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 昭和47年版 犯罪白書 第一編/第二章/七/2 

2 収賄

 収賄は,公務員犯罪の中でも最も世人の注目をひく重要な犯罪の一つである。この犯罪は,公務員の職務の公正を害し,政治,行政に対する国民の不信を招来するのみならず,ひいては国民の順法精神を低下させるなど,社会一般に与える弊害はきわめて大きい。いうまでもなく,世論のこの犯罪に対する批判はきびしく,つとにその絶滅と公務員倫理の高揚が強く叫ばれているが,それにもかかわらず,今日なお,依然としてその跡を絶つきざしのみられないことは寒心に堪えないところである。
 I-67表は,警察の統計により,昭和三一年から三五年までの五年間とその一〇年後の四一年から四五年までの五年間に,それぞれ,賄賂罪で検挙された人員の多かった公務員(いわゆるみなす公務員を含む。)の職種を,上位の一〇位まで掲げて,その変遷を比較したものである。昭和三一年から三五年までの検挙人員累計は,二,〇七〇人で「地方公共団体の議会の議員」「土木・建築関係の地方公務員」等地方公務員関係者が,二位ないし五位および八位を占め,その合計は八一六人で,全体に占める割合は三九・四%であった。四一年から四五年までの検挙人員累計は二,八一二人で前記の累計より三五・八%増加し,激増した「土木・建築関係の地方公務員」が一位となり,「地方公共団体の議会の議員」が二位,次いで新たに「教育関係の地方公務員」が三位となって,いずれもそろって地方公務員関係者が上位を占め,これらに五位および七位の地方公務員関係者を加えると一,三七七人で,全体の四九・〇%に達している。収賄事件の原因は多種多様で,一概に断定することは困難であるが,何といっても公務員の公の奉仕者としての自覚の欠如,綱紀の弛緩がその根本にあるものと思われる。職務の公正,廉潔に欠ける公務員が,一般産業界その他国民生活に直接間接に影響を及ぼす分野において何らかの権限を行使するとき,ややもすれば役得意識を生じ,業者などの働きかけによって,金品やもてなしを受ける風潮が生まれるのみならず,極端な場合には,これらを要求する態度すらうかがわれるところである。したがって,この種不祥事を防止するために,公務員各自の自覚をいっそう喚起することが望まれる。

I-67表 贈収賄事件検挙人員比較(昭和31〜35,41〜45年)

 次に,公訴を提起された収賄事件が裁判所でどのような刑に拠せられているかを,最近五年間について示したのがI-68表である。これによって昭和四五年の数字をみると,執行猶予率は九〇・三%で,懲役刑に処せられる者の執行猶予率の平均がおおむね五〇%台であるのに比し,相当な高率となっており,懲役刑に処せられた者のうち,一年以上の刑に処せられた者の占める割合は,二八・一%と最近五年間の最低で,この種事犯の科刑が軽くなっている。これは,犯人が社会的に大きな制裁を受け,またその地位を失えば再犯が不可能であるというこの種事犯の特殊性などが情状として考慮されたためと思われるが,刑罰のみをもって,犯罪の一掃を図ることは不可能であるとしても,犯人の責任に応じた刑罰を厳正に科することが,この種犯罪の防止のために必要なことといえよう。

I-68表 収賄罪通常第一審科刑別人員(昭和41〜45年)