前の項目   次の項目        目次   図表目次   年版選択
 昭和47年版 犯罪白書 第三編/第一章/二/ 

4 その他の問題点

(一) 共犯関係

 少年犯罪の特色の一つとして,犯罪の集団性があげられる。これは,思春期ないし青年期の心理的特性として,家族よりも友人仲間の評価の方を尊重するとともに,仲間集団への所属欲求が強いことによるものである。また,不適応の現われとして集団への逃避をはかったり,群集心理によって付和雷同しやすい特性にもよっている。
 警察庁の統計によれば,III-35表に示すように,昭和四六年に警察に検挙された刑法犯(過失犯を除く。)のうちで,二人以上の共犯によるものは,成人のみが関与した事件では一四・二%であるのに対し,少年のみが関与した事件では三二・八%に及んでいる

III-35表 主要罪名別共犯事件の検挙件数(昭和46年)

 このように,少年事件では,成人事件に比べて共犯事件の割合が著しく高いが,これを主要罪名別にみると,恐喝がきわだって高く,強盗,強姦がこれに次いでいる。成人の犯罪においても恐喝,強盗は共犯率が高いので,成人犯罪に比較した場合,共犯率が高いのは窃盗であり,暴行がこれに次いでいる。
 法務省特別調査によって,最近五年間における共犯率の推移を,年齢層別にみると,III-36表に示すように,各年齢層とも起伏ある動きをみせているが,共犯率は,いずれの年をとってみても,年長少年よりも中間少年,中間少年よりも年少少年と,低年齢層ほど高くなっている。このことは,低年齢層の者はど精神的に未成熟で遊び仲間の影響を受けやすいことを示している。

III-36表 年齢層別共犯少年の割合の推移(昭和42〜46年)

 なお,警察庁が,昭和四六年の刑法犯検挙人員のうち過失犯を除いた一〇六,五〇五人について,学識別に,非行集団への所属状況を調査したところによると,III-37表に示すように,非行集団となんらかの関連をもつ者は,三四・八%であり,学生・生徒の非行集団関連率は三九・四%と,有職少年の二七・一%,無職少年の二九・七%に比べて,高くなっている。また,学生・生徒のうちでは,中学生が四〇・九%と最も高く,高校生,大学生がこれに次ぎ,最近の動きとして,中学生の非行集団関与率が,四四年の三六・二%,四五年の三九・七%と増加の傾向をみせているのは注目される。

III-37表 犯罪少年の学職別非行集団関連状況(昭和46年)

 III-38表は,非行集団との関連状況をみたもので,生活の場とのかかわりからみた非行集団の形態別,および非行内容とのかかわりからみた非行形態別に,その実数および構成比を示している。これによれば,集団形態別では,学校集団の割合が四八・七%と最も大きく,地域集団が二七・二%でこれに次ぎ,盛り場集団や職場集団の割合はきわめて小さい。一方,非行形態別では,窃盗集団が五三・〇%と過半数を占め,粗暴犯集団が三二・九%でこれに次ぎ,これ以外の非行形態をとる集団の割合はきわめて小さい。

III-38表 非行集団の集団形態別および非行形態別構成比(昭和46年)

 なお,非行中学生の非行集団関与率が,最近において,漸増している傾向については,少年犯罪の低年齢化傾向との関連において,今後とも留意を要するものがあると思われる。

(二) 再犯少年

 少年が犯罪を犯し,なんらかの処分を受けたあとで,再び犯罪を行ない,あるいはこれを反復することは,決してまれではない。この再犯の防止こそ,犯罪対策上の最も重要な課題といわなければならない。
 このような再犯少年の最近における動向を,全国の家庭裁判所が取り扱った一般保護少年(業務上(重)過失致死傷を除く。)の終局人員についてみると,III-39表に示すように,以前に家庭裁判所において,なんらかの処分(刑事処分,保護処分,不処分,不開始など)を受けたことのある者の昭和四五年における割合は,刑法犯については,二六・六%であって,前年に比べて二・三%減少し,三五年以降の最低を示しており,道路交通法違反を除いた特別法犯については,一八・八%で,前年と比べて大差はないが,ここ数年減少の傾向を示しているとみることができる。

III-39表 一般保護事件終局実人員中,前処分ある者の比率(昭和35〜45年)

 次に,一般保護少年について,前回処分の有無と罪名との関連をみると,III-40表の示すように,処分歴のある再犯少年の割合は,殺人が三九・四%で最も高く,次いで,強盗の三八・五%,以下,恐喝,強姦,詐欺,傷害の順となり,再犯少年の占める割合が高いのは,詐欺を除けば,いずれも凶悪犯,粗暴犯である。また,その割合が低いのは,横領,わいせつ,特別法犯で,いずれも二〇%に満たない。

III-40表 一般保護少年の前回処分の有無と罪名(昭和45年)

 また,法務省特別調査によって,再犯率を年齢層別にみたのがIII-41表である。これによると,年少少年では一五・一%,中間少年では二三・五%,年長少年では二八・四%であり,年齢層が高いほど再犯率も高くなっている。これを罪名別にみると,処分歴がある者は,恐喝,強姦,強盗などに多く,窃盗には少ない。再犯率の高い罪名を,年齢層別にみると,年少少年および中間少年では強盗と恐喝,年長少年では恐喝と強姦であり,恐喝は,各年齢層を通じて,再犯率が高くなっている。

III-41表 年齢層別・主要罪名別再犯率(昭和46年)

 さらに,昭和四五年における一般保護事件の終局決定別に,それぞれの処分決定と前回の終局決定との関連をみたのが,III-42表である。これによれば,「前処分あり」の割合が大きいのは,少年院送致の者と検察官送致の者であって,それぞれ,七三・八%,七一・九%の者に,前処分がある。前処分のある者について,前処分の内訳をみると,少年院送致の者では,保護観察が約四〇%,不処分・不開始が約四一%であるのに対し,検察官送致の者では,保護観察が約一六%,不処分・不開始が約三五%であるほか,刑事処分が約二八%となっている。また,不処分・不開始の決定を受けた少年のうち,前処分ある者について,その内容をみると,不処分・不開始が約六八%,保護観察が約二二%,少年院送致が約八%となっている。

III-42表 一般保護事件終局決定別・前回終局決定状況(構成比)(昭和45年)

 なお,法務省特別調査により,前回処分から再犯にいたるまでの期間について,最近五年間の推移をみると,III-43表が示すとおりで,昭和四六年においては,三月未満の者が約二一%,六月未満では約四一%,一年未満では約六六%となっているが,この割合は,年によって起伏ある変化を示しているものの,最近三月未満の者がわずかながら増加の傾向を示しており,短縮化の傾向がうかがわれる。いずれにしても,六割をこえる者が,処分後一年足らずの間に再犯に陥っていることになり,このことは,再犯防止対策上,留意を要する点と思われる。

III-43表 前回処分後の再犯期間の推移(昭和42〜46年)

(三) 自動車に関連する犯罪

 最近における自動車の一般的普及によって,それが単なる輸送手段にとどまらず,日常生活にも浸透し,ことに少年たちにとっては,格好の自己表現の手段として利用されやすいところから,交通関係事犯以外の犯罪についても,自動車を犯罪の対象または手段とする傾向が強まっている。
 III-44表は,法務省特別調査によって,犯行地を都市と郡部にわけ,各罪名別に自動車との関連をみたものである。これによると,自動車に関連のある犯罪を犯した者は,対象少年の二一・一%で,そのうち,都市を犯行地とする場合は一九・三%,郡部を犯行地とする場合は二七・六%となり,都市より郡部に多く,郡部における自動車関連犯罪の割合は,昭和四四年が二四・七%,四五年が二六・一%であり,年ごとに増加する傾向を示している。

III-44表 地域別・罪名別自動車との関連(昭和46年)

 次に,罪名との関連についてみると,全国的にみて,自動車との関連度が最も高いものは,強姦の四二・一%で,自動車が,この犯罪の手段として悪用されやすいことがうかがわれる。次いで,自動車との関連度が高い罪名は,強盗,窃盗および詐欺で,それぞれ二七・九%,二六一%,二二・七%を占めている。この関連度が比較的低いのは,特別法犯で,刑法犯では,恐喝,暴行,傷害等がいずれも一〇%以下となっている。また,自動車との関連度が高い罪名について,地域別にみると,強姦,強盗および窃盗は都市より郡部において高く,詐欺は郡部より都市において若干高くなっている。
 なお,一般には,自動車と犯罪との関連をみる場合に,自動車を犯罪の対象とするもの,手段とするものおよびその他車上窃盗,自動車交通事故にからむ傷害など,なんらかの形で関連があるものの三種の犯行形態を考えることができる。そこで,法務省特別調査により,昭和四六年における罪名別,犯行形態別の自動車関連率,ならびに最近五年間における罪名別自動車関連率の推移を示したのが,III-45表である。これによると,全体としては,自動車を犯罪の対象とする傾向が強く,この傾向は,窃盗,詐欺,横領など財産犯において著しく,強姦,強盗,わいせつでは犯罪の手段とする傾向が強い。また,罪名別自動車関連率の推移についてみると,全体では,昭和四二年の一六・二%から四五年の二三・〇%まで逐年増加を続けたが,四六年では,前年に比べて一・九%の減少となっており,罪名別では,脅迫と強姦の増加が目だち,脅迫は,四二年の六・一%から逐年増加して,四六年には二一・四%に達しており,強姦は,四四年の四九・一%と比較すると減少となるが,四二年の三二・二%との比較では一〇%近くの増加を示し,四六年には四二・一%となっている。

III-45表 自動車関連犯罪における罪名別・犯行形態別関連率の推移(昭和42〜46年)

 自動車は,少年たちに,スリル感を楽しませ,スピード感を味わせ,行動圏拡大の可能性を与えるため,いまや彼らの欲求充足や不満の解消手段として重要な意味をもつようになっている。モータリゼーションの進行にともなう自動車の日常的道具化と自動車のもつ魅力があいまって,抑制力の乏しい少年たちを刺激し,自動車を不正に入手したり,これを犯罪の道具として利用する傾向は,今後もますます強まると予想される。

(四) 被害者からみた特質

 最近では,犯罪学の領域において,被害者についての研究が重視されるようになっているが,これは,犯罪が単に加害者の資質や加害者をとりまく環境だけに起因するものでなく,加害者と被害者との関係によっても生じることがあり,また,犯罪少年にあっては,被害経験が契機となって犯罪者に転化するという事例が少なくないことなどが注目されるようになったことによるものである。
 法務省特別調査により,罪名別に,加害少年と被害者との関係を示しているのが,III-46表である。これによると,「無関係」が七七・四%で最も多く,次が「顔見知り」の一一・四%,「友人・知人」の四・七%で,「親族」はきわめて少ない。これを罪名別にみると,「無関係」が多いのは,窃盗,強盗の約九割で,「顔見知り」が多いのは,強姦,暴力行為等処罰に関する法律違反で,ともに三割をこえ,このほか,暴行・傷害等の粗暴犯も多く,三割近くを占めている。また,「友人・知人」の割合が他の罪名に比べて大きいのは,暴力行為等処罰に関する法律違反および傷害であり,さらに,例数は少ないが,殺人の被害者に「親族」が多いことは注目される。

III-46表 罪名別にみた犯罪少年と被害者との関係(昭和46年)

 次に,法務省特別調査によって,罪名と被害金額との関係をみると,III-47表の示すとおりで,全体としては,被害金額千円以上一万円未満が四六・五%で最も多く,次いで一万円以上一〇万円未満の三四・四%が多くなっている。罪名別では,窃盗の被害金額が,他の罪名のそれに比べて全般に高額で,一〇〇万円をこえる場合も若干みられる。これに対し,恐喝による被害金額は,比較的軽微なものが多く,千円未満が三割をこえている。

III-47表 罪名と被害額(昭和46年)

 また,少年非行におけるひとつの特徴として,加害者・被害者関係の流動性をあげることができる。つまり,加害者自身が,過去に被害者としての経験をもっている場合も少なくなく,被害経験から加害の手口覚え,加害者として犯行に至るという事例はしばしばみられるところである。III-48表は,法務総合研究所が,昭和四六年一一月に,全国の少年鑑別所収容者を対象として実施した調査により,対象少年の被害経験の有無をみたものであるが,これによれば,被害経験のある者は,約五三%と,対象者の過半数を占め,少年非行における流動的な加害者・被害者関係の一端を示している。

III-48表 被害経験の有無(昭和46年11月)