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 昭和45年版 犯罪白書 第三編/第三章/四/1 

四 交通犯罪者の処遇

1 矯正

(一) 交通事犯禁錮受刑者に対する処遇

(1) 収容状況

 近年,自動車運転にかかる業務上(重)過失致死傷事犯によって,禁錮に処せられる者が著しく増加してきているが,昭和三九年以降,これらの禁錮受刑者を,一定の基準により特定の施設に集禁し,開放的な処遇のもとに,特殊な教育が行なわれている。
 集禁の基準は,[1]懲役刑を併有しないこと,[2]懲役もしくは禁錮の執行等により,矯正施設に収容された経験を有しないこと,[3]おおむね執行刑期が三月以上であること,[4]心身に著しい障害がないこと,[5]管理上支障のおそれがないこととされており,III-152表に掲げるとおり,集禁施設六庁および矯正管区の指定による準集禁施設四庁が設けられている。

III-152表 交通事犯禁錮受刑者の収容状況(昭和44年12月31日現在)

 同表に示すとおり,昭和四四年一二月末現在の交通事犯禁錮受刑者の総数は,一,二八五名であるが,そのうちの約六〇%が集禁施設に,約一〇%が準集禁施設に,約三〇%の者がその他の施設に収容されている。
 これらの者を年齢別にみると,III-153表のとおり,二〇歳ないし二五歳が四三・一%を占めて最も多く,次いで三〇歳ないし三九歳の二三・二%,二六歳ないし二九歳の二一・六%の順になっている。

III-153表 交通事犯禁錮受刑者の年齢(昭和44年12月31日現在)

 次に,刑期別にみたのが,III-154表であり,これによると,六月をこえ一年以下が七〇九人(五五・二%)で半数以上を占め,次いで三月をこえ六月以下三二五人(二五・三%),一年をこえ二年以下二二〇人(一七・一%)となっている。

III-154表 交通事犯禁錮受刑者の刑期(昭和44年12月31日現在)

(2) 処遇の概要

 集禁施設における交通事犯禁錮受刑者に対する処遇は,集禁対象者の特質を考慮し,規律ある生活のもとで,生活訓練,職業指導その他必要な教育が行なわれている。
 生活訓練は,施設の日常生活に即しつつ,法を守る精神,責任観念その他の徳性をかん養させるとともに,自主自立の精神を体得させるものであり,なかでも,徳性のかん養については,あらかじめ作成した教育計画に基づいて,道徳教育の時間を毎週二時間以上設け,民間篤志家の協力も得たうえで,説話のほかに,集団討議,視聴覚教材の利用など,種々の方法を活用して指導している。
 職業指導は,[1]自動車運転の適性が著しく欠けていると認められる者および自動車運転の職業から転職することを希望する者に対しては,必要とする職業情報の提供,職業選択の指導,各種基本的技術の実習指導などを行ない,[2]出所後自動車運転に関する業務に従事することを希望し,かつ,その適性がある者に対しては,運転に必要な知識,技能を付与し,安全運転の態度に習熟させるための指導を行なっており,それぞれおおむね二か月間,三〇〇時間をもって終了する指導課程が編成されている。
 ちなみに市原刑務所の収容者について,その犯時の職業および出所後の職業見込みをみると,III-155表のとおりであり,また運転適性検査の結果等については,III-156表のとおりで,不合格および要注意者が三七・六%を占めていることが注目される。

III-155表 交通事犯禁錮受刑者の犯時の職業および出所後の職業見込み(昭和45年2月10日現在)

III-156表 出所後の運転希望別適性検査結果(昭和45年2月10日現在)

 さらに右のような教育のほか,集禁施設においては開放的処遇が推進されている。すなわち,入所時教育を含めての厳正な訓練期間(入所より約一か月)を経れば,居室,工場,食堂,教室等は施錠しないことをたてまえとし,検身,居室の検査も原則的には行なわず,施設構内では戒護者なしの通行を認める。また作業,レクリエーション,集会,クラブ活動等についても,当番制を採用するなど,できるだけ自主的な運営をさせ,集団訓練の効果を高めるように配慮されている。
 面会および信書の発受等,外部との交通についても,施設の管理上支障のない範囲で,つとめて行なわせることとしており,とくに面会については,必要と認めるときは,一般の面会室以外の場所に設けられた特別の面会所において,職員の立会なしで行なわせることとしている。
 また工場における作業については,本人が作業に就くことを願い出た場合には,その者の適性,希望および将来の生計等を考慮して,就業させているが,就業時間は,一日六時間,一週三六時間で,一般の懲役受刑者と比べて,一日につき二時間短縮されており,その分は,道徳教育その他の指導にあてられている。
 なお,III-157表は,市原刑務所における収容者の自動運転免許取得試験の合格状況をみたものであり,III-158表は,同刑務所が習志野刑務支所として交通事犯禁錮受刑者の集禁を開始した時期から,昭和四四年末までの出所者,二,四一九人について,行刑施設への再入状況を明らかにしたものであるが,再入者はわずかに二三人で,一%にもみたない良好な成績を得ている。

III-157表 市原刑務所収容者の自動車運転免許取得試験受験結果(昭和44年12月31日現在)

III-158表 市原刑務所より出所した禁錮受刑者の行刑施設への再入状況(昭和44年12月31日現在)

 以上のように,交通事犯禁錮受刑者の集禁処遇は,開放的処遇を原則とした教育指導に重点がおかれ,とくに日常生活に即しての徳性のかん養と職業指導などの教育が,かれらの特性に応じた多様な方法によって実施されている事実は,注目すべきであろう。
 そのほか,矯正管区によっては,この集禁処遇の要領に準じた処遇を行なう施設(準集禁施設)を指定しており,交通事犯に焦点をあわせたこのような特色ある処遇の試みが,他の施設における各種受刑者に対しても,新しい処遇方式を工夫するための刺激となって,より効果的な処遇の開発のための推進力となることが期待される。

(二) 交通事犯少年に対する処遇

(1) 少年鑑別所における鑑別

 少年の交通事犯の増加に伴い,少年鑑別所において,家庭裁判所の請求により,これらの少年の資質の鑑別を行なうことも増加してきている。III-159表に示すとおり,昭和四四年における交通事犯少年の鑑別人員は,七,二四八人(収容鑑別一,一三六人,在宅鑑別六,一一二人)で,家庭裁判所関係の鑑別総数の二二%を占め,昭和四〇年のそれの一・七倍に増加している。

III-159表 交通事犯少年鑑別人員(昭和40〜44年)

 このような交通事犯少年の鑑別要請の増大にこたえるため,運転適性検査器具が整備され,また,実際の鑑別にあたっては,運転適性の面のみならず,法規遵守態度や規範意識等の面についても考慮されており,人格の総合的判断によって,処遇指針がたてられている。

(2) 少年院における処遇

 交通事犯少年で,保護処分に付された者についてみると,その多くは保護観察を受けており,きわめて少数の者が,少年院に送致されているにすぎない。しかし,交通事犯を重ねる少年が少なくなく,これらの少年に対して,効果的な処遇を図るために,短期間,特定の少年院に収容して,適切な矯正教育を施すことを目的とした交通事犯短期少年院の構想が実現されることとなり,昭和四四年一月から,松山少年院において,また,昭和四五年三月から,宇治少年院において実施に移されている。
 これらの少年院の収容基準は,[1]過去に少年院収容歴がないこと,[2]心身に著しい障害がないことなどとされている。収容期間は,原則として三か月とし,その処遇は,道徳教育など生活指導を徹底させるとともに,運転適性のある少年に対しては,安全運転に必要な知識および技能を与えるなど,安全運転教育を施し,また,その他の少年に対しては,職業指導が行なわれている。また,処遇内容を異にする他の収容少年とは,居室や教育指導の場を原則として分離するとともに,できるだけ開放的処遇を行ない,日常生活を自主的に運営させるように指導されている。