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 昭和35年版 犯罪白書 第四編/第二章/一/1 

第二章 少年犯罪の対策

一 少年に対する保護処分と刑罰

1 少年警察

 昭和二三年七月に少年法は公布され,翌年一月一日から実施されることになった。しかし,なお,戦後の少年犯罪の激増の現象を憂うるものが,国会にあった。昭和二四年の第五国会では,衆議院で「青少年犯罪防止に関する決議」がされ,また,参議院で「青少年の不良化防止に関する決議」があった。これに応じて,政府は,同年六月一四日「青少年問題対策協議会設置に関する件」を閣議で決定した。青少年の指導保護および矯正に関する総合的施策を樹立し,その適正な実施をはかるという目的をもつものであった。組織的な少年警察は,じつに,この一環として,はじめてわが国にうまれたものといってよい。
 少年警察とは,少年非行の防止のために専門化された警察組織の総称である。それは,警察の一部として,各都道府県警察本部,各警察署に少年のための専門の課や係が設けられているほか,中央機関である警察庁には,保安局防犯課に,青少年非行対策を専門にあつかう少年係がある。昭和三三年五月末現在で,少年係警察官の数は,合計五,一四五人(内訳は専務一,三五二人,本務一,五〇八人,兼務二,四九五人)であるが,このほか,一般の警察官も,少年非行の防止や少年犯罪の捜査にあたっている場合が少なくない。ここでは,それらをあわせて,ひろく少年の非行の防止をはかり,その健全な育成に資するとともに,少年の福祉をはかる目的でされる警察活動(少年警察活動要綱第二条参照)を,少年警察活動としてとらえてみよう。
少年警察活動の対象となる少年には,前にもふれたように,つぎの各種がある。
(一) 非行少年
 非行少年とは,通常,犯罪少年と触法少年と虞犯少年とを総称する用語である。この各種の少年については前述した。
(二) 要保護少年
 非行少年には該当しないが,虐待され,酷使されまたは放任されている少年で,児童福祉法による福祉のための措置などが必要と認められる少年のことである。
(三) 不良行為少年
 不良行為少年とは,非行少年や要保護少年にはあたらないが,飲酒,喫煙,けんかその他自己または他人の徳性を害する行為をしている少年をいうのである。
 右にのべた非行少年,要保護少年および不良行為少年を総称して,ひろく非行少年等(問題少年)などとよんでいるが,それらが,少年警察活動のおもな対象であるということができる。
 右のような対象少年の取扱上,もっとも困難で重要な問題の一つは,「選別」であり,その核心は非行危険性の予測であるといわれる。そこで,警察庁では,多数の「非行少年等」のうちから,たとえば,虞犯少年として家庭裁判所に送るべきものを選びだし,送るべからざるものをふるいおとすために,個々の少年の非行危険性の有無やその度合を予測すべく,非行危険性判定法を案出し,試験的に実施している。
 ところで,警察官は,これらの「非行少年等」(問題少年)を早期に発見し,事案の捜査または調査をし,これを撰り分けて関係機関に送致(送付)もしくは通告し,または,警察かぎりの措置として,少年法による措置をはじめ,家庭,学校,職場などへの必要な連絡,注意,助言等を行なうなどの処置をとっている。その内容は,おおむね,つぎのとおりである。
(一) 犯罪少年
 法定刑が禁錮以上の刑にあたる罪を犯した犯罪少年は,検察官に送致しなければならない。また,法定刑が罰金以下の刑にあたる罪を犯した犯罪少年は,直接に家庭裁判所に送致する。
(二) 触法少年
 触法少年には,捜査その他の刑事手続はとらない。警察官は,触法少年の発見者として,保護者のない触法少年や,保護者に監護させることが不適当な触法少年などを福祉事務所または児童相談所に通告するほか,その少年や少年の保護者や学校教官などに注意助言するなど,少年の非行防止のためにもっとも適切と考えられる方法をとる。なお,触法少年は,緊急に保護する必要があると認められる場合には,児童相談所長の委託を得て,児童福祉法第三三条の規定にもとづく一時保護として,警察署の保護室や,宿直室や休憩室などに収容保護している。
(三) 虞犯少年
(イ) 一四才未満の虞犯少年を発見したときは,児童相談所または福祉事務所に通告する。一四才以上一八才未満の虞犯少年で児童福祉法による措置にゆだねるのが適当であると認められる者についても,同様である。これらの虞犯少年は,前記の触法少年と同様,警察署に収容して一時保護を加えることが認められている。
(ロ) 一八才以上の虞犯少年は,家庭裁判所に送致する。一四才以上一八才未満の虞犯少年で児童福祉法による措置が適当でないと認められる者も,家庭裁判所に送致する。これらの少年については,家庭裁判所から緊急同行状の発付をうけ,強制的に所定の場所に連行することが,しばしば行なわれている。
(四) その他の問題少年
 虐待されている少年,自殺のおそれのある少年,迷子など要保護少年や,不良行為少年は,一八才未満で保護者のない者または保護者に監護させることが不適当な者であれば,児童相談所または福祉事務所に通告し,その他の場合には,家庭,学校,職場などに連絡し,注意し,助言するなどの方法がとられている。
 以上述べたところを図示すると,IV-9図とおりである。ところで,昭和三三年において少年警察の対象となった「非行少年等」の総数は約一二五万人をこえ,うち,犯罪少年は約五〇万人,触法少年は約三万人,その他の虞犯少年,不良少年,要保護児童などの数は約七二万人に達している。

IV-9図 少年警察処理手続

 これらの対象少年の警察における処理の実態を昭和三三年の統計によってみると,IV-10図のとおりで,犯罪少年については,総数約五〇万人のうち,約三八万人(七六パーセント)が検察官に送致され,のこりの約一三万人(二四パーセント)が直接に家庭裁判所に送致されている。触法少年については,三三,三八三人のうち,その約五七・四パーセントにあたる一九,一五〇人が児童相談所に送られたほか,四二・二パーセントにあたる一四,〇九七人については,警察かぎりでの措置がとられている。つぎに,虞犯少年,不良少年,要保護少年など七二〇,六〇六人については,その九八パーセントにあたる七〇五,九九二人について警察かぎりの措置がとられ,家庭裁判所に送致された者は七,三九七人(一・〇パーセント),児童相談所に通告された者は七,〇二五人(一・〇パーセント),福祉事務所に通告された者は一九二人(〇・〇三パーセント)となっている。このように,触法少年やいわゆる問題少年のうち,約七二〇,〇〇〇人ちかくが警察かぎりの措置―警察補導とよばれる―にゆだねられている現状は,いかに少年警察が少年非行対策に重要な機能をいとなんでいるかを示してあまりあるものといえよう。それだけに,いわゆる警察補導の適否は,今後の重大な関心事とならざるをえない。

IV-10図 非行少年等の警察における処理別人員と率(昭和33年)