本項では，放火，略取・誘拐，文書偽造・有価証券偽造および賭博を「その他の刑法犯」として取り上げることとする。前三者は，その数こそ，比較的少ないが，一般社会に与える影響の大きい犯罪であり，賭博は，暴力団の活動との関連においてその動向が注目されることによるものである。
　放火等その他の刑法犯の，昭和三五年および昭和四一年以降の発生件数および検挙人員の推移は，I-27表および28表のとおりである。放火についてみると，発生件数は，おおむね横ばいないしは漸減の傾向にあったところ，昭和四五年は前年に比して，若干の増加をみたが，検挙人員においては，かなり減少している。

I-27表　放火等の発生件数(昭和35,41〜45年)

I-28表　放火等の検挙人員(昭和35,41〜45年)

　次に，略取・誘拐であるが，昭和四五年は，発生件数において，前年よりわずかに増加したものの，検挙人員において若干の減少がみられる。この種犯罪の発生件数は，必ずしも多くはないが，いったん発生すると，次々に連鎖反応的な発生をみるおそれがあるため，検挙率の高いことは，とくに望まれるところである。昭和四五年には九八％という検挙率を示し，前年の九七・四％を上回っている。
　次に，文書偽造・有価証券偽造についてみると，発生件数は，昭和四三年以降，わずかに増加の傾向を示していたが，四五年に至り，かなりの増加をみている。検挙人員は，昭和四二年以降，減少していたが，四五年に至り，前年より増加するに至っている。
　最後に，賭博についてみると，昭和二二年に，戦後最高の八三，二〇七人という検挙人員数を記録して，刑法犯検挙人員総数の二割弱を占めるに至り，その後逐年減少した後，増加，減少の傾向を繰り返していたが，昭和四五年は前年より一，五四九人増加して一四，二五八人に達している。賭博には，暴力団が関与するものや，職業的，営利的に行なわれるものなど犯情の重いものから，最近のギャンブルムードにのって娯楽の度を越したような軽微なものに至るまで多様であるが，賭博の検挙人員中，暴力団関係者の占める割合をみると，I-29表のとおり，その割合が逐年増加し，昭和四五年には，前年より三・六％増の三九・三％となっていることは注目に値する。

I-29表　賭博罪検挙人員中暴力団関係者の占める割合(昭和41〜45年)

　賭博を，単純賭博と，常習および賭博開張等に分けて，その発生，検挙の状況をみると，I-30表および31表のとおりである。昭和四五年には，単純賭博が前年に比べて，発生件数，検挙人員ともに増加しているのみならず，暴力団関係者の犯すことの多い常習賭博，賭博開張等も，昭和四五年には，発生件数，検挙人員ともに相当数の増加をみており，最近における過熱化したギャンブル熱の上昇および暴力団の資金源としての利用性を考えるとき，この種犯罪の増加が憂えられるところである。

I-30表　賭博罪発生件数(昭和35,41〜45年)

I-31表　賭博罪検挙人員(昭和35,41〜45年)