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 昭和35年版 犯罪白書 第三編/第三章/六/3 

3 更生(緊急)保護の問題点

 更生(緊急)保護に関し問題となるべき点は,更生保護会と起訴猶予者に対する保護についてである。

(一) 更生保護会

 更生保護会は,もともと民間の篤志家によって設立されたものであるが,戦前とちがって,戦後におけるこの種の事業の運営は,その財産的規模がよほど大きくないと困難である。そこで,更生保護会に対する国の財政的援助ということが必要となるが,III-57表は,更生保護会における収容者一人あたりの平均保護日数をみたもので,委託の日数は,昭和二八年の一六・三日から昭和三三年の二五・七日としだいに長期化しているものの,予算上の委託日数と比較すると,なお,かなりのへだたりがある。これは,委託保護を要する実際上の対象者が予算上の保護人員をはるかに上回るため,やむを得ず一人あたりの委託保護の日数を短縮するところから生じたものである。

III-57表 更生保護会の一人平均保護日数

 保護の日数がどの程度でたりるかは,もとより一がいにきめられないが,再犯の可能性ののこされているこれら前歴者に対して,補導の効果を確実にし,かつ,本人に適応した就職先をあっせんし,いちおうの衣食住の目やすをつけてやる程度の日数をかけることは必要であろう。国の予算的措置が望まれている。

(二) 起訴猶予者に対する保護

 昭和三三年における起訴猶予者の総数は,五二六,一三三人というぼう大なものであるが,このうちには,偶発的な事故や一過性の犯罪にすぎないものも少なくなく,この種の起訴猶予者は,自己の責任において再犯に陥ることを防止することができるが,その反面,本人の素質やそのおかれている環境からみて再犯に陥る危険性のないとはいえない者も,また,相当数いるのである。
 矯正にせよ,保護にせよ,その効果が顕著なのは初犯者か,前歴の少ない者かに対してであることを考えると,起訴猶予者に対する保護こそ,もっとも効果が期待されうるのであって,これらの者に対し適切な保護の措置を講ずれば,かなりの数を再犯から防止できることとなろう。
 しかるに,現在の更生保護では,これらの起訴猶予者のうち,親族,縁故者からの援助や公共の施設からの保護をうける見込みのうすい者に対してのみ,保護の手をさしのべているにすぎないのであって,その人数は,昭和三三年には,わずか一三,六九〇人にすぎず,起訴猶予者全員の約二・四パーセントである。しかも,起訴猶予者の保護は,短期間の収容保護のほかは,帰住援護,社会施設への紹介,一時の相談など一時的な保護にとどまり,その後の継続的な補導の手は,ほとんどつくされずにおわっている実情にある。そこで,もし,起訴猶予の段階で,起訴猶予者のもつ比較的初歩的な素質的ないし環境的犯罪性に対して,より徹底した保護を講じようというのならば,今日の更生(緊急)保護の域をこえて,これに保護観察を実施する方向が考えられなければならないことになろう。そして,もしこの方向にすすむならば,再犯防止の面ではきわめて効果のあるものとなるのではなかろうか。
 ノルウェーでは,起訴猶予者に対するプロベーションをふるくから実施している。この国では,起訴猶予処分に,通常,その後二年間罪を犯さないという条件が付され,うち,必要のある者には,検察官の決定によって,二年間保護観察(プロベーション)に付することかできる。この処分は,主として二五才未満の者に適用され,二五才以上の者には,あまりもちいられていないようである。