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 昭和35年版 犯罪白書 第四編/第一章/四/1 

四 少年犯罪の特質と原因

1 少年犯罪の特質

 原因の徹底的な究明と,その治療法や矯正方法をうちだすことは,今後の問題であるが,それにしても,戦後の少年犯罪は,表面からみて,特異な様相をみせている。少なくとも,いくつかの特徴的な性質が注目される。
 第一に考えられるのは,その即行的な性質である。欲求を満足するのに,熟慮の経過をたどらず,ただちに無計画に行動にうつす。いわば短絡反応的な傾向をもっている。短絡反応は,精神薄弱者などによくみられるところで,こういう即行的性質は,少年の精神の未成熟に原因するものであろう。第二に考えられるのは,享楽的な性質である。まず,四周の事情を無視して,盲目的に,即行的に欲望に直進する反面,その欲望は,とくに急迫した欲望ではなく,二次的な,享楽的なものである。かつては,少年についても,犯罪や非行においつめるものは,経済的な困窮であるとされたが,最近すなわち昭和三〇年以降のケースをみると,生活の苦闘の結果というよりも,享楽追及にあらわれる葛藤という面が多い。性犯罪などにあらわれるのは,この一面であろう。第三の特徴は,少年犯罪が集団性を帯びていることである。単独の犯行であるよりも,集団の犯行が多い。犯罪から生ずる罪責感,孤独感,不安感を仲間意識のうちに解消する。第四の特徴は,攻撃的な性質である。大人や権威に対してつよい反抗心をもち,それに自分が権威をもちたい欲求もからみあい,露骨に攻撃的になっている。身体的には成熟しているから,それは暴力となってあらわれる。第五の特徴は,いわば犯行の過剰性と名づけることのできる性質である。その犯行は,表面にあらわれている欲望を充足するということからみると,すこぶる過剰である。金をとるだけで十分であるのに,人を殺し,動物まで殺す。無動機な犯罪とか,理由のない犯罪とかいわれるものは,この過剰性の一面であろう。
 少年犯罪のこれらの特質は,おしなべて,今日,大きく前景にでてきているものであるが,なかでも,最近にとくに目だつのは,享楽性と過剰性である。それは,戦後にあらわれた消費生活の増大という一般的背景をもった少年像の変化の一面をあらわすものといえないだろうか。