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 昭和44年版 犯罪白書 第一編/第五章/三 

三 処遇

 昭和四二年一〇月八日に発生した第一次羽田事件以降の,学生による集団暴力事件の被告人一,〇八七人について,第一審判決の有無,判決の内容を,本年五月二〇日現在で調査すると,I-101表のとおりである。これによると,第一審判決のあった者は,二一三人で,総数の一九・六%にあたり,そのほとんど全数に近い二〇五人が有罪,三人が無罪,五人が公訴棄却という内訳となっている。

I-101表 主要事件の第一審裁判結果(昭和44年5月20日現在)

 次に,有罪判決を受けた二〇五人について,その内容をみたのが,I-102表および103表である。最も多いのが,懲役刑に執行猶予が付せられたもので,有罪総数の八五・四%を占め,罰金刑の一〇・七%,懲役刑の実刑二・九%,科料一・〇%の順となっている。懲役刑の刑期についてみると,実刑の六人のうち,四人が八月の刑に処せられ,一年と三月が各一人となっている。執行を猶予された者にあっては,一七五人のうち四四・六%にあたる七八人が,六月をこえ一年以下の刑に処せられており,一年をこえ二年以下の刑に処せられた五一人が,これに次いでいる。罰金の金額では,一万円をこえ三万円以下の者が最も多い。

I-102表 主要事件の科刑状況(昭和44年5月20日現在)

I-103表 主要事件の科刑の内容(昭和44年5月20日現在)

 次に,学生による集団暴力事犯の被疑者に対する家庭裁判所の処理状況をみるうえにおいて,少年の公安事件に対する家庭裁判所の処理状況をみたI-104表が参考となろう。これは,昭和四二年一〇月一日から昭和四四年三月三一日までの間に,全国の家庭裁判所が受理した一,五七五人についての処理状況を集計したものである。この受理人員のうち,年齢的にみれば約七割が一九歳であり,また在学の有無についてみれば約四分の三が大学在学中という構成になっているが,処分結果をみると,終局処理のあった一,一二五人のうち,七一・二%にあたる八〇一人が不開始,二〇・五%が不処分となっている。

I-104表 少年の公安事件に対する家庭裁判所の処理状況(昭和42年10月1日〜昭和44年3月31日)

 ところで,この種事件を犯して家庭裁判所に送致された少年に対して,少年鑑別所に送致する旨の決定がなされることは,これまできわめてまれであったが,本年一月に発生した東大事件の被疑者については,比較的まとまった数の少年が,東京少年鑑別所に収容され,心身の鑑別を受けることとなった。鑑別の対象となった七八人は,その九割近くが大学在学中であり,その七割以上が,家族と離れて,下宿,寮などに居住しているという構成となっているが,そのうち,精神診断の結果が得られた六六人,知能指数の判明した七三人について,昭和四三年中の,全国の少年鑑別所における,家庭裁判所関係の鑑別結果と対比して示したのが,I-105表[1]および[2]である。これによると,一般の非行少年に比べて,精神状況が正常で,知能指数の高い者の割合が圧倒的に高いが,九割近くが大学生という対象者の構成を考えれば,当然の結果であろう。なお,七二人の対象者に対する法務省式人格目録による検査の結果では,その類型は多岐にわたっているが,半数近くが,自己防衛型(自己を守るために,自分の弱点をかくし,自分をよくみせようとする傾向が強い。)もしくは,軽佻型(付和雷同・追従傾向が強く,軽率に行動する傾向がある。)の性格類型に属するとされている。これらは,一つの事件について収容された,きわめて限られた数の少年に対する鑑別結果にすぎないことはもちろんであるが,これまで知られることの少なかった,この種事件の被疑者について,その実態の一端に触れることを得たものとして,注目されるところである。

I-105表 東大事件収容者の人格特性

 おわりに,この種の犯罪を犯して,保護観察に付せられた者について触れることとしたい。先のI-104表にみるとおり,学生による集団暴力事件を犯した少年のうち,保護観察処分となる者はきわめて少なく,本年六月三〇日現在においても,その対象者数は,全国でわずか三五人にすぎないが,同日現在の保護観察成績を示すと,I-106表のとおりである。これによると,「普通」が最も多く五一・四%,「やや良」と「不良」が一七・一%でこれに次ぎ,「良」八・六%,「所在不明」五・七%の順になっている。このようにわずかな事例であること,同表の対象者の大部分が,保護観察経過期間六か月未満であることを考慮すると,その傾向を論ずることは必ずしも適当ではないが,「不良」と「所在不明」の現われる割合が,一般の例に比して,やや多いように思われる。

I-106表 学生集団事件の保護観察成績(昭和44年6月30日現在)