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 昭和47年版 犯罪白書 第二編/第一章/二/2 

2 刑の執行猶予

(一) 統計からみた執行猶予率

 一般に,戦後の量刑の特色として,執行猶予言い渡し率の増加が指摘されているが,第一審で有期の懲役または禁錮に処せられた者について,執行猶予に付された人員の比率をみたのが,II-13表である。これによると,昭和二六年に四五・九%であった執行猶予率は,その後増加を続け,四五年には五七・五%に達した。

II-13表 第一審懲役・禁錮言渡中の執行猶予人員と百分比(昭和26,31,36,41〜45年)

 次に,昭和四五年と四六年につき,自由刑の確定判決のうち,執行猶予となった者の比率をみると,II-14表のとおりである。これによると,懲役は五六・八%または五七・一%,禁錮は七三・一%または七一・三%に,それぞれ執行猶予が付けられている。また,執行猶予に付することができる刑期三年以下の自由刑のうち懲役の総数について,執行猶予率をみると,昭和四五年は五九・三%,四六年は五九・五%となっている。なお,四六年において,罰金の裁判を受けて確定した一,七二七,七〇二人のうち,執行猶予になったものは,一三一人で,その執行猶予率は〇・〇一%にすぎない。

II-14表 懲役・禁錮の確定判決人員と執行猶予人員および百分比(昭和45,46年)

 次に,II-15表は,同じ年次について,執行猶予の言い渡しを受けた者を該当法条別に示したうえ,保護観察に付されたものの割合をみたものである。同表によると,執行猶予者の約九七%が,刑法二五条一項の規定により,いわゆる初度目の執行猶予の言い渡しを受けた者であり,このうち,裁量的に保護観察の付された割合は,一四ないし一五%となっている。

II-15表 執行猶予確定人員中該当法条別人員および該当法条別保護観察言渡人員(昭和45,46年)

 次に,刑法犯の主要罪名につき,昭和四五年に通常第一審で懲役刑または禁錮刑の言い渡しを受けた者のうち,執行猶予に付された者の人員と比率をみたのが,II-16表である。これによると,執行猶予率の高いものは,贈賄の九七・三%,収賄の九一・八%で,公務執行妨害の七八・一%がこれに続いており,一方,低いものでは,殺人および強盗の二九・五%,傷害致死の四二・三%の順となっている。なお,執行猶予中,保護観察に付されたものの割合は,刑法犯全体では,一八・〇%であるが,罪名別にみると,強盗の四七・三%が最も高く,強姦の三九・五%,強姦致死傷の三七・九%,恐喝の三〇・八%がこれに続いている。その割合の低いものは,贈賄の一・一%,収賄の一・二%,公務執行妨害の四・三%となっている。

II-16表 通常第一審被告人の主要罪名別執行猶予率(昭和45年)

(二) 執行猶予の期間と刑期

 昭和四五年中に執行猶予の言い渡しを受けた人員について,その猶予期間をみると,II-17表のとおりである。これによると,猶予期間は,三年以上が最も多く,総数の五九・五%を占め,次いで,四年以上の一七・九%,二年以上の一五・二%,五年の六・一%,一年以上の一・三%の順となっている。

II-17表 執行猶予の猶予期間別人員と百分比(昭和46年)

 次に,執行猶予に付された場合の,懲役または禁錮の刑期と罰金の金額を示すと,II-18表[1][2]のとおりである。これによると,一年をこえる懲役または禁錮に執行猶予が付されている場合は少なく,総数の八割弱が,一年以下の刑に執行猶予の付されたものである。また,執行猶予の付けられた罰金の金額では,総数の七割強が一万円以下となっている。

II-18表 執行猶予の言渡しを受けた人員と百分比(昭和46年)

(三) 執行猶予の取り消し

 執行猶予制度運用の効果を測定する一つの方法として,最近三年間について,刑法犯および特別法犯の執行猶予の言い渡しを受けた人員,執行猶予の取り消しを受けた人員,取消率および取消事由をみたのが,II-19表である(ここで,取消率というのは,ある年次において,執行猶予の取り消しを受けた人員を,その年次における執行猶予の言い渡しを受けた人員で除した値であるから,正確な意味での取消率とはいえないが,大体の傾向を知ることができよう。)。

II-19表 刑法犯・特別法犯の執行猶予の言渡し・取消・取消事由別人員(昭和44〜46年)

 これによると,執行猶予の取り消しを受けた者は,刑法犯では昭和四四年の九・二%から四六年の八・九%に,特別法犯では四四年の二・八%から四六年の二・一%に,それぞれ減少している。交通事故事犯を含む過失傷害を,刑法犯から除いたものについて,執行猶予の取消率をみると,四四年が一一・五%,四五年が一一・四%と減少し,四六年には一一・八%と増加しているが,各年とも,刑法犯全体の執行猶予取消率よりやや高い比率を示している。また,取消事由をみると,約九五ないし九七%が,刑法二六条一号による必要的取り消しであり,同法二六条の二に基づく裁判所の裁量による取り消しの数は,著しく少ない。
 次に,執行猶予期間中に再び犯罪を犯し,執行猶予を取り消された者について,執行猶予の言い渡しの日から再犯までの期間をみると,II-20表のとおりである。これによると,昭和四六年においては,再犯を犯して執行猶予を取り消された三,二〇〇人のうち,一九・三%が三月以内に,一五・六%が三月をこえ六月以内に,二六・三%が六月をこえ一年以内に,それぞれ再犯に及んでいる。これを累積的にみると,六月以内には三四・九%,一年以内には六一・二%が再犯したことになる。すなわち,執行猶予の言い渡しを受け,猶予期間中に再犯した者のうち,約六割強が,言渡時から一年しかたたないうちに再犯に及んでいるわけである。

II-20表 執行猶予を取り消された者の執行猶予の言渡時から再犯時までの期間別人員の百分比(昭和44〜46年)

 次に,前表の執行猶予取消者について,保護観察の付いた者と付かない者とに分け,それぞれの再犯までの期間をみたのが,II-21表である。これによると,昭和四六年において,一年以内に再犯した者の累積比率は,保護観察の付かない者について,前年よりやや増加しているが,保護観察の付いた者については,前年よりやや減少している。

II-21表 執行猶予を取り消された者の再犯までの期間別人員の百分比(昭和44〜46年)