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 昭和45年版 犯罪白書 第三編/第一章/二/2 

2 年齢別考察

(一) 少年人口の推移

 犯罪の発生や増減は,基礎となる人口の動きと密接な関連がみられるところから,犯罪少年の年齢別考察に先だって,人口の年齢構成とその推移を概観しておきたい。
 III-5図は,昭和一〇年(国勢調査による。),昭和四四年および昭和五〇年の推計総人口を,五歳ごとの年齢区分により,その構成割合を図示したものである。これによると,昭和一〇年の人口の年齢構成は,低い年齢層の割合が大きく,年齢が高まるにつれて,その構成割合は減少し,五〇歳代と四〇歳代のゆるやかな起伏を除けば,ほぼ一直線をなしている。

III-5図 人口の年齢構成(昭和10,44,50年)

 昭和四四年の人口の構成割合をみると,一四歳以下の年齢層の割合が著しく低く,八%を前後しており,一五歳ないし一九歳の人口割合は,昭和一〇年とほぼ同率の九・四%となり,二〇歳ないし二四歳のいわゆる若年成人が最も高い割合を示している。これは,昭和二三,四年ごろのいわゆるベビー・ブーム期における出生率の異常な上昇と,その後の出生率の低下によるものであって,ベビー・ブーム時代の人口の大波が,昭和四四年には,一五歳ないし一九歳の層から,二〇歳ないし二四歳の層に移り,さらに昭和五〇年には,二五歳ないし二九歳の層にそのピークが移るとともに,一五歳ないし一九歳の層が,その谷になることが予想される。
 次に,少年の年齢区分を一四,五歳の年少少年,一六,七歳の中間少年および一八,九歳の年長少年の三段階に分け,これに二〇歳ないし二四歳の若年成人を対比させて,昭和三五年以降昭和五〇年までの人口の推移を示すと,III-11表のとおりである。すなわち,昭和三五年の少年人口は一,〇八二万人であったが,その後年々増加して,昭和四一年には一,三三七万人に達した。しかし,昭和四二年からは減少傾向に転じ,昭和四四年には一,一四〇万人になっており,昭和五〇年には九三六万人にまで減少することが予測される。このことを,昭和三五年の少年人口を一〇〇とする指数で表わすと,ピークの昭和四一年は一二四,昭和四四年が一〇五で,昭和五〇年は八六となる。

III-11表 少年人口の推移(昭和35〜47,50年)

 昭和三五年以降の少年人口の増加は,前述のとおり,ベビー・ブーム期の出生者が少年層に繰り込まれた特殊事情によるものであり,昭和四一年をピークとして,その後の少年人口の減少は,ベビー・ブーム期以後の出生率の急激な低下に起因している。さきのIII-5図に示すように,出生率の低下による少年人口の減少は,低年齢層から徐々に回復しつつあるかに見受けられるが,最近の核家族化現象とあいまって,その速度は緩やかなものとなろう。
 この少年人口の推移をさきに述べた年齢段階別にみると,一四,五歳の年少少年は昭和三八年をピークとして減少傾向をたどり,一六,七歳の中間少年は昭和四〇年を,一八,九歳の年長少年は昭和四二年をピークとして,いずれも減少に向っている。これにひきかえ,二〇歳ないし二四歳の若年成人層は,ここしばらくは増加を続けて,昭和四六年をピークとして,減少に向うことが予測される。

(二) 刑法犯の推移

 戦後の少年犯罪増加の,いわゆる第二波を迎える底部をなした昭和二九年以降,昭和四四年までの刑法犯検挙人員について,さきに述べた年齢層別の実数と人口比の推移を示したのがIII-12表であり,最近一〇年間の人口比のみの推移を図示したのがIII-6図である。

III-12表 年齢層別少年刑法犯検挙人員および人口比の推移(昭和29〜44年)

III-6図 年齢層別刑法犯検挙人員の人口比の推移(昭和35〜44年)

 まず,年少少年についてみると,刑法犯検挙人員は,昭和三〇年から増加しはじめ,昭和三八年の六五,九五七人をピークとして,その後は減少に転じ,昭和四四年は三一,五一一人と,ピーク時の半数以下になっている。これを人口比でみると,昭和三二年から上昇しはじめ,昭和三九年の一四・〇をピークとしてその後は急速に下降し,昭和四四年は九・三で,上昇下降ともかなりの急カーブを描いている。
 中間少年の検挙人員は,昭和三一年から増加しはじめ,昭和四〇年の七三,二九七人をピークとしてその後は減少に転じ,昭和四四年は五五,一一一人となっているが,昭和三七年に一度大きく減少している。これを人口比でみると,昭和三〇年から増加しはじめ,かなりの急カーブで上昇しているが,昭和三六年の一四・四を第一の山,昭和四〇年の一五・〇を第二の山として,大きな起伏を描きながら,全体としてみた場合,ここ一〇年間は若干の上昇傾向を示している。なお,昭和四四年の人口比は一四・七で,実数とは逆に,前年に比べて増加している。
 年長少年の検挙人員も,昭和三〇年から増加しはじめ,昭和三六年の六二,七五八人を第一の山として,その後減少し,昭和三九年の五五,一〇八人を谷としてその後は増加のすう勢にある。しかし,これを人口比でみると,二つの山を描きながら緩慢に上昇し,昭和四二年以降は急速な増勢に転じて,昭和四四年には二三・七と,中間少年を大きく引き離している。
 若年成人の検挙人員は,昭和三〇年から徐々に増加し,昭和三二年の一四八,二〇七人を頂点としてその後は徐々に減少し,昭和三七年を谷として以後は増加の一途をたどり,昭和四四年は昭和三七年の二倍にあまる二七七,四九六人に達している。これを人口比でみると,昭和三六年まではとくに著しい増減はなく,いわゆる横ばいないし下降傾向にあったものが,昭和三七年の一五・四を谷として上昇に転じ,昭和四三年には二五・二,昭和四四年には二七・三と上昇速度はきわめて急である。
 このように,少年刑法犯検挙人員は,年齢がすすむにつれて実数,人口比ともに多くなる傾向にある。
 ところで,昭和四四年の刑法犯検挙人員は,年少少年が三一,五一一人で,前年の一〇・二%にあたる三,五六五人の減少,中間少年は五五,一一一人で,前年の二・六%にあたる一,四九三人の減少である。これに対し年長少年では一〇一,二一六人で,前年の三・二%にあたる三,一〇九人の増加となっている。このように,ここ数年来,年少少年,中間少年の刑法犯検挙人員が減少しつづけているのに対し,年長少年では依然として増加を続け,若年成人と類似した傾向を示しているが,これは,自動車の交通に起因する業務上過失致死傷犯の増加によるところが大きい。そこで,この種の事犯を除外した少年刑法犯の動きについて,年齢層別に検討してみよう。
 III-13表は,最近四年間における業務上(重)過失致死傷(交通事犯のみ)を除外した刑法犯検挙人員および人口比を示したもので,参考までに,若年成人のそれも付記した。これをみると,年長少年においても,年少少年や中間少年におけると同様,検挙実数は逐年減少し,人口比にも減少ないし横ばいの傾向がみられている。若年成人にあっては,検挙実数は増加の傾向を示しているが,人口比においては逆に減少ないしは横ばいの状態にあり,各年齢層全般にわたって好ましい方向に動いているものとみてよいであろう。しかし,年少少年や中間少年が,年長少年や若年成人と肩をならべて,一〇前後の高い比率(成人のそれは三・九)を示している事実には,十分の注意と関心を向けなければならない。

III-13表 年齢層別刑法犯検挙人員および人口比(昭和41〜44年)

(三) 犯罪の態様と特色

 次に,各年齢層別に,犯罪の種類,態様などの質的な面について,どのような特色があるかを検討してみよう。

(1) 罪種

 III-14表は,昭和四四年における刑法犯検挙人員について,年齢層別,主要罪名別に,その実数と構成割合を示したもので,参考として若年成人のそれを付記した。

III-14表 年齢層別刑法犯主要罪名別検挙人員(昭和44年)

 少年の刑法犯においては,従来,罪種別割合の一位を占めていた窃盗が,昭和四四年にはじめてその座を業務上過失致死傷に譲ったことは,すでに述べたところであるが,まず年少少年についてみると,窃盗が七八・〇%で圧倒的に多く,業務上(重)過失致死傷は一・九%にすぎない。窃盗に次いで多いのは暴行,傷害,恐喝であるが,いずれも四,五%程度である。
 中間少年では,年少少年と同様に,窃盗が最も多いが,その割合は四五・三%で,年少少年と比較すると著しく下がっている。次いで業務上(重)過失致死傷の三一・一%で,その他には傷害の六・〇%,暴行の五・四%,恐喝の四・四%,強姦の一・五%がおもなものである。
 年長少年になると,窃盗はさらに一九・三%に下がり,代わって業務上(重)過失致死傷が六一・二%と上がり,全体の過半数を占めるようになる。この実人員は六一,九五七人で,前年より六,六八七人増加している。その他の罪名としては傷害の六・一%,暴行の三・六%,恐喝の二・一%,強姦の一・四%などが目につくが,恐喝,暴行などは中間少年や年少少年より低率を示している。
 若年成人になると,さらに業務上(重)過失致死傷の割合が高くなり,六七・二%に達する。次いで窃盗が多いが,その割合は年長少年の場合よりさらに低く,一一・二%にすぎない。これに対し傷害は七・七%で若干高くなるが,暴行は四・二%,恐喝は一・三%で,中間少年や年少少年より低率である。
 なお,業務上(重)過失致死傷を除外して,年齢層別に,主要罪名別の構成割合を図示すると,III-7図が得られ,さらに,これを財産犯,粗暴犯,凶悪犯,性犯罪,その他に包括してみると,III-15表となる。すなわち,低年齢層ほど窃盗の占める割合が大きく,したがって,財産犯が高率になる。年齢層が高くなるにつれて,暴行,傷害などが多くなり,したがって粗暴犯の割合が大きくなる。凶悪犯や性犯罪は,全体としての率は低いが,年長層に比較的高率であり,年長少年と若年成人とは,他の二群に比べた場合,構成比が近似していることがわかる。

III-7図 年齢層別主要罪名別刑法犯検挙人員構成比(昭和44年)

III-15表 年齢層別・罪種別刑法犯検挙人員の構成比(昭和44年)

 次に,各罪種別に,年少,中間,年長少年の占める割合をみると,III-16表のとおり,財産犯にあっては,年少少年と中間少年の占める割合が高く,年長少年のそれは低いが,年長少年は,粗暴犯,性犯罪において,それぞれ五割近くを占め,とくに凶悪犯においては六割近くの高率となっている。

III-16表 罪種別・年齢層別少年刑法犯検挙人員の構成比(昭和44年)

 III-17表は,年齢層別にみた刑法犯検挙人員の人口比(この場合人口一〇万人あたり)を,罪種別に,昭和四三年および四四年について示したものであるが,これによると,業務上(重)過失致死傷は一応おくとして,粗暴犯,凶悪犯,性犯罪のいずれにおいても,年長少年は,年少,中間少年より人口比が高く,ことに,凶悪犯と性犯罪においては,若年成人より高い数値を示していることは注目しなければならない。これらの事実は,一八歳,一九歳のいわゆる年長少年の犯罪の特質を示すものであり,その適正な対策を考えるにあたって見のがすことのできない要点である。

III-17表 罪種別・年齢層別刑法犯検挙人員の人口比(昭和43,44年)

(2) 共犯関係

 少年犯罪の特色の一つとして,犯罪の集団性があげられる。これは,思春期ないし青年期の心理的特性として,親や家庭よりも外部の社会的評価の方を尊重するとともに,外部の集団への所属欲求が強いことによるものである。また,不適応の現われとして集団に逃避したり,群集心理によって付和雷同しやすい特性にもよっている。
 警察庁の統計によれば,III-18表に示すように,昭和四四年に警察で検挙された刑法犯(過失犯を除く。)のうちで,二人以上の共犯によるものは,成人の関与した事件では一四・四%であるのに対し,少年の関与した事件では三〇・七%に及んでいる。

III-18表 主要罪名別共犯事件の件数(昭和44年)

 このように,少年事件では,成人事件に比べて共犯事件の割合が著しく高いが,これを主要罪名別にみると,恐喝がきわだって高く,強盗,暴行がこれに次いでいる。成人の犯罪においても恐喝,強盗は共犯率が高いので,成人犯罪に比較した場合,共犯率の高いのは窃盗であり,暴行がこれに次いでいる。
 法務総合研究所では,法務省刑事局と共同して,犯罪少年の実態に関する調査(以下,「法務省特別調査」という。)を実施しているので,この調査資料に基づいて,若干の考察を加えることとする。ちなみに,この調査は,昭和四四年一月から一二月末日までの間に,全国の地方検察庁および家庭裁判所支部に対応する地方検察庁支部において受理した少年事件(簡易送致事件,道交違反事件,業務上過失・重過失致死傷事件,その他,追送致,他庁からの移送および再起事件を除く。)の中から,無作為に抽出された一〇分の一の数に相当する九,六四四人の少年を対象としたものである。
 まず,年齢層別に,共犯の有無をみると,III-19表に示すように,総数では,約半数の四八・一%が共犯事件に関与しているが,年少少年では五二・六%,中間少年では四九・四%,年長少年では四四・三%と,低年齢層ほど共犯の率が高くなっている。このことは,低年齢層の者ほど精神的に未成熟で,遊び仲間やリーダーの影響を受けやすいことを示すものである。

III-19表 年齢別共犯少年の割合(昭和44年)

 なお,警察庁が,昭和四四年の刑法犯検挙人員のうち,過失致死傷を除いた一〇六,四九六人について,身分別に,非行集団への所属状況を調査したところによると(III-20表),非行集団となんらかの関連を持つ者が三二・二%みられている。集団はその生活の場の形態によっていくつかに分けられるが,そのうち最も多いのが学校集団の一三・九%で,地域集団八・五%,盛り場集団二・四%,職場集団一・八%,その他の集団五・七%となっている。

III-20表 犯罪少年非行集団関連別検挙人員構成比(昭和44年)

 これを身分別にみると,集団との関連の最も高いのが大学生の五三・一%で,高校生三八・六%,中学生三六・二%,その他の学生・生徒二九・七%,無職少年二九・四%,有職少年二五・四%の順となる。これを集団形態との関連でみると,学生・生徒は学校集団とのつながりが強いが,その傾向は大学生,中学生の順に強く,高校生では地域集団とのつながりの比較的多いのが注目される。
 これに対し,有職少年では地域集団とのつながりが最も強く,職場集団がこれに次いでいるが,無職少年では,地域集団に次いで盛り場集団の多いのが特色といえよう。
 非行形態別の集団関連度をみると,全体としては窃盗集団が一六・四%で最も高く,粗暴犯集団の一〇・三%がこれに次いでおり,その傾向は,中学生,高校生に顕著にみられる。しかし,大学生では粗暴犯集団が三一・三%で群を抜いて多く,窃盗集団は三・四%にすぎない。これは,学園紛争を中心とした学生の集団暴力事件の影響によるものであろう。

(3) 前処分歴

 少年が犯罪を犯し,なんらかの処分を受けたあとで,再び犯罪を行ない,あるいはこれを反復することは,決してまれではない。この再犯の防止こそ,犯罪対策上の最も重要な課題といわなければならない。
 このような再犯少年の最近の動向を,全国の家庭裁判所が取り扱った一般保護少年(道路交通保護事件を除外した一般保護事件として取り扱われた少年をいう。以下,この節において同じ。)についてみると,III-21表に示すように,以前に家庭裁判所において,なんらかの処分(刑事処分,保護処分,不開始,不処分など)を受けたことのある者は二〇%をこえており,ここ数年間の動きとしては,若干減少の傾向をみせている。

III-21表 一般保護少年の前回処分の有無(昭和40〜43年)

 全国家庭裁判所における一般保護事件終局実人員中,前処分のある者の比率を,刑法犯,業務上過失致死傷を除く刑法犯,特別法犯に分けて,昭和三四年以降の動きをみたのがIII-22表である。これによると,総数および刑法犯は,昭和三四,五年頃には三五,六%に達していたものが,昭和三六年に急速に低下し,その後は多少の起伏を示しながらも漸減の傾向にあり,昭和四三年は二一%台に下っているのに対し,業務上過失致死傷を除いた刑法犯についてみると,その比率は昭和四三年には二八・八%となっており,ここ数年ほぼ横ばいの傾向を示している。

III-22表 終局実人員中,前処分ある者の比率(昭和34〜43年)

 次に,一般保護少年の各罪名別に,前回処分の有無の割合をみると,III-23表に示すように,処分歴のある者の割合の高い罪名は強盗,脅迫,殺人などで,いずれも五〇%を前後している。

III-23表 一般保護少年の前回処分の有無と罪名(昭和43年)

 次は,恐喝,詐欺,強姦,傷害などで,四〇%を前後し,暴行,横領,窃盗,放火がこれに続いている。その割合の低いものとしては,当然のことながら業務上過失致死傷があげられ,一〇%そこそこの数字であり,特別法犯も二〇%に満たない。
 ところで,法務省特別調査によって,年齢層別,主要罪名別に,非行前歴(ここでは,検察庁に送致された経歴をいう。)の有無をみると,III-24表にみるとおり,前歴のある者は三〇%に及んでいる。本調査では,業務上過失致死傷が除外されているので,その割合は家庭裁判所の一般保護事件のそれより高くなっているが,業務上過失致死傷を除いた刑法犯の終局実人員とは近い比率を示している。

III-24表 犯時年齢層別・主要罪名別非行歴の有無(昭和44年)

 これを年齢層別にみると,年少少年では二一・二%,中間少年では二八・九%,年長少年では三六・七%となり,年齢が高くなるにつれて割合も高くなっている。年長者ほど前歴を持つ者が多くなるのは当然であるが,年少少年においても,すでにその二〇%をこえる者に前歴があることは注意しなければならないところである。
 さらに,これを罪名別にみると,窃盗などに前歴のある者が少なく,恐喝に多いのが目につく。この窃盗に少なく,恐喝に多いのは全般を通じてみられる傾向であるが,とくに年長少年では,恐喝の半数以上が前歴の所有者である。中間少年では,恐喝に次いで強盗,強姦に多くなるが,年長少年になると,これらの罪種のほかに,暴行が割合の高いものとして加わってくる。
 なお,これらの少年について,前回処分から再犯にいたるまでの期間をみると,III-25表に示すように,三月未満の者が一七・四%であり,六月未満では三七・四%となり,一年未満になると六二・八%になる。すなわち,前回処分歴を持つ者の五分の三以上の者は,処分後一年たらずの間に再犯に陥っていることになる。このことは,再犯防止対策上,看過することのできない事実である。

III-25表 前回処分後の再犯期間(昭和44年)

(4) 自動車との関連

 近時,自動車保有台数の増加や運転人口の増大に伴って,交通関係事犯が増加していることは,すでに繰り返し指摘してきたところであるが,自動車の一般的普及によって,それが単なる輸送手段にとどまらず,日常生活に浸透し,ことに若い人びとには格好の自己表現の手段になりつつあるところから,交通関係事犯以外の犯罪についても,自動車を犯罪の対象または手段とする行為が増加している。
 法務省特別調査によると,自動車に関連のある犯罪を犯したものは,対象少年中二一・〇%で,前年より三・六%増加している。都市地域を犯行地とする少年では一九・九%で,前年より二・四%増加しており,さらに,郡部を犯行地とする少年では二四・七%で,前年に比べると一〇・一%の急増ぶりである。
 次に,自動車との関連が強いとみられる窃盗,強盗,傷害,強姦について,関連の度合と態様をみると,III-26表に示すとおりである。すなわち,全国的にみて,関連の最も強いのは強姦であり,都市においては前年の三九・九%から四三・六%に,郡部においては前年の三七・一%から,実に五六・九%に増加している。

III-26表 地域別主要罪名別自動車との関連(昭和44年)

 次は強盗であるが,例数が少ないので断言はできないにしても,全国で前年の一五・〇%から二八・二%にふえており,窃盗についても,都市においては,前年の二〇・六%から二四・三%に,郡部においては,前年の二〇・五%から二八・五%に増加している。これに対し傷害では,郡部において九・九%から一四・三%に増加しているが,都市においては,一四・二%から一二・九%に減少している。いずれにしても,自動車に関連した犯罪は,前年に比べて,都市より郡部における増加傾向が顕著にみられる。
 少年たちにとって,自動車は,スリルやスピード感を味わい,あるいは行動圏を拡大し,さらにその密室性をセックスの場に利用するなど,いまや欲求充足や不満の解消手段として重要な意味を持つようになっている。したがって,モータリゼーションの言葉によって象徴される自動車の一般的な普及や生活への浸透が,抑制力の乏しい少年たちをいっそう刺激し,自動車を不正に入手したり,これを犯罪の道具として利用するような行為をますます増加させることは十分予想されるところである。

(5) 被害者からみた特質

 少年非行を含めて,最近とくに被害者についての研究が専門家の関心をよんでいるが,これは,犯罪が単にこれを行なう者の精神資質や,これを取り巻く社会・文化的環境だけでなく,被害者となった者との関係によって起こり,また,犯罪少年にあっては,被害を受けたことから,それが契機となって犯罪者に転化している場合が少なくないことなどが注目されるようになったことによるものである。しかし,一方では犯罪における加害者と被害者の関係は,社会が進歩すればするほど,ますます希薄化する傾向にあるともいわれており,その関係はけっして単純には片づけられない。
 法務省特別調査により,各罪名別に,被害者と少年との関係をとりまとめたのが,III-27表である。これをみると,「無関係」というのが七五・五%で最も多く,昭和四一年から昭和四二年にかけての特別調査に比較すると,七・二%の増加である。

III-27表 罪名別にみた犯罪少年と被害者の関係(昭和44年)

 次が「顔見知り」の一二・四%,「友人・知人」の四・九%で,それぞれ二・七%,二・六%の減少である。「親族」は〇・五%で,前回の調査との間に差はみられない。
 この被害者との関係が欠けている場合の多い犯罪としては,強盗,窃盗,わいせつ,詐欺などがあげられ,いずれもそのうちの八〇%をこえている。これに対し,「顔見知り」程度の人間関係は,脅迫,暴力行為等処罰に関する法律違反および強姦に比較的多く,三〇%以上もみられている。「友人・知人」関係が比較的多いのは,横領と殺人で,暴行,暴力行為等処罰に関する法律違反や傷害がこれに次いでいる。しかし,殺人について最も注目すべきは,「親族」が二九・四%に及んでいることであって,この数字は,前回調査のものとほとんど差がない。なお,殺人については,「顔見知り」が前回調査の三三・三%から二三・五%に減り,逆に,「無関係」が,一八・五%から三五・三%にふえている。殺人は,全体的にみて例数が少ないので,その比率をうんぬんすることは問題があるが,おおよその傾向はみてとれるであろう。
 いずれにしても,人間関係のまったくない行きずりの人や,不特定多数の者を被害者に巻き込んでいる犯罪が多くなっており,とくに殺人のような凶悪な犯罪にこのような傾向がみられていることは,見のがすことのできない最近の特徴である。
 III-28表によって,罪種と被害金額との関係をみると,被害金額千円以上一万円未満が最も多く,四六・五%で,次いで一万円以上一〇万円未満の三三・六%となっている。

III-28表 罪種と被害額(昭和44年)

 これを罪名でみると,窃盗の被害額は,他の罪名によるものよりも全般に高額で,百万円以上の被害を与えているものもみられている。これに対し,恐喝による被害は比較的軽微なものが多く,千円未満が三〇%近くみられる。
 このような被害者側からの接近は,犯罪予防の見地からも,今後ますますその意義が重視されることになろう。