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 昭和46年版 犯罪白書 第三編/第二章/二/1 

二 交通犯罪の検察・裁判

1 交通犯罪の検察

 最近,全国の検察庁において,新規に受理される業務上(重)過失致死傷事件は,そのほとんどが,自動車の交通に起因する人身事故であるが,昭和三五年および四一年以降における,その新規受理人員の推移を,刑法犯の新規受理人員と比較してみると,III-111表のとおりである。これによれば,業務上(重)過失致死傷事件の新規受理人員は,昭和四五年には,六八〇,三三六人(うち業務上過失傷害六五九,五八一人,周致死一八,四五〇人,重過失致死傷二,三〇五人)に達して,刑法犯新規受理人員の六二・四%を占めるに至り,昭和三五年の刑法犯新規受理人員総数を,りょうがする数字となっている。

III-111表 業務上(重)過失致死傷事件検察庁新規受理人員(昭和35,41〜45年)

 次に,交通関係特別法令違反の新規受理人員の推移を,同年次について,特別法犯総数と比較したのが,III-112表である。道路交通法違反の受理は,昭和四三年以降大幅に減少しているが,これは,同年七月一日から交通反則通告制度が施行されたことによるものであり,また,昭和四五年の同法違反が一,四一三,五八二人と,前年より二七,七六六人減少したのは,同年八月から,右制度の対象に少年が加えられたことによるものである。自転車損害賠償保障法違反の大部分は,同法に定める自動車賠償責任保険(いわゆる強制保険)の契約を締結しないで,自動車を運行の用に供する等の事案であるが,昭和四一年六月の同法改正により,同年一〇月から原動機付自転車も,新たに強制保険の対象となったことなどもあって,昭和四二年,四三年と同法違反が急増したが,四四年以降は減少の傾向をみせている。

III-112表 交通関係法令違反検察庁新規受理人員(昭和35,41〜45年)

 自動車の保管場所の確保等に関する法律は,昭和三七年九月から施行されたもので,道路を自動車の保管場所として使用しないよう義務づけるとともに,自動車の駐車に関する規制を強化したものであって,自動車台数の増加に伴って,増加する傾向をみせ,昭和四五年は,例外的に減少した前年に比べて約一万五千人の増加となっている。
 次に,道路運送法違反は,いわゆる「白タク」事犯がそのおもなもので,昭和三五年は,同法違反のピークであった昭和三六年(受理人員一五,二七八人)の前年にあたるため,非常に高い数字となっているが,最近五年間の同法違反は,いずれも二千人以下となっている。一方,いわゆる「車検」関係の事犯を主体とする道路運送車両法違反は,漸減の傾向を示している。
 このようにして受理された交通犯罪のおもなものが,終局的にどのように処理されているかを示したのが,III-113表ないしIII-116表である。まず,最近五年間の業務上過失致死傷の起訴率は,約七二ないし七五%で,業務上(重)過失致死傷を除く刑法犯の起訴率が,最近五年間で約五四ないし五六%となっているのに比較すると,かなり高い率を示している。業務上過失致死傷の起訴の大部分は略式命令請求であり,公判請求は,起訴総数の三ないし四%となっている。重過失致死傷の起訴率は,約六九ないし八〇%であるが,起訴総数に占める公判請求の比率は,業務上過失致死傷より高く,約一二ないし二一%である。重過失致死傷事件の公判請求率が高いのは,この種事件には,業務性も認められない,運転技術のきわめて未熟な無免許運転者による,危険性の高い事案が含まれているためであろう。なお,業務上(重)過失致死傷事件の中から,致死事件だけを抜き出してみたのが,右のIII-115表であるが,昭和三五年に約二一%であった公判請求率は,四五年には約四七%と,二倍以上に増加し,致傷事件を含めた比率に比べて,著しく高い数字を示している。

III-113表 業務上過失致死傷の検察庁終局処理人員と比率(昭和35,41〜45年)

III-114表 重過失致死傷の検察庁終局処理人員と比率(昭和35,41〜45年)

III-115表 業務上(重)過失致死の検察庁終局処理人員と比率(昭和35,41〜45年)

III-116表 道交違反の検察庁終局処理人員と比率(昭和35,41〜45年)

 次に,道交違反の処理状況をみると,最近五年間の起訴率は,約九一ないし九四%と,きわめて高いが,そのほとんどは略式命令請求で,昭和四五年の公判請求は,起訴総数の〇・三%(三,四二一人),即決裁判請求は,〇・七%(七,六八一人)となっている。