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1 交通犯罪の背景と現況 かつては,新鮮な期待をこめて語りかけられた,モータリーゼーションという言葉が,交通戦争とか,交通公害という言葉と結びつくようになって久しいものがある。
本年版の犯罪白書においても,ここ数年来のそれと同じように,自動車が増え,交通事故の被害者が増えたことを,繰り返して指摘しなければならないこととなった。 III-129表は,昭和二〇年,二五年,三〇年と三五年以降の自動車と原動機付自転車の各台数,交通事故の発生件数および交通事故による死亡者と負傷者の人員数を示したものであり,III-130表は,昭和二〇年を除く右と同じ年次について,この死亡者と負傷者の,自動車一万台当たり,人口一〇万人当たり,一日当たりの比率を比較したものである。昭和四四年に発生した人身事故を伴う交通事故は七二〇,八八〇件で,前年より八五,八二四件(一三・五%増)の増加を示し,死亡者数は一六,二五七人で,二,〇〇一人(一四・〇%増)の増加をみせ,負傷者数は九六七,〇〇〇人で,一三八,九二九人(一六・八%増)の増加となり,いずれも,わが国としては空前の数字を示すに至った。一日当たりの死亡者は約四五人,負傷者は,約二,六五〇人にのぼっている。また,人口一〇万人当たりの死亡者は約一六人,負傷者は約九四〇人となり,わが国においては,一年間に,老幼男女を問わず,おおむね一〇〇人に一人の割合で,交通事故により死亡,あるいは負傷している計算となるわけである。 III-129表 交通事故の発生件数と死傷者数(昭和20,25,30,35〜44年) III-130表 交通事故率累年比較(昭和25,30,35〜44年) 自動車の台数については,III-129表のとおり千六百万台を突破しているが,これを操縦する資格を与えられた者の増加も著しく,昭和四四年には,運転免許取得者数が二四,七八二,一〇七人にも達し,運転免許証の交付を受けることのできる最低の年齢である一六歳以上の人口約七千六百万人のうち,おおむね三人に一人は,運転免許を取得している計算となっている。このような自動車台数の増加,自動車を運転する層の拡大を背景として,激増の一途をたどるいわゆる自動車事故事件は,国民の広い範囲の層に,いろいろなかたちで悲惨な打撃を与えて,重大な社会問題となっており,その防止に抜本的な対策が切望されているところである。そこで,交通犯罪という用語も,この章においては,もっぱら自動車(原動機付自転車を含む。以下,特に区別しないとき同じ。)交通に関する犯罪という狭い意味に限定して述べることとする。また,自動車交通に関する犯罪といっても,人を死亡,あるいは負傷させて,主として刑法第二一一条(業務上過失致死傷および重過失致死傷)に触れる罪と,道路交通法その他交通関係法令の罰則に触れるものとの二つに大別され,前者は刑法犯,後者は,いわゆる行政犯とされているが,もともと,道路交通関係法令も,道路交通の危険を防止し,その安全と円滑を図ることを主たる目的としており,取締りの励行は,かなりの程度まで,事故防止に役立つという関係にあるので,この二つを並行させながら,交通犯罪の概況をみていくこととする。 |