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 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第三章/五/1 

五 恩赦

1 概説

 恩赦は,刑事手続によることなく,有罪の確定裁判(大赦の場合には,例外として,判決が確定しなくとも行なわれうる。)のもつ法律上の効果を失わせ,あるいは変更する行政権の作用である。
 恩赦は,その効力の内容により,大赦,特赦,減刑,刑の執行の免除,復権の五種類に分かれる。大赦は,有罪の言渡しを受けた者については,その言渡しの効力を失わせ,まだ有罪の言渡しを受けていない者については,公訴権を消滅させる。したがって,ある罪が大赦になると,服役中の者が即時釈放されるばかりでなく,警察や検察庁で現に捜査中の者までが,その捜査を打ち切られるので,大赦は,恩赦のうち,最も強い効果を持つ。特赦は,有罪の裁判が確定した特定の個人に,その言渡しの効力を失わせる。減刑は,刑の言渡しの効力を変更し(たとえば懲役四年を,懲役三年に減軽するなど),または,その執行の態様を軽くしたり,執行期間を短縮する(なお,執行猶予の期間だけを短縮することはできない)。刑の執行の免除は,言渡刑を変更しないで,刑の執行を免除する。復権は,有罪の言渡しを受けたため,法令の定めるところにより,喪失しまたは停止された資格を回復させる。
 恩赦は,二つの形式で行なわれる。政令で,罪または刑の種類を定めて,一律に行なわれる場合(一般恩赦または政令恩赦といわれる。)と,個々人につき,その犯情,行状,犯罪後の状況などを調査し,とくに恩赦を行なうのが相当かどうかを審査して行なわれる場合(個別恩赦といわれる。)とである。大赦は,政令恩赦の形式で,また,特赦と刑の執行の免除とは,もっぱら個別恩赦の形式で,減刑および復権は,双方の形式で行なわれる。
 恩赦を決定するのは,内閣である。ただ一般恩赦は,右のように政令によって一律に行なわれるのであるが,個別恩赦については,本人からの出願にもとづき,または職権によって検察官,監獄の長,保護観察所長から中央更生保護審査会に上申されたものであって,同審査会が恩赦の理由があると認めて,法務大臣に恩赦の申出をした者に限られ,この申出がないと,内閣は恩赦の決定をすることはできない。
 なお,個別恩赦は,刑事政策的見地から,随時行なわれるものと,国家的慶事などの際に,一定の期限を限って,特別の基準で行なわれるものとに区別される。前者を常時恩赦,後者を特別恩赦という。特別恩赦は,一般恩赦を実施する際に,あわせて行なわれることもあり,また,これと関係なく,独自に行なわれることもある。