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1 刑務所における収容状況 (一) 概況 刑務所は,自由刑(懲役,禁錮および拘留)の執行を主要な任務とする行刑施設である。その目的は,単に,受刑者の自由を拘束するというだけでなく,その者を改善し,正常な社会生活への復帰(社会再適応)を可能にすることによって,再犯を防止することにある。このような意味で,刑務所は,少年院などとともに矯正施設と称される。
刑務所は,法務省設置法第一三条の三により置かれる監獄であるが,監獄には,ほかに,主として未決拘禁者を収容する拘置所がある。 昭和四五年六月一日現在,刑務所は五七施設(このうちには,専門的治療を施す施設として,医療刑務所二が含まれている。),少年刑務所は九施設で,ほかに,刑務支所一〇施設(医療刑務支所二を含む。)がある。拘置所は,東京,大阪などの大都市に七施設があり,ほかに拘置支所一〇四施設がある。 これらの施設の,昭和四四年における一日平均収容人員は,五二,七三七人(うち女子は,一,一九五人で,全体の二・二%にあたる。)で,昭和四三年の五六,二五七人に比べて,三,五二〇人減少している。この全収容人員の八四%にあたる四四,四三八人は受刑者で,これも前年の四八,〇九四人に比べて,三,六五六人減少している。 昭和四四年における,刑務所および拘置所の各種収容者の一日平均収容人員は,II-36表に示すとおりである。昭和四〇年以降においては,昭和四一年にやや増加を示したが,その後は減少している。 II-36表 刑務所・拘置所一日平均収容人員(昭和40〜44年) 刑務所および拘置所における,昭和四四年の入出所総人員,すなわち,取り扱った延人員は,二四二,〇二八人で,その内訳は,II-37表に示すとおりである。直入(刑務所,拘置所以外からの新たな入所をいう。)は,七四,七五五人で,前年より二,九二七人減少している。また,復所による入所は,五,一八六人である。釈放は七六,五三六人,その他の出所が,七,一一一人である。したがって,昭和四四年において,刑務所および拘置所に,新たに,七九,九四一人が入所しているのに対して,八三,六四七人がそこから出所している。なお,施設間の移送は,三九,二二〇人である。II-37表 刑務所・拘置所における入出所総人員(昭和40〜44年) 次に,受刑者の入出所の状況についてみると,II-38表に示すとおりである。昭和四四年における入所人員は,二八,三四一人であり,その大部分である二六,八七一人は,この一年間に,新たに刑が確定して入所した者で,仮釈放の取消しなどによる復所者は,一,四七〇人である。前年に比べると,新入所で,二,五三一人,復所で四四人減少している。出所人員は,三二,一八三人であり,その内訳は,満期釈放一一,九一五人,仮釈放一九,一七三人,その他,刑執行停止などによる出所人員一,〇九五人である。出所人員中,釈放された人員を前年と比べると,満期釈放で一,八〇八人,仮釈放で三五〇人,合計二,一五八人の減少をみている。なお,仮釈放者の割合は,六一・七%で,前年に引き続き増加している。II-38表 受刑者の入出所事由別人員(昭和40〜44年) (二) 新受刑者 裁判の確定により,一年間に,新たに入所した受刑者を新受刑者(この中には死刑の執行を受けた者が含まれている。)という。
(1) 新受刑者の数 昭和四四年の新受刑者数は二六,八七一人である。戦後,昭和二三年に約七万人と最高の数字を記録した新受刑者数は,その後,起伏はありながらも減少傾向を示し,昭和四四年は,前年より二,五三一人減少して,前年に引き続き戦後最低の記録を更新している(II-39表,II-3図参照)。
II-39表 新受刑者の年齢層別・性別人員の比率(昭和40〜44年) II-3図 新受刑者人員累年比較(昭和20〜44年) (2) 新受刑者の性別 昭和四四年における新受刑者のうち,女子は,六四八人で,総数に対する比率は二・四%であり,前年に比べて,実数において一二八人,比率において〇・二%減少している(II-39表参照)。
(3) 新受刑者の年齢 昭和四四年の新受刑者の年齢層別構成比をみると,II-39表のとおりで,二〇〜二九歳の者が,総数の約半数(四九・八%)を占めて最も多く,三〇〜三九歳の者が,これに次いで三分の一弱(三一・四%)となっており,また男女別にみると,女子は,男子より年長の者の比率が高く,四〇歳以上の者で約三分の一(三八・三%)を占めており,以上の比率には,例年大きな変化はみられない。ただ,昭和四四年においては,総数において,前年に比し,二〇歳未満の者の占める割合がわずかに減少しているのに対し,二〇〜二九歳の者と四〇〜四九歳の者の割合が増加している。
(4) 新受刑者の国籍 新受刑者を国籍別にみるとII-40表のとおり,外国人では朝鮮人(三・五%)が最も多く,昭和四四年においてはその実数は千人を割り,九四六人で,新受刑者中,外国人の占める比率は,昭和四〇年(五・〇%)以降,逐年漸減している。
II-40表 新受刑者の国籍別人員と比率(昭和42〜44年) (5) 新受刑者の刑名と刑期 昭和四四年における新受刑者を刑名別にみると,II-41表に示すとおりで,懲役は九〇・六%(二四,三五七人)と大半を占めており,禁錮が九・〇%(二,四二三人),拘留が〇・三%(七三人),死刑が〇・一%(一八人)となっている。最近における交通事犯による業務上過失致死傷の激増を反映して,禁錮の割合および実人員の増加が目だっている。
II-41表 新受刑者の刑名別人員と比率(昭和42〜44年) これら新受刑者の刑期は,II-42表のとおりで,懲役刑については,刑期一年以下の者が四八・〇%と,半数近くであり,無期は,五〇人で,〇・二%にあたる。禁錮刑については,六月をこえ一年以下の者が四六・八%,六月以下が四五・二%であり,大部分が一年以下の刑期である。最近,刑期一年以下の者の占める割合が,懲役,禁錮ともに増加の傾向にある。II-42表 新受刑者の刑期別人員の比率(昭和42〜44年) (6) 新受刑者の罪名 新受刑者の罪名をみると,II-43表に示すとおりで,昭和四四年においては,その九五・四%が刑法犯(準刑法犯を含む。)であり,特別法犯は四・六%である。刑法犯で最も多いものは,窃盗の三九・八%であり,次いで業務上過失致死傷の一三・〇%,傷害・暴行の八・九%,詐欺の七・五%,強姦の五・二%の順となっている。昭和四四年では業務上過失致死傷の増加が著しく,前年に比し,構成割合において四・〇%(実数において八四五人)の増加を示しているのに対し,窃盗,傷害・暴行,詐欺,恐喝などがいずれも減少している。特別法犯では,道路交通法違反が最も多く一・四%で,売春防止法違反の一・〇%がこれに次いでいる。
II-43表 新受刑者の罪名別人員の比率(昭和42〜44年) 男女別に,新受刑者の罪名をみたのが,II-44表である。女子についてみると,最も多いのは窃盗の四八・三%であるが,売春防止法違反の二五・六%がこれに次ぎ,以下,詐欺八・五%,殺人七・四%の順となっている。II-44表 新受刑者男女別・罪名別人員と比率(昭和44年) (7) 新受刑者の累犯と非累犯の別 新受刑者のうち,有期懲役受刑者について,刑法上の累犯者とそうでない者とに分けて,その比率をみると,II-45表に示すとおりで,昭和四四年においては,その五二・二%が累犯である。昭和三八年において累犯の割合は,五六・五%で,その後低下の傾向を示し,昭和四三年には五一・三%となったが,昭和四四年は,その割合が増加している。なお,女子のみについて累犯の割合をみると,昭和四二年が五〇・一%,昭和四三年が五三・一%,昭和四四年が五三・八%と上昇している。
II-45表 新受刑者の犯数別人員の比率(昭和42〜44年) (8) 新受刑者の入所度数 新受刑者を入所度数別にみると,II-46表に示すとおりで,昭和四四年においては,入所初度の者は新受刑者の四七・五%を占めており,男女別にみると男子が四七・五%,女子が四四・三%となっている。入所初度の者の占める比率は,わずかながら逐年増加の傾向を示している。
II-46表 新受刑者の入所度数別人員の比率(昭和42〜44年) 新受刑者を初入者と再入者(入所二度以上の者)とに分けて,その罪名を比較すると,II-47表のとおりで,刑法犯で初大者に多いものは,窃盗の二六・五%,業務上過失致死傷の二五・二%であり,再入者では窃盗の五一・八%が最も多く,詐欺の九・六%がこれに次いでいる。初人者の比率が再入者のそれよりはるかに高いものは,業務上過失致死傷であり,強姦,殺人,強盗,放火も初入者に多い。これに対し,再入者の比率が初人者のそれを上回るものは,窃盗,詐欺,恐喝,傷害・暴行,住居侵入,暴力行為等処罰に関する法律違反などである。特別法犯では初入者に多いものは道路交通法違反であり,再大者に多いものは売春防止法違反である。II-47表 新受刑者中初入者と再入者の罪名比較(昭和44年) 再入受刑者について,前刑出所後,本犯までの期間(再入期間という。)を調べてみると,II-48表のとおりである。昭和四四年においては,再入受刑者の三一・八%が前刑出所後六月未満で,また五一・一%が一年未満で再入しており,二年未満では,七〇・五%が再入している。この再入率には例年大きな変化はみられないが,最近三年間では,六月未満の再入者が減少をみせている(II-49表参照)。II-48表 再入受刑者の前刑刑名別・再入期間別人員と比率(昭和44年) II-49表 新受刑者中再入受刑者の再犯期間別構成比の累積(昭和42〜44年) (9) 新受刑者の刑事処分歴および保護処分歴 新受刑者のうち刑事処分歴のある者は,II-50表のとおり,昭和四四年においては六七・二%であり,実刑がその大部分(総数の五二・五%)を占め,次いで単純執行猶予(総数の八・九%),保護観察付執行猶予(総数の五・八%)となっている。最近三年間の推移をみると,刑事処分歴のある者の割合が減少している。また,新受刑者のうち保護処分歴をもつ者は,II-51表の示すとおりで,昭和四四年においては,総数の二五・八%を占め,その大部分(総数の二〇・七%)が少年院送致歴をもつ者である。最近三年間では,保護処分歴のある者の割合がわずかながら増加している。
II-50表 新受刑者刑事処分歴別人員の比率(昭和42〜44年) II-51表 新受刑者の保護処分歴別人員の比率(昭和42〜44年) 次に,新受刑者のうち,初めて入所した者,一二,七五一人(総数の四七・五%)について,保護処分歴および執行猶予歴をみると,II-52表のとおりである。昭和四四年においては保護処分歴のある者は二一・二%である。うち,少年院送致(総数の一五・九%)が最も多い。また執行猶予歴についてみると,執行猶予歴のある者は,三〇・九%であり,うち,単純執行猶予(総数の一八・七%),保護観察付執行猶予(総数の一二・二%)の順となっている。最近三年間の推移をみると,保護処分歴,執行猶予歴のある者の割合がいずれも減少している。II-52表 初入受刑者の保護処分歴・執行猶予歴別人員と比率(昭和42〜44年) (10) 新受刑者の教育程度 新受刑者の教育程度を,学歴についてみるとII-53表のとおりである。昭和四四年の新受刑者中,中学卒業以上の者の占める比率は,八二・八%で,この比率は,逐年上昇している。不就学は二二一人(〇・八%)で,低くなっている。大学卒業は三八〇人(一・四%),同中退・在学は三三六人(一・三%)である。
II-53表 新受刑者の犯時学歴別人員の比率(昭和42〜44年) (11) 新受刑者の入所前職業 新受刑者の入所前(犯行時)職業をみると,II-54表に示すとおりで,昭和四四年においては,有職者は,新受刑者総数の六三・六%(男子の六四・五%,女子の二八・二%)である。例年,新受刑者中,約六割の者が有職者であり,その比率は漸増傾向にあったが,昭和四四年においては,前年に比し,総数において有職者の割合が,わずかに減少している。これを男女別にみると,男子は一間年に比し約一%減少し,女子は逆に一%増加している。
II-54表 新受刑者の犯時有職者職業別男女別人員の比率(昭和42〜44年) 有職者について,その職業の内訳を,男女別にみると,男子において最も多いものは,技能工・生産工程従事者三四・二%で,次いで,単純労働者一九・六%,運輸・通信従事者一三・六%,販売従事者一三・一%,サービス従事者七・七%となっている。女子においては,サービス従事者の四九・七%が最も多く,次いで販売従事者一五・三%,技能工・生産工程従事者一二・〇%,単純労働者七・一%,事務従事者六・六%の順となっている。この比率の推移をみると,男子において,単純労働者が減少し,技能工・生産工程従事者および運輸・通信従事者が増加の傾向を見せ,女子では,サービス従事者が減少しているが,職種の構成比全般としてはここ数年ほとんど同じである。(12) 新受刑者の人格特性 新受刑者の知能程度を,知能指数(入所時調査による。)でみると,II-55表に示すとおりである。知能の発達遅滞,低下,その他の障害を予想させる,知能指数七九以下を示しているものが,男子で三六・四%(前年三六・七%),女子で五八・一%(前年五六・五%)を占めている。また,精神診断面からは,II-56表にみられるとおりで,正常者は,男子で三六・六%(前年三六・一%),女子で四〇・四%(前年四一・五%)にすぎない。また,精神薄弱その他精神病質など特殊処遇を必要とする精神障害者は,男子一一・〇%(前年一〇・四%),女子一五・三%(前年一三・七%)となっている。
II-55表 新受刑者の知能指数段階別人員と比率(昭和44年) II-56表 新受刑者の精神診断別人員と比率(昭和44年) |