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1 イギリス児童少年裁判法制 イギリスでは,青少年犯罪が増加しており,一七才以上二一才未満のいわゆる青年の犯罪の増加率は,一四才以上一七才未満の少年の犯罪のそれよりも高い。いずれについても,その主たる内容は窃盗である。人身に対する暴力犯罪では,青年の増加率がとくに高く,一九五八年の有罪人員数を一九三八年のそれと比較してみると,合計では五倍の増加であるが,少年と青年とに分けてみると,少年は一〇倍,青年は一三倍の増加となっている。もっとも,その内容としては,軽い傷害が大部分をしめ,殺人や傷害致死などはきわめて少ない。
さきにふれたように,英国では,八才から一三才までを児童,一四才から一七才未満の者を少年と称し,児童および少年は,殺人罪と傷害致死罪とを除いて,すべて少年裁判所で審判されることになっている。ただし,正式起訴事件indictable offencesの場合には,本人には陪審裁判を請求する権利があり,これが認められると,通常の裁判所で陪審裁判によって審判される。なお,一七才以上の者(英国では一七才が成年である)は,通常裁判所で審判されるが,二一才未満の青年については,裁判所が,軽懲役を言い渡すべくかつ短期収容所への収容が可能であるなどの場合には,少年と同様の保護処分に付することが認められている。 少年裁判所は,原則として,三人の素人裁判官で構成され,法律家の書記がこれを補佐する。審理は,刑事法廷以外の場所で,非公開で行なわれ,公訴官(警察官が一般に公訴を行なう),両親,保護観察官などが出席して証拠調をなし,審理がおわると事実認定を行ない,有罪の場合には,裁判所所属の保護観察官や医学,心理学の専門家に環境調査や人格調査をさせ,これらを参考にして処分を決定するのである。 この処分には,つぎのような種類がある。 1 絶対的免責 2 条件付免責 3 誓約 4 保護観察命令 5 罰金刑(児童につき二ポンド以下,少年につき一〇ポンド以下) 6 認可学校に送致または適当な個人に委託 7 出頭所への出頭 8 短期収容所収容 9 ボルスタル訓練 ただし,ボルスタル訓練は青少年に対する特殊の重い不定期刑であるため,治安裁判所の一部である少年裁判所では言渡はできず,上級の四季裁判所に送致し,同裁判所で審理の上言い渡される。 ところで,イギリスにおける正式起訴犯罪の終局処分をみると,IV-5図のとおり,なんら継続的な効力をもたない絶対的免責のしめる割合は,きわめて低い。保護観察は,イギリスではながい伝統をもつが,青少年の事件の大部分に適用されるわけではなく(少年では三四パーセント,青年では二七パーセントである),窃盗や詐欺などの財産犯罪でも保護観察するまでの必要のないものは罰金に処する。罰金刑のしめる割合は,青年にもっとも高く,三六パーセントである。 IV-5図 イギリス犯罪少年(14才以上17才末満)の正式起訴犯罪裁判結果別百分率(1958年) 保護観察は,多くの専従の保護観察官が,対象者を指導監督し,親切に,あらゆる世話をしながら,裁判でさだめられた遵守事項を厳格に履行させている。また,保護観察中に二,三〇人ずつを一定の家屋に居住させて指導監督することもある。対象者が条件に違反し,情状が重いときは,身柄の収容をともなうボルスタル訓練または認可学校送致のような処分に変更される。ボルスタル訓練は,特殊の施設における訓練で,その拘禁の期間は九ヵ月以上三年以下とされ,通常は,一年九ヵ月前後収容されている。認可学校では,収容期間は原則として三年で,いずれも,比較的長期間の徹底した訓練と教育がなされる。短期収容所は,これよりも軽い者を収容し,原則として三ヵ月まで,作業やスポーツなどによって,厳重な訓練と教化が行なわれ,ショート,ショック,シャープの三S主義がとられている。罰金は,少年についても二〇パーセントをしめているが,短期収容所の処分は,罰金の支払不履行の場合にも活用される。その他,軽微な少年犯罪に対する出頭所出頭は,その数は少ないが,通常,毎土曜の午後二時間ずつ,五回出頭を命じ,出頭所では,学課のほか,厳格な訓練が行なわれる。なお,IV-5図は正式起訴犯罪についてのものだから,純粋の交通事件は含まれていない(交通事件はイギリスでも最近増加しているが,青年でも原則として罰金に処し,犯情の重いものは,何年でも免許証を剥奪する措置が講ぜられている)。全般的にみて,保護主義といっても,罰金その他の厳格な処分を併用し,保護観察も,遵守事項を遵守させるよう十分な監督が行なわれ,悪質な違反者に対する処分は厳重である。 IV-18表 イギリス犯罪少年(14才以上17才末満)正式起訴犯罪裁判結果別人員と率(1958年) IV-6図 イギリス犯罪青年(17才以上21才未満)の正式起訴犯罪裁判結果別百分率(1958年) IV-19表 イギリス犯罪青年(17才以上21才未満)正式起訴犯罪裁判結果別人員と率(1958年) |