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 昭和35年版 犯罪白書 第四編/第一章/五/4 

4 フランス少年法

 フランスは,少年(一八才未満)の犯罪がきわめて良好な状態にある。これは,フランスの犯罪現象の大きな特色である(IV-26表参照)。

IV-26表 フランス少年重罪・軽罪有罪人員

 この統計で明らかなとおり,少年の犯罪は戦後の混乱期には増加していたが,その後減少に転じ,戦前と比較しても,その実数は同程度であって,人口の増加を考慮に入れれば,減少していることがわかる。罪種別には,殺人,強盗,強姦などの重罪の少ない点に特色があり,とくに,最近は,戦前よりもはるかに少ない。
 フランスの少年裁判制度は,少年裁判所と少年重罪裁判所との二つからできている。少年裁判所は,少年係判事の裁判長と任期三年の学識経験者たる陪席二名とで構成され,軽罪および一六才未満の者の犯した重罪を管轄する。少年重罪裁判所は,裁判長と,二人の陪席判事と九名の陪審員で構成され,一六才から一八才までの者の犯した重罪を管轄する。
 審判の対象者は一八才未満の者であって,その手続は検事の起訴にはじまるが,軽罪については,少年係判事が予審を行ない,その間,社会調査や人格調査を行なって,少年裁判所に送致する(ただし,少年係判事は,訓戒,保護者引渡,保護観察,不処分の命令を一人で行なうことができ,この場合は,少年裁判所に送致しない)。
 重罪の場合は,予審判事が予審で前同様の調査をして検事長に移送し,控訴院公訴部の命令で少年重罪裁判所に送致される(フランスでは,重罪は,控訴院公訴部の命令がなければ,起訴できない)。裁判所の審理には,検事と弁護士とが立ち会い,両親や後見関係者以外の出席は許されない。
 裁判所が審理の結果,有罪と認めた場合には,つぎのように処分する。すなわち,一三才未満の者には
1 保護者,後見人などに引渡し
2 教育および職業補導の施設に収容し
3 医療施設に収容し
4 児童福祉施設に収容し
5 寄宿学校に収容する
などの保護処分。
 また,一三才以上のには
保護処分(前記1,2,3のほか,矯正教育施設収容がある。)
刑事処分(通常の刑を科するが,成人よりも軽減されている。)
などがされる。
 少年犯罪には,右の処分とあわせて保護観察にあたる監視付自由(la liberte sureveillee)の制度が活用され,上記の有罪人員のうち,四分の一前後がその適用をうけ,刑の言渡をうけるのは一〇パーセント前後である。少年院や,これに準ずる国家の監督のもとに少年を収容する私的の施設も完備している。
 このように,フランスの少年裁判制度の特色は,手続のすべてがきわめて刑事的であること,予審の段階で環境調査や,人格調査が行なわれていること,および,西ドイツとおなじく,同一の裁判所が保護処分と刑事処分のつかい分けをしていることなどである。