前の項目 次の項目 目次 図表目次 年版選択 | |
|
4 鑑別の状況 (一) 鑑別の対象 最近五年間における鑑別受付状況をみると,II-185表のとおりで,昭和四三年における受付総数は,八六,五〇七人で,前年より約七千人の増加となっている。このうち,四二・四%(三六,六八五人)が家庭裁判所の請求に基づいて実施する鑑別(家裁関係)であり,五三・八%(四六,五四四人)が一般の家庭,学校,その他の団体からの依頼による鑑別(一般鑑別)であり,三・八%(三,二七八人)が法務省関係機関の依頼による鑑別となっている。
II-185表 少年鑑別所の受付状況(昭和34,39〜43年) 受付人員の総数は,年間でかなり変動がみられるが,昭和四三年は,一〇年前の昭和三四年に比べ,約一・七倍の増加となっている。家裁関係は,前年に引続いて減少しているのに対し,一般鑑別が増加し,昭和三四年に比べて四・一倍に達し,家裁関係をしのぐにいたった。これは,それぞれの地域における鑑別センターとしての少年鑑別所の役割が,広く一般に認識されてきた結果と思われる。また法務省関係機関の鑑別は,一〇年前に比べ,約五・三倍の増加となっているものの,前年より千余人の減少となっている。少年の資質鑑別は,知能・性格・態度等の人格面と,家庭・学校・地域社会等の環境面,ならびに,それらの相互の関係を明らかにし,社会に適応できるように改善させるための,適切な矯正手段をみいだそうとするものである。そのためには,医学,精神医学,心理学,教育学,社会学など,幅広い専門知識と技術をとりいれることにより,科学的,客観的に,診断に役にたつ資料を総合的に集め,それらの結果を基礎として,少年の人格の全体像に深く迫るとともに,反社会的行動のよってきた成因との関連および適切な矯正手段の発見に努めている。 (二) 収容鑑別 (1) 概説 家庭裁判所関係鑑別対象者の収容の有無をみると,II-186表に示すとおりで,昭和四三年中における鑑別対象者三六,六八五人のうち,三〇,二一三人が少年の身柄を少年鑑別所に収容して行なう収容鑑別であり,在宅鑑別(在宅審理中の者について行なう鑑別)は六,四四一人である。収容鑑別の対象者数は,昭和四一年を最高として,かなり減少しているのに対し,在宅鑑別は,逐年上昇している。収容された少年に対しては,施設の規模によって若干の相違はあるが,II-11図に例示したように,入所直後に鑑別課長,観護課長などによる初回面接が行なわれ,その結果,非行の内容,非行歴,精神障害の疑などの資料にもとづいて,鑑別コースの指定がなされている。鑑別コースにのせられた収容少年に対しては,鑑別日程に従って,心理テスト,面接,行動観察,生活歴調査などが,それぞれ担当の職員によって実施され,特殊な少年に対しては,さらに脳波測定などが行なわれている。このような方法で得られた資料にもとづいて判定が行なわれ,鑑別結果通知書が作成される。
II-186表 収容・在宅・その他別にみた家庭裁判所からの鑑別請求の受付状況(昭和39〜43年) II-11図 少年鑑別所における鑑別コース 以下,資質鑑別のための諸方法について略述する。(2) テスト 少年の鑑別に用いられる各種の技術のうち,心理テストを主とする諸テストは,問題点を客観的にとらえる点で,重要な役割を占めている。
心理テストとして最も多く用いられているのは,知能テストと性格テストである。知能テストは,集団式知能テストと個別式知能テストに区別され,集団式知能テストには,言語を使用するA式と非言語的な図形や記号などを使用するB式,さらにその両者を混合したものがあり,多人数のおうざっぱな知能を,短時間で測定するのを主たる目的として使用され,個別式知能テストは,これに対して,言語性や動作性の多くの問題を組み合わせ,知能を精密に測定するために使用されている。性格テストには,質問事項を印刷した質問紙を与え,被検者の内省報告を通じて,回答を得る質問紙法,未分化な図形や意味のはっきりしない絵画を見せ,あるいは,一定の刺激語を与えて,その解釈の仕方,ないしは,反応の仕方によって,被検者の性格や心の内面をうかがおうとする各種の投影法,言語的報告を求めないで,主として手先の操作による反応から性格を診断しようとする作業検査などが,一般に多く使用されている。II-187表は,全国の少年鑑別所において,主として使用されているテストを示したものである。 II-187表 鑑別所においておもに使用している検査 少年鑑別所では,II-11図とII-187表に示すように,まず,第一次テストとして,収容少年のおうざっぱな人格像をは握するために,新制田中B式知能検査,法務省式人格目録,同文章完成法検査等の集団テストを実施し,その後,精密検査を必要とするケースについては,第二次テストとして,必要ある限りの精密な個別テストが追加して行なわれる。テストには,以上のほか,必要に応じて,職業興味検査,職業適性検査,学力検査なども行なわれ,てんかんや脳障害を測定するための脳波記録装置も,約三分の一の施設に備え付けられている。 (3) 面接 面接は,心理テストとならんで重視される。鑑別のための面接は,いうまでもなく拘禁という特殊な場面での面接であるため,とくに綿密な配慮が必要とされている。
面接の順序としては,通例II-11図に示したように,鑑別コースへの振り分けのための入所時面接にはじまり,集団テストなどによる資料が,ある程度収集された後に,二回目の主要な面接が行なわれ,さらに,対象者の問題に応じて,その後,必要な限りの面接が反復される。 (4) 行動観察 鑑別の手段として,テストおよび面接のほかに,これを補うものとして,行動観察が欠くことのできないものである。行動観察によれば,対象者を,より日常的な場面において,できるだけあるがままの姿を,直接的にとらえることが可能になる。
鑑別の資料とするための行動観察には,収容期間中における,収容者の生活一般をつうじての行動特性と,その変化とをとらえなければならないが,少年鑑別所では,前述のように,日課の中に数多くの行事場面をとりいれて,観察の機会を増すなど,種々の工夫が試みられている。 (5) 生活歴 鑑別の有力な根拠資料は,生育経過の素材としての生活歴に依存するところが大きい。したがって,鑑別にさいしては,その少年の生育歴・教育歴・非行歴・保護歴はもちろん,保護者や近親者の状況,学校や職場の状況,さらには,その遺伝負因などの詳細を,調査資料として収集することが,まず必要となる。
現在の少年鑑別所で入手できる調査資料としては,家庭裁判所の調査官によるものがあるが,これのみでは少年の生活歴を的確には握できない場合もあるので,必要があるときは,少年鑑別所自ら警察署,学校などにも照会し,また,少年院収容などの前歴のあるものについては,少年院からも資料を送付させている。 (6) 鑑別結果 鑑別の結果は,以上のような方法によって得られた諸資料を総合したうえ,非行と関連する問題点とその分析,処遇上の指針や社会的予後の問題,医療措置の必要の有無などの当面必要な処置にも触れ,本人にとって最も適切な保護指針などの勧告事項を盛り込んだ「鑑別結果通知書」として,家庭裁判所に送付される。
この鑑別結果通知書の作成にあたっては,鑑別担当者の主観による判定のゆがみなどを避けるため,ケースごとに関係職員が集まって,判定会議が開かれたうえで,協議決定されている。 II-188表は,鑑別を終了した収容少年について,判定別の人員数を,年次別に示したものであるが,表の中の各判定名の内容は,おおむね次のようなものである。 [1] 「保護不要」=少年法所定の保護措置を必要としないもの。 [2] 「在宅保護」=在宅のまま補導すればよいと思われたもの。 [3] 「収容保護」=少年院,教護院,養護施設に収容を適当とするもの。 [4] 「保護不適」=社会的危険性のある精神障害者で,精神衛生法による措置入院を適当とするものや,保護処分にすることが不適当と認められるものなど。 II-188表 鑑別判定別人員(昭和39〜43年) この表によると,在宅保護が六〇%近くで最も多く,しかも,その割合が年々増加の傾向を示しているのに対し,収容保護は,二七%で,前年より七%の減少となっており,とくに初等少年院の逐年減少が目だっている。(三) 交通事犯者に対する鑑別 少年鑑別所では,交通事犯少年(道路交通法に違反した少年,業務上過失致死傷および重過失致死傷事件をおこした少年)に対する資質鑑別について,従来から家庭裁判所の請求による在宅鑑別を行なってきているが,この数年来,悪質な交通事犯少年の増加にともなって,収容鑑別による場合も多くなった。
II-189表は,最近五年間に鑑別を行なった交通事犯少年の人員の推移を示したものである。すなわち,昭和四三年には,収容鑑別一,六九〇人,在宅鑑別五,〇九八人の合計六,七八八人で,三九年と比較して,収容鑑別で約一・四倍,在宅鑑別で約一・七倍の増加をみせている。 II-189表 交通事犯少年鑑別人員(昭和39〜43年) このような交通事犯少年の鑑別の増加にこたえるため,全国の少年鑑別所に,ポートグレヤー,ポートクリニック,速度見越反応検査器等の適性検査機器が整備されつつある。少年鑑別所においては,これらの機器を駆使して,事犯の態様に応じ,交通事犯少年の鑑別を積極的に行ない,より妥当な処遇指針をたてるための努力がかさねられている。しかしながら,規範意識の希薄な対象者も少なくないので,生理的心理的立場から,運転適性をみるだけでは,その危険な問題性を解明することにはならず,性格や態度といった,ハンドルをにぎる以前の基本的な構えにまで,視野を拡げた鑑別が要請されるようになってきている。(四) 在宅鑑別 家庭裁判所からの請求による鑑別で,少年を収容せずに行なう場合には,これを「在宅鑑別」と称している。「入院診断コース」と「通院診断コース」とに分かれる一般病院の人間ドック検診方式を例にとれば,在宅鑑別は,後者の「通院診断コース」に相当するといえよう。したがって,収容鑑別の場合に比べ,時間的な制約があり,長期にわたる行動観察記録を欠き,必要とする資料も整わないなど,総合判定を行なううえでの難点は多い。II-190表は,家庭裁判所からの請求による在宅鑑別について,過去三年間の終了人員の推移をみたものであるが,一般非行のケースがおおむね横ばいであるのに比べて,道交関係のケースの著しい増加が注目される。この伸びは,運転適性検査を中心にした簡易鑑別方式の試行によって,道交事犯少年の集団鑑別が可能になりつつあるためである。これに対して,一般非行に対する在宅鑑別の伸びなやみは,「通院診断コース」を充実して,非行深度の浅い少年たちの鑑別に,一層関与できる体制を確立することによって可能となろう。
II-190表 家庭裁判所関係在宅鑑別終了人員(昭和41〜43年) (五) 依頼鑑別 刑務所,少年院,婦人補導院などの矯正施設では,その収容者について,とくに処遇の困難な者に対する鑑別や施設における処遇の効果を測定するための再鑑別などを,少年鑑別所に依頼する場合がある。同じく,検察庁からは,家庭裁判所に対する送致意見や起訴・不起訴を決定するための参考資料としての鑑別依頼があり,また,地方更生保護委員会・保護観察所からは,仮釈放審理のための資料としてや資質面での障害が疑われる保護観察対象者などに対する鑑別依頼がある。
この種の依頼鑑別の実数は,II-191表に示すように,やや減少の傾向がうかがえる。しかし,そのなかでは,矯正施設からの依頼が最も多く,次いで検察庁,保護観察所の順である。 II-191表 法務省関係鑑別受付人員(昭和39〜43年) (六) 一般鑑別 少年鑑別所における一般鑑別規則は,昭和二五年に制定され,一般の家庭や学校,その他の団体からの依頼に応じて,少年の素質・経歴・環境および人格,ならびに,それらの相互関係を明らかにし,少年の教育・職業指導など,少年の育成補導に関する方針の決定に資することを目的として,鑑別を行なう道が開かれている。
その実数をみると,前掲II-185表に示すように,昭和四三年における一般鑑別受付人員は,四万六千人をこえ,昭和三四年の約四倍余に増加し,この制度開設以来の最高に達している。これは,各施設における設備や運営面などで,一般鑑別に対処しうる条件が,しだいに整ってきたためでもあろうが,また,社会一般の認識が高まってきた結果によると考えられる。 |