集禁施設という。)を指定しており,前記集禁六施設とこの準集禁四施設における昭和四六年末現在の収容状況を示せばIII-128表のとおりである。これによれば,交通犯罪禁錮受刑者の総数のうち,約四五%が集禁施設に,三割弱が準集禁施設に収容されている。なお新分類規程が昭和四七年七月一日から,実施されたことにともない,同表のうち佐賀少年刑務所は大分刑務所に,帯広刑務所は函館少年刑務所にそれぞれ変更されている。 III-128表 交通犯罪禁個受刑者の収容状況(昭和46年12月31日現在) 集禁施設における交通犯罪禁錮受刑者に対しては,その特質を考慮し,開放的処遇が推進されている。すなわち,おおむね一〇日間の入所時教育期間における独居房収容を除けば,原則として雑居房に収容しており,居室,食堂,工場および教室には施錠しないものとされている。また,身体および衣類の検査や居房の検査も行なわなくてもよく,施設構内では,戒護者が付かないことを原則とするなど,収容者の自尊心と責任感に訴え,自主自立の生活態度を体得するように配慮されている。接見および信書の発受も,つとめて多く行なわせることにしており,ことに接見については,施設の長が必要と認めるときは,接見室以外の場所で職員による立会なしで行なわせることもある。 生活訓練の内容は,相談,助言などの方法を用い,法を守る精神,責任観念その他徳性をかん養させるものであり,そのため,毎週二時間以上の道徳教育の時間を特設してある。 次に職業の指導は,[1]自動車運転の適性が著しく欠けていると認められる者,および,運転の職業から転職を希望する者に対しては,必要な職業情報の提供,職業選択の指導,基本的技術の実習指導などを行ない,[2]出所後自動車運転に関する業務に従事することを希望し,かつ,その適性がある者に対しては,交通法規,自動車工学などの専門学科を授け,その実習を行ない,知識,技能を付与し,安全運転の態度を習熟させる指導を行なっており,それぞれ,おおむね二か月間,三〇〇時間をもって終了する指導課程が編成されている。 このような職業指導の結果,受刑者が出所後どのような職業を見込むかを,ちなみに市原刑務所の例により調べたものがIII-129表である。自動車運転関係職種以外の者では,約八割が同一職種を望むのに対し,自動車関係職種の者は,約三割が同一職種を希望するにすぎないことは注目される。なお,運転適性の有無と,出所後の運転希望との関係を同所の例でみると,III-130表のとおりであり,適性検査に合格した者(構成比四七%)では,半数以上が積極的に運転を希望するのに対し,不合格者では,約八割が運転をあきらめている。さらに,同所における禁錮受刑者の運転免許取得試験の合否状況を,昭和四一年から四六年までの累計でみると,受験者総数一六七人で,法令,構造試験に合格した者は一六〇人(九六%),技能試験に合格した者は一〇九人(六四%)となっている。 III-129表 交通犯罪受刑者の犯時職業と出所後の職業予定(昭和47年3月31日現在) III-130表 運転適性の有無別出所後の運転希望の割合(昭和47年3月31日現在) 交通犯罪者の再入状況について,同じく市原刑務所の例をみると,同所が習志野刑務支所として交通犯罪受刑者の集禁を開始した時期から,昭和四六年末までの出所者,三,八七五人のうち再大者は,五一人(一・三%)を数えるにすぎず,交通犯罪者の処遇については,いちおうの成果が得られている。(三) 少年院における処遇 昭和四六年中に,新たに少年院に収容された少年は,道路交通法違反による者七二人,業務上(重)過失致死傷事件による者四二人である(矯正統計年報資料による。)。同事件関係により保護処分に付された者のごく少数が少年院に収容されるにすぎないが,その数は,ここ数年,次第に増加してきている。
これら交通犯罪少年のみを対象とする施設として,松山少年院の中に,昭和四四年一月から交通短期少年院が,宇治少年院の中に,四五年三月から交通訓練所が,発足し,それぞれ特色のある処遇を行なってきている。ちなみに,四六年中の両施設に交通事件により新たに収容された者は,松山で六八人,宇治で一七人,計八五人となっている。 これらの施設では,安全運転教育,職業指導などとともに,生活指導を徹底させ,規範性の欠如,衝動性,自己中心性など,かれらの運転態度の面でみられる特性を,かれら自身の問題として受けとめさせることに目標をおいた指導法がとられている。 |