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 昭和44年版 犯罪白書 第二編/第二章/二/2 

2 処遇の概要

 婦人補導院における処遇は,在院者が社会生活に適応するために必要な生活指導と職業補導,さらに,更生の妨げとなる心身の障害に対する医療処置を行なうことに,重点がおかれている。六か月の補導期間を前期・後期の二期に分け,生活指導,職業補導,医療処置を適宜組み合わせて,各個人の特性に応じた処遇が行なわれている。

(一) 生活指導

 院内生活のすべてを通じて,婦人としての情操を豊かにし,性道徳の自覚,その他婦人としての徳性を養わせ,社会人として自立させるために必要な指導が行なわれている。映画,テレビなどによる視聴覚教育や講演,音楽,スポーツ,レクリエーションなどによって,徳性と情操の向上が図られている。また,精神的な悩みに対する篤志面接委員の相談や職業相談なども活発に実施されている。

(二) 職業補導

 職業補導としては,家事,園芸,洋裁,和裁,手芸,謄写印刷およびタイプライターが行なわれ,施設の日常用務である炊事,清掃,看護,洗濯および補綴なども行なわせている。
 在院者のほとんどが,正しい職業経験を有していないので,補導の重点は,技能の習得もさることながら,正常な職業生活に馴れさせ,勤労意欲を高めることにおかれている。II-133表は,昭和四三年における出院者の職業補導種目別人員を示したものである。

II-133表 婦人補導院出院者の職業補導(昭和43年)

 職業補導を受けた者に対しては,職業補導賞与金が支給される。昭和四三年の出院者についてみると,出院時の支給額は,一三二人中,一一四人が五,〇〇〇円未満であり,六,〇〇〇円以上の者は三人である。
 なお,職業補導のほかに,在院者のうち,希望する者に対しては,課業終了後の余暇時間に,造花,レース編等の自己労作を実施させている。これらの処遇には,婦人補導院の職員の手のみでなく,民間の篤志面接委員,その他地域社会からの強力な援助の手もさしのべられている。
 職業補導に対する新しい試みとして,東京婦人補導院では,職業補導に家事サービスの訓練をとりいれ,主婦として必要な仕事を,心理的な動きを利用する役割演技法によって学習させ,学習の終了した者には,職種の情報を提供するといった,生活指導と職業補導を一体化した形の指導を行なっており,その成果が期待されている。

(三) 医療

 新入院者については,心身両面の検診を行なっている。II-134表は,最近五年間における入院時の疾患についてみたものである。性病の比率が若干増加し,昭和四三年には,新入院者の四三・一%が性病にかかっている。その他の傷病としては,消化器系および皮膚系の疾患が多いが,これを加えると,七二・四%の者が,なんらかの疾患を有している。更生のためには,まず,この疾患の治療が必要とされるが,収容期間の関係上未治ゆのまま出院せざるをえない者の割合は,性病で約四二%,その他の疾患で約五一%と,かなりの高率になっているのが現状である。

II-134表 婦人補導院新収容者の入院時の傷病(昭和39〜43年)