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 昭和45年版 犯罪白書 第二編/第一章/二/5 

5 裁判の執行

 裁判の執行は,原則として,その裁判をなした裁判所に対応する検察庁の検察官が,これを指揮することとされているが,以下,主刑の執行について,簡単に触れることとしたい。

(一) 死刑の執行

 死刑の言い渡しを受けた者は,その執行に至るまで,監獄に拘置され,原則として,判決確定の日から六か月以内に,法務大臣の命令によって執行されることになっている。しかし,上訴権回復請求,再審請求,非常上告または恩赦の出願もしくは申出がなされ,その手続が終了するまでの期間,および共同被告人であった者に対する判決が確定するまでの期間は,これをこの六か月の期間に算入されないとされており,さらに,死刑囚が心神喪失または妊娠中であるときは,刑の執行は停止される。わが国における死刑は,ごく限られた罪種について,慎重審理のうえ,言い渡されることはもちろんであるが,死刑の判決が確定したのちも,再審請求や,恩赦の出願など再々行なっている者がある等の事情により,その執行に慎重を期しているので,確定から執行までの期間が若干長期化しているのが実情である。
 昭和四〇年から四四年までの五年間に死刑を執行された人員は,四九人であるが,これを罪名別にみると,強盗殺人が四〇人,殺人が九人となっており,殺人のうちの八人は,それ以外の犯罪,たとえば強姦致死,強盗,死体遺棄,同損壊,爆発物取締罰則違反などの犯罪をも犯したものであり,また,殺人の被害者数が二人以上であるものは四人となっている(矯正統計年報,同年報資料による。)。

(二) 自由刑の執行

 懲役は,監獄に拘置して定役に服させ,禁錮は,監獄に拘置し,拘留は,拘留場に拘置して執行する。自由刑の執行を受けている者が,心神喪失の状態にあるときは,その状態が回復するまで,刑の執行を停止することになっており,刑の執行によって,著しく健康を害するなどの事由があるときは,執行を停止することができることになっている。
 昭和四〇年から四四年までの五年間における自由刑の執行指揮の状況をみると,II-33表のとおりである。懲役刑の執行指揮人員は,昭和四一年をピークとして漸減しているが,これに対して,禁錮刑は,年を逐って増加している。これは,自動車事故による業務上過失致死傷事件の増加に伴う禁錮刑の実刑の増加によるものである。

II-33表 自由刑の執行指揮人員(昭和40〜44年)

(三) 財産刑の執行

 財産刑には,罰金と科料とがあり,罰金は千円以上,科料は五円以上千円未満と定められている。最近三年間の罰金および科料の調定件数と調定金額(本来,調定とは,歳入徴収官が徴収すべき金額を調査決定することをいうのであるが,検察庁の事務の上では,徴収金原票を作成し,これに登載された徴収すべき金額を,検察官が確認して執行指揮印を押印するなどの手続をとることを,調定と呼んでおり,事件の新受に相当するものである。)をみたのが,II-34表[1][2]である。同表によると,昭和四四年度における罰金の調定金額は二一八億余円,科料は三二〇万余円であるが,昭和四三年度以降,罰金,科料とも減少している。

II-34表 調定件数および調定金額(昭和42〜44年度)

 次に,昭和四四年度における罰金および科料の徴収状況についてみると,II-35表のとおりである。これによると,現金等により収納されたものと労役場留置処分とを合わせた徴収率は,件数において,罰金が九五・七%,科料が九五・八%となっている。

II-35表 罰金および科料の徴収状況(昭和44年度)