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 昭和45年版 犯罪白書 第二編/第二章/一/3 

3 未決拘禁者および死刑確定者の処遇

(一) 未決拘禁者

(1) 収容状況

 未決拘禁者,すなわち,被告人および被疑者の入出所の状況および一日平均収容人員は,II-73表に示すとおりである。昭和四四年における被告人の一日平均収容人員は,七,四二八人で,前年に比べて二一九人増加しており,被疑者のそれは,五四〇人で,前年に比べて三八人減少している。また,昭和四四年における,被告人の新入所人員合計は,四九,八九七人,出所人員合計は,五二,五四八人であり,同じく,被疑者の新入所人員合計は,三六,三三一人,出所人員合計は,三四,七七一人で,いずれも,前年に引き続き,減少を示している。

II-73表 未決拘禁者の入出所人員(昭和40〜44年)

 次に,未決拘禁の期間についてみると,昭和四三年における通常第一審終局被告人八七,一二七人中,六六%にあたる五七,六九一人が勾留されているが,起訴後第一審の終局裁判を受けるまでの間の勾留期間別人員は,II-74表のとおりであり,これによると,一月をこえ二月以内の者が最も多く,総数の三〇・八%であり,二月以内で約七割を占め,六月をこえる者は三・二%にすぎない。しかし,昭和四三年末現在で実際に勾留されている者九,一二〇人の勾留期間別人員は,一五日以内の者が最も多く,総数の二四・五%で,次は,一月をこえ二月以内の者二二・四%であり,六月をこえる者は一一・三%で,一年をこえる者は四・二%である。

II-74表 通常第一審終局被告人の勾留日数別人員と比率および年末現在の勾留期間別人員と比率(昭和43年)

(2) 処遇の概要

 未決拘禁は,被疑者または被告人が逃亡したり,または,証拠の隠滅を図るおそれのある場合に,このような事態の発生を予防するためにとられる強制処分である。したがって,未決拘禁者は,受刑者と同じように,身柄を強制的に施設に収容されるが,裁判によって有罪が確定した受刑者とは,拘禁の目的が異なるために,異なった処遇を受ける。未決拘禁者は,拘置所または拘置支所に収容される。刑務所に収容される場合は,所内の特別の区画(拘置場という。)に収容される。未決拘禁者の処遇は,施設管理上の所内秩序維持のためのもののほか,逃亡および証拠の隠滅に対する対策が基本的なものとなるといえるが,その概要は,次のとおりである。
ア 居房 原則として,独居房に収容される。これは,証拠隠滅の防止を図るため,ならびに本人の名誉の保全に適しているからである。同一事件に関連のある者は,居室を別にするほか,居室外においても,接触の機会がないよう配慮されている。
イ 作業 作業は,強制されることはない。本人が願い出た場合には,作業に従事することがある(請願作業という。)。請願作業は,施設の管理上支障がない限り,本人の選択するものについて就業が許される。請願作業に従事している未決拘禁者の数は,昭和四四年一二月末において,三・三%で,例年この程度である。請願作業による収入は,国庫に帰属し,就業者には,作業賞与金が給与される。作業賞与金が釈放の際に給与されることは,受刑者の場合と同様であるが,受刑者よりも緩和された制限のもとに,在所中でも,その使用が許される。
ウ 給養 衣類,寝具は,受刑者と異なり,自弁が原則であり,食糧や日用品についても,大幅に,自弁が許されている。拘禁前の生活程度を,拘禁後も引き続き,できるだげ維持させようとする趣旨によるものであるが,衛生および規律の観点から,相当程度の制限がなされる。なお,自弁できない者に対しては,国の義務として必要なものが給貸与される。
エ 面会および信書 面会は,受刑者の場合と異なり,管理上やむを得ない場合を除き,その相手方および回数についての制限はない。とくに,弁護人との面会は,立会人をつけず,訴訟当事者としての防御権が保障されている。信書の発受も,管理上やむを得ない場合のほか,その相手方,回数などについて制限されることはないが,その内容は,検閲され,未決拘禁の目的をそこなったり,施設の秩序を現実に脅かす危険のあるような内容であれば,それに対する適当な措置がとられる。
オ 文書の閲読等 文書・図画は,拘禁の目的に反せず,かつ,施設の規律に害のないものに限り,閲読させることができる。教誨は,原則として行なわれないが,未決拘禁者から願い出があった場合には許される。
カ 懲罰 施設の秩序を維持するため,規則に違反した者には,懲罰が科せられるが,減食罰は科せられない。
 II-75表は,昭和四二年以降の受刑者以外の者の懲罰事犯者の事犯別割合を示したものである。刑務所および拘置所の収容者のうち,受刑者を除く者は,未決拘禁者が大部分であるから,この表に計上されたものは,ほとんどが,未決拘禁者によるものと考えてよい。昭和四四年における懲罰事犯のうち,最も多いものは,抗命である。たばこ所持および対収容者暴行は,逐年,割合が減少しているが,抗命,争論,通声などは,割合が増加の煩向にある。

II-75表 未決拘禁者などの懲罰事犯別人員の比率(昭和42〜44年)

 これらの懲罰事犯に対する処置としては,監獄法に規定されている懲罰が科せられるが,さらに,刑事事件として,起訴される者もある。昭和四四年において,起訴された者は,四二人であり,その行為別人員で,最も多いものは,傷害である(II-67表参照)。
 未決拘禁者の処遇は,人権を尊重し,拘禁される者の訴訟上の権利を妨害しないように配慮しながら,未決拘禁の目的を果たすという,困難な仕事である。重要な問題は,拘禁そのもの,裁判あるいは将来に対する不安,自己の犯罪または容疑についての感情の動揺などが未決拘禁者に与えている影響を見きわめ,被拘禁者の当面する生活に対し,科学的に適応性を与えるための配慮に基づく,未決拘禁者にふさわしい処遇を図ることであろう。

(二) 死刑確定者

(1) 収容状況

 昭和四〇年以降の死刑確定者の収容状況は,II-76表のとおりで,昭和四四年末の収容人員は,七一人である。

II-76表 死刑確定者の収容人員(昭和40〜44年)

 死刑確定者に対しては,死刑の判決確定があってから,原則的には六か月以内に刑の執行をすべきものとされているが,実際には,上訴権の回復,再審の請求,非常上告または恩赦の出願や申出がなされ,その手続が終了するまでの期間および共同被告人であった者に対する判決が確定するまでの期間は,その期間に算入されないことになっているなどの理由から,相当長い期間,拘禁されている者がある。

(2) 処遇の概要

 死刑の判決が確定した者は,死刑の執行が行なわれるまで,拘置所または刑務所の拘置場に拘禁されて,特別の規定に基づく処遇を除いては,未決拘禁者に準じて処遇される。それは,死刑という極刑に直面する者に対する思いやりから,受刑者の場合よりもゆるやかな未決拘禁者の処遇規定が準用されているものである。
 死刑確定者の拘禁の目標は,死刑の執行に至るまでの身柄を確保することである。そのためには,死刑に直面する人間の苦悩と恐怖とを,できるかぎり,取り除き,本人がしょく罪の観念に徹し,安心立命の境地に立って,死刑の執行に臨むように,また,社会に対しては,本人の拘禁についていささかの不安も与えることがないように,あらゆる努力を尽くすことが要請されている。
 死刑確定者を拘禁している施設においては,専任の職員を配置して,個別的処遇の徹底を図っているほか,篤志面接委員制度,民間宗教家による宗教教誨師制度の活用に努めている。短歌や俳句などの文芸や美術等を通じての情操教育や宗教教誨は,これらにあたる篤志面接委員や宗教家の熱心な指導によって,死刑確定者に安心立命を得させるのに,きわめて大きな効果をあげている。