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 昭和35年版 犯罪白書 第四編/第一章/五/3 

3 西ドイツ少年裁判所法(一九五三年)

 西ドイツでも,最近,青少年犯罪は増加の傾向があり,とくに,青年(一八才以上二一才未満)にそれがいちじるしい。最近における年齢層別の検挙人員の統計は,IV-20表のとおりで,成人の犯罪が減少しているにもかかわらず,青少年犯罪はかなり大幅に増加し,少年(一四才以上一八才未満)もある程度増加している。しかし,わが国とくらべて悪質な犯罪は少なく,経済状態が良好で収入も多いことが影響し,裕福なための犯罪がかえって増加したとされている。裁判所の青少年犯罪に対する処分が一般に厳格なのは後記のとおりである。

IV-20表 西ドイツ重罪・軽罪年齢別検挙人員

 西ドイツの少年裁判所(裁判機関としての少年裁判所)には,つぎの三つがある。すなわち,(1)少年係裁判官たる区裁判所判事,(2)少年参審裁判所(少年係裁判官と男女二名の少年参審員),(3)陪審裁判所の少年裁判部(三人の裁判官と男女二名の少年参審員)の三種である。その管轄は,区裁判所判事は保護処分または一年以下の少年刑相当の事件を,少年参審裁判所は,他の少年裁判所の管轄に属しない事件を,また,陪審裁判所の少年裁判部は陪審裁判所の管轄事件を,それぞれ,管轄している。
 少年の年齢は,犯行時を基準として一四才以上一八才未満であるが,成人のうち一八才以上二一才未満の者も,また,青年(Heranwachsennde)として,右の少年裁判所で審判されるが,その犯罪の種類,環境または動機から少年犯罪としてとりあつかうのを相当とする場合などには,少年刑法が適用される。このように少年刑法が適用されるのは,青年の刑法犯合計のうち,三分の一前後である。少年に対する審判手続は,検事の起訴によって開始されるが,その前手続たる予備手続では,検事が懲罰的処分を必要としないと思料すれば,少年係裁判官に,労働義務の賦課または訓戒処分をするよう勧告し,勧告がいれられれば,起訴をしない。その他,犯情がきわめて軽微なため起訴を猶予される事件があり,起訴猶予事件の合計は,全国少年事件の三〇パーセント前後である。なお,検事は,保護観察または懲戒処分が予想されるものについては,簡易手続の申請をし,これが認められた場合には,以後の手続に検事が関与する必要がないことになっている。右以外の場合には,検事は公判に立ち会うのである。
 公判は非公開であるが,被害者,警察官,保護観察官などは出席を許される。弁護人を付することはできるが,実際上は,ほとんど選任されない模様である。この審理と併行して,自治体の少年局が,少年保護団体の協力を得て,被告人の環境調査や人格調査を行ない,その結果を裁判所に報告することになっている。
 裁判所における審理の結果,有罪と認定されると,少年局の調査結果を参考として処分が決定される。その処分の種類はつぎのとおりである。
1 教育処分
指 示
保護監督
教護処分
2 懲戒処分
戒 告
特別義務賦課(被害者弁償など)
少年拘禁(休日拘禁四回,短期拘禁七日,継続拘禁一週〜四週)
3 少年刑
定期刑(六月以上五年以下。重い罪については一〇年以下)
不定期刑(長期四年以下)
 なお,一年以下の少年刑には,保護観察付執行猶予(二年ないし三年)をつけることができるし,また,刑の必要性が確実に判断できないときは,一年から三年のあいだ保護観察付宣告猶予に付し,悪性が判明した場合に刑の言渡をすることができるとされている。
 青年も,右とほぼおなじ手続で審判されるが,すでに述べたように,裁判所は,青年の道徳的,精神的発育が少年とおなじであると考える場合,および,行為の種類,環境,動機からみて,少年非行としてとりあつかうのが相当と考える場合には,少年刑法を適用して,少年と同様に前記の処分に付し,そうでない場合に一般の刑法を適用する。
 かくて,西ドイツ少年裁判所の特色は,とりあつかう事件のすべてが刑事事件で,英米のような純然たる保護事件は含まれないこと,その手続は刑事手続を多少修正したものであること,青年については保護の適格性を具体的に判断して処分を決定すること,同一裁判所が保護処分と刑事処分を使い分けること,独立の裁判所ではなく,いわば司法裁判所のうちの部として存在するものであること,などであろう。
 西ドイツにおける青少年の刑法犯の重軽罪に対する処分(一九五七年)について概観しよう。西ドイツの起訴猶予制度は,主として,違警罪に適用されているが,少年には,軽罪についても,成人よりも広範囲に適用されている。そして,もっとも軽微な事件の起訴猶予については統計がみあたらず,IV-7図以下の統計に含まれていない部分がある。しかし,重罪については起訴猶予制度の適用はなく,起訴猶予は違警罪をも合算した全体の約三〇パーセントといわれているので,後記の統計に計上されないのは比較的少数と考えてよいであろう。その処分の模様をみると,IV-8図のとおり,まず,青年については,起訴猶予またはこれと実質的におなじ性質をもつ「手続の中止」は少なく,罰金がもっとも多く,全体の四一パーセントをしめている(罰金は,特別法犯ではさらに多く,八三パーセントに達する)。全体の二一パーセントをしめている軽懲役については,その半数ちかくが刑の執行を猶予されているが,その裁判の言渡にさいして,裁判所は,保護観察官の指導または監督に服すること,損害の賠償をすることなどの条件をさだめることができる。青年で少年刑法を適用される事件は,全体の約三分の一であるが,その大部分は懲戒処分である。このうち,少年拘禁がもっとも多く,懲戒処分の約三八パーセントをしめる。少年拘禁は,責任の軽重に応じて,長期四週間まで身柄を拘束する。そのうち,勤務などに支障をあたえないように,土曜の夕方から月曜の朝まで,一回ないし四回にわたって拘束するものが約半数をしめる。この少年拘禁には,戒告と特別義務賦課が併科されることが多い。特別義務のなかには,損害賠償や慰藉料の支払いがある。その履行を確保するために,保護観察官が対象者の月給を保管し,これから天引して支払わせるなどの方法もとられている。少年刑については,そのうちの約三分の一が執行を猶予され,保護観察に付されるが,この場合にも,損害があれば,通常損害賠償が命ぜられる。

IV-7図 西ドイツ少年(14才以上18才末満)刑法犯処分別人員の百分率(1957年)

IV-21表 西ドイツ少年(14才以上18才末満)刑法犯処分別人員と率(1957年)

IV-22表 西ドイツ少年保護処分種類別人員(1957年)

IV-23表 西ドイツ少年懲戒処分種類別人員(1957年)

IV-8図 西ドイツ青年(18才以上21才末満)刑法犯処分別人員の百分率(1957年)

IV-24表 西ドイツ青年(18才以上21才末満)刑法犯処分別人員と率(1957年)

IV-25表 西ドイツ青年刑法犯の保護・懲戒処分種類別人員(1957年)

 少年については,懲戒処分がもっとも多く,全体の六四パーセントをしめ,うち約四〇パーセントは少年拘禁である。これについで,起訴猶予が約四分の一をしめているが,このうちには労働義務を賦課されるものも含まれている。少年刑(Jugendstrafe)は全体の八パーセントで,うち実刑をうけるものは,その六二パーセントである。教育処分に付されるものは,約三パーセントで,住居を指定したり,喫煙などの禁止を命じ,指示にしたがわないときは少年拘禁を科することができる。