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 昭和46年版 犯罪白書 第一編/第二章/八/3 

3 公害犯罪の傾向

 「人の健康に係る公害犯罪の処罰に関する法律」は,昭和四六年七月一日に施行されたもので,いまだこの法律違反事件については受理をみていない。そこで,その他の公害関係罰則違反事件について,昭和四五年から四六年五月末までに有罪裁判のあった事件によりその傾向をみることとするが,事件の多くは,工場,事業場の汚水排出,船舶の油,廃油の排出等水質汚濁に関するものである。
 たとえば,メッキ工場が,電気メッキ作業過程において排出されるシアンを含む廃水を工場外の下水を経て公共溝渠内に廃棄した事件につき,毒物及び劇物取締法違反として,会社が罰金五万円に,会社役員が懲役六月(三年間執行猶予)に処せられたもの(東京地方裁判所),同じくメッキ工場が,シアンを含む廃水を利根川に放流廃棄した事件につき,毒物及び劇物取締法違反として,会社が罰金三万円に,会社役員,従業員が罰金二万円ないし一万円に処せられたもの(太田簡易裁判所),亜鉛製練所において,鉱山保安監督局長の認可を受けないで,亜鉛,カドミウム等の重金属や亜硫酸ガスを排出する製練所を増設し,これを操業した事件につき,鉱山保安法違反として,会社が罰金二〇万円に,製練所長,副所長が懲役八月および六月(いずれも三年間執行猶予)に処せられたもの(前橋地方裁判所),板紙工場が工場排水溝およびこれに接続する下水道等を利用して微細繊維を含む廃水を,琵琶湖に放流した事件につき清掃法違反として,会社および会社代表取締役がおのおの罰金三万円に処せられたもの(大津簡易裁判所),クリーニング工場が汚水を河川に排出した事件に関し,建築基準法により知事の許可をえずに工場を建築した点およびクリーニング業法により知事に工場の位置,構造等を届け出なかった点につき,建築基準法違反,クリーニング業法違反として,会社代表社員が罰金三万円に処せられたもの(仙台簡易裁判所)タンカー,輸送船の船長,機関長が原油,重油を船外に流出させた事件につき,船舶の油による海水の汚濁防止に関する法律違反として,罰金五万円ないし二万円に処せられたもの(小倉,指宿簡易裁判所)等がある。
 悪臭,騒音関係では,化製場以外の施設である鶏羽加工場において,遠心分離機,火力乾燥機等を用いて,鶏羽を加熱圧縮するなどして家畜の飼料を製造する際,悪臭ガスを排出した事件に関し,化製場以外の施設で飼料を製造することが禁止されていた点につき,へい獣処理場等に関する法律違反として,加工業者が罰金一万円に処せられたもの(佐世保簡易裁判所),工務店(有限会社)が会社事務所,工場新築工事の際,ショベルカーの騒音等がひどかった事件に関し,建築主事に対し,所定の確認申請書を提出して,その確認を受けなかった点につき,建築基準法違反として,会社役員が罰金三万円に処せられたもの(仙台簡易裁判所)等がある。
 これらの事例をみてわかるように,公害を発生している状態が,直接公害規制法規に違反していれば,当該法規違反として処罰できるが,前記亜鉛製練所,クリーニング工場,鶏羽加工場事件のように,公害を発生している状態に,直接公害規制法規違反が認められない場合は,公害を発生する事業を営む過程にある行政法規違反によって処罰する等,事犯の捜査,処理には苦心の跡がみられる。しかし,前項で述べたように関係法規が整備されたからには,今後,このような事犯を含め公害犯罪に対し,さらに適切な捜査,処理が一段と前進するものと思われる。