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 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第四章/二/3 

3 処遇の概要

(一) 処遇のねらい

 少年鑑別所の処遇は,収容少年を,明るく静かな環境において,少年が安んじて審判を受けられるようにし,そのありのままの姿をとらえて,資質の鑑別を行なうように配慮することの肝要なことはいうまでもない。しかし,収容少年は,審判を前にした拘禁状況にあるため,不安な心理状態におちいっているのであり,このような少年を正しく理解し,鑑別するためには,少年に,少年鑑別所を鑑別診断の場として理解させる必要があり,そのためには,拘禁に伴なう諸条件を,できるだけ緩和し,不必要な不安感,焦燥感,自己防衛的態度を除去して,心情の安定をはかってやるように心がけなければならない。
 以上のような必要から,最近では,多くの施設で,鑑別診断のための好ましい場を作るために,観護業務にオリエンテーション,ガイダンス,カウンセリングといった処遇技術をとりいれ,科学技術に支えられた処遇に,主眼がおかれるようになってきている。
 後述するように,少年鑑別所の「標準運営」の試行を指定された施設では,標準化の目標の一つとして,鑑別と観護の有機的一体化を取りあげ,その方向での処遇のありかたに,種々の工夫検討が加えられている。
 以上のようなねらいに沿った処遇を行なうためには,まず,送致されてくる非行少年について,少年の性格,経歴,入所度数,年齢,共犯関係,審判の進行状況等を斟酌した合理的な分類処遇が必要であり,各施設とも,その実情に応じた分類処遇を行なっている。

(二) オリエンテーション

 少年鑑別所におけるオリエンテーションのねらいは,前述のように,不安定な状態にある収容少年を,鑑別に素直に応じられるような状態にもっていくことを主眼とするが,それには,単に所内生活への順応に必要な項目を伝達するだけではなく,少年の将来の生活に対して,彼らがみずから正しい洞察をもつように方向づけてやることが肝要とされる。オリエンテーションは,入所時,在所中および退所時に,矯正保護の意義,法律的知識,所内生活,情緒の安定,出所後の生活などを主とし,これらに関する正しい情報提供が行なわれ,伝達の方法についても,施設の実情に応じ,口頭,パンフレット,放送,スライドによるなど,種々の工夫がなされ,また,その効果測定などをも試みることによって,次第に改善されてきている。II-183表はその一例である。なお,所内におけるさまざまな処遇場面が,すべてオリエンテーションの働きをするのであり,とくに,収容されている少年間の影響は軽視できないところであるから,これに対しては,十分な配慮をもった処遇計画が,後述する日課との関連においてたてられている。

II-183表 オリエンテーションとしての情報提供目録(例)

(三) 日課

 少年鑑別所における処遇の実態は,収容少年の日課となってあらわれる。日課の編成や運用については,収容少年の立場にたって考え,処遇の理念や技術の歩みとともに,常にその改善に努力がはらわれている。具体的な日課の内容としては,身柄の確保等の保安に関するもの,居室の管理,入浴,給食,保健等の生活指導に関するもの,さらに,運動,レクリエーション,視聴覚指導,読書指導等の教育に関するもの,面会,通信があり,これらは,すべての施設で実施されている基本的な処遇である。
 このような基本的な処遇に加えて,収容少年の拘禁感の除去や心情の安定を目的とした治療処遇が,各所で工夫されている。II-184表はその一例である。音楽指導,読書指導,日誌作文,自主放送などは,古くから行なわれているが,比較的新しいものとして,貼り絵,粘土工作,版画等の治療的作業や,心理劇,集団討議,カウンセリングなどがある。

II-184表 少年鑑別所週間日課表(例)

(四) 給養

 収容者には,衣類,寝具,日用品,食糧などが給貸与され,その量ならびに質については,合理的な管理がなされるよう努力されている。
 とくに,給食については,健康管理上最も重視され,その改善に努力が向けられている。少年鑑別所における主食は,米・麦,または,その他の適当な代替品で,その熱量は,二,三〇〇カロリーと定められており,副食も,一日六〇〇カロリー以上を確保することが要求されているので,良質の蛋白質,各種ビタミンおよびミネラル等の保全素の確保に努力がはらわれている。

(五) 医療

 少年鑑別所における医療衛生は,収容少年の身体検査,健康診断とともに,傷病の予防・治療などが主体となっている。昭和四三年末現在における全収容人員の一一・四%が傷病を有しており,神経系および呼吸器系の疾患が多い。以上のような身体検査や健康診断の結果は,鑑別のための資料となり,後述の「鑑別結果通知書」にも,その要旨がもり込まれる。