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 昭和35年版 犯罪白書 第四編/第一章/五/2 

2 アメリカの少年裁判

 アメリカでは,少年犯罪の増加と凶悪化は近年顕著なものがある。犯罪で逮捕された者の人数は,一九五八年までの五年間に,一八才以上の者については毎年約一パーセントずつの増加をみせているにとどまるが,一八才未満の少年については,毎年,約一〇パーセントずつの増加を示している。一九五八年について前年比をみると,住民二五,〇〇〇人未満の中小都市で一二・六パーセント,二五,〇〇〇人以上の都市で七・一パーセント,全体として八・一パーセントの増加をみている。この増加率の内訳をみると,賍物罪が三三・八パーセント,売春などが三三・六パーセント,麻薬事犯が三一・一パーセント,禁酒法違反が二三パーセント,暴行が一四・七パーセントなどとなっている。なお,住居侵入は七・四パーセント,窃盗は七・二パーセント,強姦は五パーセントと,それぞれ,増加をみせている。さらに,一九五九年と一九五八年とを対比すると,一八才以上の被逮捕者数にはほとんど異動はないが,一八才未満の少年については,やはり五パーセント増加している。ところで,一九五八年に逮捕された一八才未満の少年の数は,被逮捕者総数の一二・一パーセントにとどまっているが,自動車窃盗にあってはその六四・一パーセント,住居侵入にあっては,四九・九パーセント,窃盗にあっては,四八・五パーセント,賍物罪にあっては,三〇・九パーセント,強盗にあっては二二・八パーセントを,それぞれ,少年がしめている。なお,強姦は,全体の一八・五パーセントをしめる。
 アメリカの少年裁判所制度は州ごとにちがっているので,各州の立法の模範としてナショナル・プロベーション協会が作成した一九四三年のアメリカ標準少年裁判所法(このモデル法はわが少年法にも影響をあたえた)を中心として説明する。
 同法によると,犯時一八才未満の者を少年とし,これを少年裁判所であつかうことにしている。各州の状況をみると,少年年齢は一八才未満が過半数で,他に二一才,一七才,一六才未満というのが,それぞれ数州ある。同法では,裁判官は,法律家で少年非行問題に経験と理解とをもつものであることを要し,裁判官の補佐機関として,レフェリーというのをおいている。レフェリーは,裁判官にかわって審理をし,結論をだし,その結論は,関係者に異議がなければ,裁判官の認定を経て裁判となる。異議があれば,あらためて裁判官が審判する。
 審理は,警察官その他一般私人の申請で開始され,非公開の場所で,形式にとらわれない方法ですすめられる。審理の結果,事実認定をし,有罪ならプロベーション・オフィサーなどの協力による環境調査や人格調査を参考にして処分をきめる。
 処分としては,つぎのようなものがある。
1 保護観察
2 公の収容施設送致(だいたい三年間位)
3 私立認可学校収容
4 個人委託
5 病院送致
6 刑事処分のため他の裁判所に移送(一六才以上の重罪にかぎる。刑罰はこの場合にかぎられる。ただし,各州の法律では,殺人罪などの重罪について,刑事裁判所の専属管轄を認めている例が多い)
 以上がアメリカの少年裁判所制度のあらましであるが,この裁判所も,イギリスの少年裁判所と同様に,刑事事件のほか,放任された少年,遺棄された少年,交友関係のよくない少年,保護者の監督に服しない少年などについて,保護処分を行なうものとしている。したがって,アメリカの少年裁判所も,イギリスのそれと同様に,きわめて保護的色彩のつよいものである。
 一九五八年に国際連合で発行した「少年非行の比較法的概観」Comparative Survey of Juvenile Delinquency, Part I, North Americaによれば,アメリカの少年審判は,(一)独立の少年裁判所によるもの,(二)家庭裁判所によるもの,(三)少年および家事関係裁判所によるもの,(四)刑事裁判所その他の裁判所の一つの部または係によるもの,の四型態の裁判機関によって行なわれ,これら(一)ないし(三)の型態による専門裁判所は,アメリカの二〇州において,一または二以上の郡(county)に設けられており,おそらくは,アメリカ全体の約三千の郡のうちで約五十郡弱に設置されているにとどまる,といわれている。
 なお,三人から五人の学識経験者(通常,教師やソシアル・ワーカーを含む)からなる委員会が審判をし,このような行政委員会によって,非行少年の指導や,非行少年に対する勧告や保護観察などの処分を行なっているものがあると報告されている。とくに,一九五三年一月一日から発足したニュージャーシー州の少年審判委員会(Juvenile Conference Committee)は,少年裁判所判事によって任命された治安判事(magistrates),プロベーション・オフィサー,警察および学校の代表者その他児童福祉に関心をもつ民間人からなる委員会で,この委員会は,レフェリーとして,少年非行事件を審判している。少年を施設に収容する必要がある場合を除き,事件はまったく少年裁判所が関与しないで処理され,その運用成績は良好であると伝えられている。このように,アメリカでも,家庭裁判所や少年裁判所のみが少年保護事件をとりあつかっているのではなく,一般の刑事,民事の裁判所や行政委員会や準司法的委員会がこれをあつかう例もあるのである。