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 昭和46年版 犯罪白書 第二編/第一章/一/3 

3 被疑事件の処理

(一) 概況

 昭和四五年中に全国の検察庁で処理した被疑者の総数は三,八三五,七一六人である。このうち,検察庁間の移送を除いた二,八二八,九九一人について,処理区分別に百分率を算出して円グラフとしたのが,II-1図である。また,昭和四五年の処理状況を処理区分別に前年と対比し,かつ,刑法犯,特別法犯,道交違反の別に示すと,II-6表のとおりである。II-1図により,昭和四五年中に処理された者の処理区分をみると,起訴された者は,総数の六一・五%を占め,不起訴処分は一六・二%,家庭裁判所送致は二一・三%,中止処分は一・〇%となっている。また,II-6表によると,起訴された者は,一,七三八,四五二人で前年より六〇,二九三人増加し,起訴のうちに占める公判請求の割合は,刑法犯一五・七%,特別法犯一〇・五%,道交違反〇・三%であり,不起訴処分を受けた者は,四五九,四六三人で前年より一〇六人増加し,不起訴処分のうちに占める起訴猶予の割合は,刑法犯が八〇・七%,特別法犯が八六・八%,道交違反が八六・四%となっている。

II-1図 処理区分別被疑者の百分比(昭和45年)

II-6表 処理区分別被疑者数(昭和44,45年)

(二) 起訴および起訴猶予

 検察官は,事件について必要な捜査を遂げた結果,訴訟条件が具備され,犯罪の嫌疑があると認めた場合には,法律上,刑を免除すべきものとされている場合を除いて,公訴を提起するか,起訴猶予処分に付するか,いずれかの終局処分を行なう。
 公訴の提起は,裁判所に起訴状を提出することによって行なわれるが,その方式は,公判請求,略式命令請求,即決裁判請求の三つに分かれる。公判請求は,公判廷において行なわれる通常の審理と裁判を求めるものであり,略式命令請求は,簡易裁判所の管轄に属する事件について,公判廷における審理を経ないで,検察官の提出した書類および証拠物により,略式命令(刑事訴訟法第四六一条)で,被告人を五万円以下の罰金または科料に処することを求めるものであり,即決裁判請求は,道路交通法違反事件につき,交通事件即決裁判手続法による即決裁判で,五万円以下の罰金または科料に処することを求めるものである。
 一方,起訴猶予は,検察官が刑事政策上の立場から,犯人の性格,年齢および境遇,犯罪の軽重および情状ならびに犯罪後の情況など諸般の事情を考慮して,必要でない刑罰を科することをできるだけ避け,犯罪者の更生を図ろうとするもので,起訴猶予に付することについては,少年について特例が設けられているほかは,すべて検察官の判断にゆだねられている。このように,検察官に起訴猶予処分を認める制度を起訴便宜主義と呼ぶが,これとともに,わが国においては,国家訴追主義と検察官の起訴独占主義とをほとんど全面的に採用しているので,検察官の営む機能は重要なものとなっている。
 そこで,ここに記した起訴および起訴猶予の運用状況を,統計面からみることとしよう。
 昭和四五年において,公判請求された者の総数は,一〇八,三一七人,略式命令請求された者の総数は,一,六二二,四五四人,即決裁判請求された者は,七,六八一人であり,起訴猶予処分に付された被疑者の総数は,三七八,七八六人である。このうち,刑法犯の占める割合をみると,公判請求の八九・二%,略式命令請求の三二・〇%,起訴猶予の六八・八%となっており,公判請求,起訴猶予の大きな部分は,刑法犯によって占められているが,略式命令請求では,その六三・六%までが道交違反である。
 最近五年間における,起訴率(起訴,不起訴の総数で起訴の数を除したもの)と起訴猶予率(起訴,起訴猶予の総数で起訴猶予の数を除したもの)の推移を,全事件,刑法犯,業務上過失致死傷を除く刑法犯,特別法犯,道交違反に区分してみると,II-7表のとおりである。

II-7表 起訴率・起訴猶予率の推移(昭和41〜45年)

 これによると,昭和四五年における起訴率は,全事件で七九・一%であり,刑法犯では六五・六%,業務上過失致死傷を除く刑法犯についてみると五三・〇%となっている。刑法犯全体の起訴率は,昭和四三年の六六・八%をピークとして,その後,わずかずつ減少している。刑法犯から業務上過失致死傷を除いたものの起訴率は,昭和四一年の五五・九%から逐年漸減してきて,昭和四五年においては五三・〇%に達した。
 起訴率の高い業務上過失致死傷の増加が,刑法犯に六割台の起訴率を維持させていることがわかる。ちなみに,刑法犯の起訴,不起訴人員中に占める業務上過失致死傷の割合は,昭和四一年で四七・六%,四五年には六七・七%となっている。特別法犯の起訴率は,昭和四一年には五七・五%であったが,四二年に五四・一%まで減少し,その後,やや増加して,昭和四五年には五七・五%となっており,道交違反は,最近五年間に,九一・二%ないし九三・七%の間を上下する起訴率を示している。
 また,昭和四五年の起訴猶予率は,全事件では一七・九%,刑法犯では二九・七%,業務上過失致死傷を除く刑法犯では四一・三%,特別法犯では三九・一%,道交違反では六・一%となっている。なお,参考までに,昭和二五年以降,三〇年,三五年,四〇年,四五年と五年ごとの年次における,刑法犯の起訴率と起訴猶予率を,業務上過失致死傷を除く刑法犯のそれと対比して示すと,II-2図のとおりで,同図によって,戦後における刑法犯の起訴率および起訴猶予率の推移のおおよそを知ることができる。

II-2図 刑法犯の起訴率と起訴猶予率の推移(昭和25,30,35,40,45年)

 次に,刑法犯の主要な罪名について,昭和四五年の起訴率および起訴猶予率を,前年のものと対比してみると,II-8表のとおりである。これによると,起訴率の高い罪名は,賭博,富くじの八三・四%,強盗致死傷等の七八・九%,傷害致死の七三・八%,業務上過失致死傷の七一・六%,強盗の七〇・四%,傷害の六九・七%,公然わいせつ,わいせつ文書頒布等の六七・九%,暴力行為等処罰に関する法律違反の六七・四%などとなっている。一方,起訴猶予率をみると,最も高いのが,公務執行妨害の七九・五%で,以下,横領の六四・八%,賍物関係の五九・七%,文書偽造の五五・〇%,窃盗の五四・四%,詐欺の五三・一%,住居侵入の五二・七%の順となっている。昭和四五年の起訴率,起訴猶予率を,前年に比べてみると,大きな変化をみせているのは,公務執行妨害で,同罪の起訴猶予率は,過去一〇年間の最高の数字となっている。

II-8表 刑法犯主要罪名別起訴率・起訴猶予率(昭和44,45年)

 次に,昭和四五年の刑法犯主要罪名について,公判請求人員および略式命令請求人員と,これが起訴,不起訴人員中に占める比率とをみたのが,II-9表である。これによると,公判請求人員の実数では,窃盗の四一,一一三人が最も多く,次いで,業務上過失致死傷,詐欺,傷害,恐喝,強制わいせつ・同致死傷等,賭博,富くじの順となっており,比率では,強盗致死傷等,傷害致死,強盗,殺人,恐喝,強制わいせつ・同致死傷等,放火,贈収賄,窃盗が,四割以上の数字を示しているが,窃盗に次いで,公判請求の実数が多い業務上過失致死傷の比率は,二・五%となっている。また,略式命令請求についてみると,実数においても,比率においても,業務上過失致死傷が四三九,九〇二人,六九・二%と最も多く,これに次ぐのが,実数では,傷害の五二,三八八人,比率では,賭博,富くじの六四・七%である。

II-9表 刑法犯主要罪名別起訴区分(昭和45年)