三 刑法の改正 明治一三年(一八八〇年)の刑法は,施行以来いくばくもなく,時代おくれのナポレオン刑法の飜訳的成典であるとの批難があって,改正の話がおこっていた。それも道理で,一八一〇年のこのナポレオン刑法は,ナポレオンの勢威のおもむくところ,各国ともに,刑法においても,その影響をうけたが,一九世紀後半に入ると,ようやく,その覊絆を脱し,新しい刑事政策を求めて,論議がさかんになったからである。かくして,屡次の草案を経て,明治四〇年(一九〇七年)に,改正刑法が制定された。 改正刑法の特色は, 一 裁判官の量刑の範囲をひろめ 二 執行猶予制を採用し 三 仮出獄を許可する制限期間を,刑期の四分の三から三分の一に短縮し 四 刑事責任年齢を一二才から一四才にひきあげ たなどに認められ,それは,二〇世紀初頭の刑法として,刑事政策の方向に一歩をすすめた立法であった。 一九世紀に発達した刑事政策上の考え方に,執行猶予ということがある。刑法は,これを採用した。執行猶予は,英米系統のプロベーションではなくて,ヨーロッパ系統に属する制度であるが,刑法が,後者を採用したのは,当時の立法が全体としてヨーロッパ系統のものであったところから当然とされよう。両者ともに,自由刑の科刑を避けようとするものではあるが,英米系統のが犯罪人の積極的な改善を目的とするのに対し,ヨーロッパ系統のは,消極的に,短期自由刑の弊害を除くというところに意義をもたせたものであった。非拘禁的処遇というところまではゆかず,いわば,刑の宥免というにとどまっている。そして,これによって,刑の執行を猶予された者は年々増加する傾向にあった。
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