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 昭和47年版 犯罪白書 第一編/第二章/一一 

一一 欧米諸国における犯罪の動向

 わが国の犯罪の概況は,これまで述べたとおりであるが,その推移と現況を比較,検討するため,資料を入手しえたアメリカ(合衆国),イギリス(イングランドとウェールズ),ドイツ(連邦共和国(西ドイツ)―西ベルリンを含む。)およびフランスにおける犯罪の動向を概観することにする。いうまでもなく,各国は,それぞれ,統計の方法を異にし,基礎となる犯罪の種類や要件にも差異があるので,統計上の数字から,ただちに,正確な犯罪現象の比較を期待することはできないが,概略的な犯罪傾向とすう勢はうかがうことができる。
 まず,一九六〇年から一九七〇年までの日本を加えた上記各国における犯罪発生件数および人口比(人口一〇万人あたりの犯罪発生件数)を中心に,その推移をみたのが,I-80表である。これは,基礎となる犯罪として,わが国における刑法犯,アメリカにおける指標犯罪,イギリスにおける要正式起訴犯罪およびドイツにおける重罪・軽罪刑法犯の各発生件数ならびにフランスにおける重罪・軽罪・違警罪についての検事局受理件数をあげている。そして,この種比較の便宜上,交通に起因する過失致死傷および交通犯罪を除いた犯罪の発生件数(ただし,ドイツにあっては一九六三年以降)をとりあげることにしたが,統計の関係で,フランスについては,交通犯罪を含む検事局受理件数となった。

I-80表 アメリカ,イギリス,ドイツ,フランスおよび日本における犯罪発生件数および人口比(1960〜1970年)

 まず,同表によれば,犯罪発生件数および人口比は,日本を除くいずれの国も,かなりの高率を示しながら増加の傾向をたどっている。こころみに,一九六〇年の発生件数を一〇〇とする指数(ドイツについては,交通犯罪等の除かれた一九六三年を一〇〇とする。)で,その推移をみると,一九七〇年において,最も犯罪の増加率の高いのは,アメリカであり,実数で二九九,人口比で二六四となっている。そのほか,イギリスは,実数で二〇八,人口比で一九五と増加し,ドイツも,実数で一四四,人口比で一三五となっている。フランスについては,他の国と異なり,交通犯罪その他違警罪を含む検事局受理件数であるため,比較は困難であるけれども,入手できた最も新しい統計の年度である一九六八年には,実数で二三五,人口比で二一〇となっている。一方,わが国における業務上過失致死傷を除いた刑法犯の発生件数および人口比は,一九六九年ごろからやや増加のきざしがみられるものの,一九六〇年以降ほぼ減少の傾向を示し,一九七〇年においては,実数で九三,人口比で八四となっている。統計の基礎となった犯罪の種類に広狭があるため,正確な比較は困難であるけれども,一九七〇年には,わが国の実数および人口比は,右のいずれの国よりもかなりの幅で少なくなっている。
 最近におけるわが国の急激な経済および社会の変動は,社会構造および社会制度を変化させ,国民の価値観に変容をもたらすとともに,工業化,都市化を促進し,生活環境などを変革した。一般に,このような変化がある場合には,犯罪の発生要因を増大させる面があるといわれている。先に述べた諸外国の犯罪増加の理由には,それぞれ固有の事情があると思われるが,ともかく,わが国は高度の経済成長と,それに伴う急激な社会変動を経ているにもかかわらず,業務上過失致死傷を除く刑法犯が減少していることに,注目に値する。
 次に,各国における罪名別の犯罪動向および犯罪者の年齢層別推移等を比較してみることにする。