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 昭和47年版 犯罪白書 第三編/第一章/一/4 

4 その他の非行の動向

(一) 触法少年

 昭和四六年に,刑法に触れる行為をして警察に補導された一四歳未満の少年は,三四,〇九〇人(業務上(重)過失致死傷を除く。)で,八歳以上一四歳未満の人口一,〇〇〇人に対する割合は,三・六になっている。
 III-11表は,触法少年の補導人員と人口比について,昭和二一年以降の推移を示したものであるが,これによれば,触法少年の補導人員およびその人口比は,それぞれ三七年と三八年にピークに達した後,四三年まで減少の傾向をたどり,四四年から四五年にかけて増加に転じたものの,四六年には,ともに若干の減少をみせ,ほぼ横ばいの状況を示している。

III-11表 触法少年の補導人員(昭和21〜46年)

 III-12表は,触法少年補導人員を,小学生,中学生およびその他に分け,それぞれにつき,最近五年間の推移をみたものである。これによれば,小学生の補導人員は,昭和四三年から四五年にかけて増加し,中学生のそれを上回るに至ったが,四六年には,一七,五〇三人と前年に比較して減少を示しており,一方,中学生の補導人員は,四四年を底として,その後増加し,四六年には,一五,八四八人となっている。なお,未就学児および不就学児を含む「その他」の補導人員は,逐年減少しており,昭和四六年には,七三九人となっている。

III-12表 触法少年の小学生・中学生別補導人員(昭和42〜46年)

 なお,警察庁の資料により昭和四六年における,触法少年の行為別人員についてみると,窃盗が二九,六四七人と最も多く,全体の八七・〇%を占め,次いで,横領,恐喝,暴行,傷害,放火,わいせつの順に多くなっている。前年との比較においては,粗暴犯の増加が目だち,暴行三六・六%(一〇六人),恐喝二九・四%(九九人),傷害二一・七%(四三人)とそれぞれかなりの増加率を示し,低年齢非行における粗暴化の傾向をみせている。また,前年にはゼロであった殺人が一挙に六人となったほか,占有離脱物横領が大部分を占める横領の増加(前年比三七・六%増)も目だっている。

(二) 虞犯少年等

 警察では,少年の喫煙,飲酒,けんか,その他自己または他人の徳性を害する不良行為を補導の対象としており,その数は,数十万人(最近の数字は不明であるが,昭和四三年における補導人員は約九七万人である。)にのぼると推定されるが,これらのうち,虞犯と認められるものを,家庭裁判所に送致または児童相談所に通告している。
 このように,送致・通告された虞犯少年の数は,昭和四〇年の一三,〇三二人をピークとして,その後は減少傾向をたどり,四六年には,前年より一,五七三人少ない八,六六九人となっている。
 III-13表は,全国の家庭裁判所で受理した虞犯少年の年次別事件終局人員(終局総人員から,移送,回付,従たる事件を除いたもの)を,昭和二七年以降について示したものである。これによると四五年の虞犯少年は,五,四〇九人で,前年に比較して,九九〇人の減少である。これを,二七年以降の推移の中でみると,三〇年,三三年,四〇年に,それぞれ七千人台をこえるピークがあり,四一年以降逐年減少を続け,二七年の水準に接近している。

III-13表 虞犯少年終局人員(昭年27〜45年)

 不良行為のうち,薬物等乱用,家出,不純異性交遊,不良交友等は,補導対象の多くを占めるものであるが,最近の傾向として,薬物等乱用,とくにシンナー等の有機溶剤およびボンド等の接着剤を吸引する行為の急増が目だち,問題視されている。これは,いわゆる「シンナー遊び」と称されるもので,シンナー等をポリエチレンの袋などに入れて吸引し,それによる意識障害や幻覚性の体験などを楽しむ遊びであり,その乱用により死亡する危険性も少なくない。
 III-14表は,シンナー等乱用少年について,昭和四三年から四六年までの各年次別補導人員とその地域別構成比を示したものである。四六年における補導人員は,四九,五八七人で,これは前年に比較すると,約二四%の増加となり,三年前の四三年との比較では,実に,二倍半近くの増加となっており,その著しい増加ぶりが注目される。また,地域別構成比をみると,昭和四三年には,東京だけで四七・一%を占め,これに関東地方を加えると,全体の八〇%近くにも及んで,東京を中心とする関東地方への集中傾向が著しかったが,その後,地方拡散が進み,中部,近畿,中国,四国,九州の諸地方における増加にともなって,東京の占める割合は低下し,四六年においては,二二・五%と,四三年に比べて,半減している。なお,北海道と東北地方は,実数では大幅な増加を示しているものの,構成比においては,著しい変化がみられない。

III-14表 シンナー等乱用少年の補導人員および地域別構成比(昭和43〜46年)

 次に,シンナー等乱用少年について,最近四年間における学職別補導人員の推移をみると,III-15表が示すとおりで,実数は全般に増加を示しており,増加率では,有職少年が三倍弱で最も大きく,以下,学生・生徒,無職少年の順となっている。学生・生徒のうちでは,中学生の増加が目だっている。また,構成比についてみると,四六年においては,有職少年の四〇・一%が最も多く,学生・生徒の三八・八%,無職少年の二一・一%が,これに次いでいる。

III-15表 シンナー等乱用少年の学職別補導人員の構成比(昭和43〜46年)

 なお,シンナー等の乱用によって死亡した少年の数は,昭和四五年以降減少傾向を示し,四六年は,五〇人で,前年に比べて三人の減少となっている。これを補導人員一,〇〇〇人当たりの死亡率でみると,一・〇人と前年の一・三人より少なく,四四年の二・〇人に比較した場合は,半減となる。このような死亡者減少の一因としては,使用薬物が,死亡に結びつきやすいシンナーから,ボンド等の接着剤に移行してきていることも考えられる。
 次に,昭和四七年五月,法務総合研究所が,全国の少年鑑別所収容少年全員を対象として実施した調査により,薬物等乱用非行少年の実態について,その特徴のいくつかをあげ,参考に供することにしたい。
 この調査によれば,対象となった非行少年七三四人中,薬物等を乱用したことのある少年は三〇一人で,全体の四割以上を占めている。
 薬物等乱用の有無を,性別にみたのがIII-16表で,これによれば,乱用の有無にかかわらず,男子が九割以上を占め,薬物等の乱用に関して,性による差異はみられない。また,乱用の有無を年齢別にみると,III-17表が示すとおり,乱用していない者に比べて,乱用している者の比率が高いのは,一六,七歳の中間少年となっている。

III-16表 薬物等乱用の有無別男女別人員(昭和47年5月)

III-17表 薬物等乱用の有無別年齢別人員(昭和47年5月)

 III-18表は,乱用少年について,薬物等の使用場所を調べたものであるが,友人宅が約二八%と最も多く,自宅が約一五%とこれに次ぎ,これに喫茶店およびその他の屋内を加えると,屋内での使用者は五六%となり,屋外での使用者を上回っている。屋内のうち,とくに,自宅や友人宅で使用している者については,保護者などの成人による保護・監督の不十分さが問題といえよう。

III-18表 薬物等の使用場所(昭和47年5月)

 III-19表は,乱用少年について,薬物等の使用期間を調べたものであるが,一月以内の短期間使用者が約二八%と最も多く,以下,期間が長くなるにつれて,使用者の割合は少なくなっているものの,三月以上にわたる使用者が過半数を占め,その中には,二年以上の長期にわたる使用者もいることについては留意を要するところである。さらに,III-20表によって,乱用時の状況をみると,一人だけで使用していた者が約一五%と少数であるのに対して,仲間とともに使用していた者は八五%近くもおり,薬物等乱用が,集団的状況の中で行なわれやすいことを示唆している。

III-19表 薬物等の使用期間(昭和47年5月)

III-20表 薬物等乱用状況(昭和47年5月)

 このほか,警察庁の資料は,乱用少年について,その六割以上が文房具店,模型教材店などから薬物を入手していること,その約二七%が他の非行をしていること,保護者の六割近くが乱用行為をまったく知らなかったことなどを示しているが,これらについては,薬物等乱用行為における薬物入手の容易性,他の非行との関連性,保護者の無関心などを,問題として指摘できよう。
 政府においては,シンナー等を,発育期にある青少年の成長を著しく阻害する危険な物であるとみなし,その乱用が表面化した昭和四二年以来,各都道府県,その他関係各機関の協力を得て,広報活動をはじめとする一連の対策を積極的に推進してきたので,一般市民の間にも,これらを乱用することの有害性,危険性についての認識が高まり,そのほか販売業者による自主規制も促進されている。しかしながら,一方では,シンナー等の乱用によって補導される少年の数が,年々増加の一途をたどるなど,事態の深刻化には,憂慮すべきものがある。
 このような事態の悪化に対処する措置として,昭和四七年六月二六日,「毒物及び劇物取締法の一部を改正する法律」が公布された。この改正により,同年八月一日から,従来,直接的な法的規制を受けていなかった「酢酸エチル,トルエン又はメタノールを含むシンナー及び接着剤」の乱用,不正販売等に対して,新たに法的規制が加えられることになり,これらを乱用し,または乱用の目的で所持した者は,三万円以下の罰金,乱用することまたは乱用の目的で所持することを知りながら,これらを販売し,または授与した者は,二年以下の懲役若しくは五万円以下の罰金(併科されることもある。)に処せられることになった。
 なお,少年の薬物等乱用行為を予防するためには,法的規制を加えるとともに,その実態を明らかにし,そこで得られた知見を基礎として,適切な対策を考えていくことが重要と思われる。